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Coffee Break : Age13

Coffee Breakは本編ではありませんが、

その時々の物語の背景となる為、若干ネタバレ要素が含まれます。

気になる方は飛ばして読んで下さい。

 お兄様がレイの近衛をやるようになってから、

 気がつけば2年が経っていた。


 最近では必然的に、レイとお兄様と3人で過ごすことも多くなり、

 お兄様も非番の日は家に帰ってくる事が増えてきた所為か、

 私も幼い頃の様に、夜フラフラと動き回る事も無くなっていた。


 勉強を終え、いつものようにレイとお兄様の待つ談話室へ行くため、

 城の長い廊下をひたひたと歩いていると、

 半年程前に父に連れられてお屋敷に伺った、

 アシュレイ伯爵夫人が、冴えない顔で客室から出てきたのが見えた。


 マチルダ・アシュレイ伯爵夫人は父の旧友の娘さんで、

 歳もまだ26と若く、小さい頃は遊んでもらったりもした。

 お屋敷に伺ったのは、伯爵のお祖母様が亡くなられ、

 お悔やみの挨拶をするためだった。


「ご機嫌様。お久しぶりですわマチルダ様」

 伯爵夫人は私に気がつくと、

「お久しぶりですレティアーナ様」

 と会釈をしたが、その笑顔には力が無かった。


「今日は何の御用で王宮に?…どうかなさったんですの?」

 私がそう言うと、

「いえ…なんでもありません」

 と青い顔で答えた。


「遠慮なさらないで下さい。ワタクシもまだまだ子供で、頼りにならないかもしれませんが、話を聞くくらいなら出来るかと思いますわ」

 とりあえず中へ。と、夫人が出てきた客室へ誘導する。


 ソファーに座ると、躊躇ためらいがちに、夫人が口を開いた。

「実は、先日陛下から王宮にご招待頂いたのですが、その時、真珠のネックレスを無くしてしまって」

「真珠のネックレスを?もしかして、半年前にマチルダ様が付けていらしたネックレスですか?」


 お悔やみの挨拶に伺った際、

 夫人は喪服姿に、大粒の真珠のネックレスを付けていたことを思い出した。


「はい。あのネックレスは伯爵家嫁いだ際に、伯爵のお祖母様から頂いたもので…今では形見になってしまいましたが、お祖母様が若い時に同じようにお祖母様のお母様から頂いた物らしいのです」

 今にも泣きそうな顔で夫人は語る。


「晩餐会の後、失くさないようにとポーチの中にしまっておいたのですが、いつの間にかポーチごと失くなってしまって、今日は許可を頂いて、心当たりのある所を見て回って居るのですが…」

 みつからなくて…と夫人は顔を俯けた。


「最後にポーチを見たのは何時なんですの?」

「翌日の舞踏会までは持っていたと思うのですが、その後どうだったかは思い出せなくて」

 そうなると、舞踏会場で失くした可能性が高いんじゃないだろうか。


「舞踏会で近くにいた方とか、挨拶した方とか、移動した場所は覚えてらっしゃいます?」

「ええと、主人と一緒に陛下や女王陛下にご挨拶をした後、殿下にご挨拶をして、その後はホールを回ってお世話になってる方々に挨拶をして、軽くダンスをした後ビュッフェで食事をしに別室へ移動して…」


 そこまで言った所で、あっ…と夫人は声を上げた。

 しかし、先程よりも顔色が悪くなっている。


「あの時、確かイヤリングを落としてしまって、うっかりテーブルにポーチを置いたような気がします。その後すぐに、デメリンドご夫妻にお会いして、話し込んでしまって、そのまま忘れて部屋に戻ってしまったかもしれません」

「じゃあもしかしたら、そこにあるかもしれませんわ」


 私はホールに向かおうと立ち上がると、相反して夫人は、座ったまま首を横に振る。

「ホール付近はもう探したんです。詰所の方にも届けがないか聞いたのですが、見つかりませんでした」


 とうとうぽたぽたと、夫人の目から涙が零れ落ちる。

「大切なものだったのに、ちゃんと部屋の鞄にしまっておくべきでした。夫にも無くなったお祖母様にも、合わせる顔がありません」


 両手で顔を塞ぎ、シクシクと泣く夫人を前に、

 私はどうしていいのかわからなくなり、

 話を聞くと言った手前その場を後にするわけにもいかず、

 オロオロと夫人に何と声をかけていいか、考えあぐねた。


「う…ええと……まだ、諦めるのは早いですわ!もしかしたら、あの場に居た方がなにか見ているかもしれませんし………そ、そうですわ!デメリンド侯爵夫人が何か見てるかもしれませんわ!ワタクシ今度、お父様に頼んで、デメリンド侯爵夫人にお会いしてお話を聞いてきて差し上げますわ」


 私の言葉に、夫人はなんとか手で涙を拭い、

「ありがとう御座います。ですが、これ以上皆さんにご迷惑お掛けするわけには行きませんから…話を聞いて下さっただけで少し気が楽になりました」

 と儚く微笑み、


「ありがとう御座いました。失礼します」

 と、もう一度お礼を言うと、夫人はよろよろと部屋を後にしたのだった。


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