絶望の城 4【フィオ編@ゲイリー】
=====
嫌がるキツネを宥めながら王城へと向かう。由々しき事態に陥っているのは間違いなかった。
西門から城下に入り疲れきった兵士達が事後処理を行っている間を抜け、王城の門へと進んで行く。
一歩中に入るとその光景に愕然とせざるを得なかった。
その殺し方には見覚えがあった。殿下が暴走された時は必ずと言っていい程残忍な迄に血を求めるからだ。
広場の樹木は真っ赤に染まり、各施設の壁の至る所にペンキをぶちまけたような跡が幾つも見受けられた。
事後処理に当たっている兵士達の顔も真っ青になりながら微かに震えている。
「ジャミル副団長、リオネス殿下とウルフ殿は既に中へと入って行かれました。悲鳴の方は途切れたのですが…殿下達大丈夫でしょうか……」
事後処理に当たっていた雪狐の兵の1人が駆け寄り報告する。
「いくら暴走されているとは言え敵と味方の区別もつかなくなっているとは思いたくないな…ご苦労、後は我々が何とかしてみる。引き続き事後処理に当たってくれ」
「ハッ!リオネス殿下をどうかよろしくお願いします!」
何とかと言ったもののどうしたものか。普段ならば勝手に静まってくれるのだが…
チラリとキツネを見れば先程よりもガタガタと震えて身を縮こませている。
少々可哀想だが、神獣の事は神獣に聞く意以外方法がない。背中をさすり元気付ける様に私はキツネに話し掛けた。
「雪狐、リオネス殿下の場所は判りますか?まずは詳しい話を聞きに行くのが得策かと」
「大丈夫よぅ…リオネスなら西棟から…多分王の間に向かってるわよぅ」
「判りました。では王の間へ向かいましょう。行けますか?」
キツネは私の袖の裾を握り締めコクンと小さく頷くと私の転移に合わせながら城内へと転移を繰り返した。
王の間へと続く西棟を繋ぐ廊下でリオネス殿下を待つ。
それほど時間も置かずに西棟の扉が開き、リオネス殿下とウルフが顔を出した。
「うぉっ!なんで旦那がここに?!」
「ゲイリー!雪狐も!よかった。間に合ったんだな」
驚いた顔を覗かせた2人は直ぐに顔を引き締め状況を掻い摘んで説明してきた。
夢想の兵が報告した内容とほぼ同じだったが、何故殿下が暴走したのかは話を聞いても判断がつかなかった。
「やはりゲイリーでも判らないか…とにかく兄上を保護するのが先だ。まだ死んでいなければいいんだが」
おそらく殿下の転移速度は通常よりもかなり早くなっている筈だ。既に決着がついていてもおかしくはない状況だろう。
誰となくお互いに顔を見合わせ王の間へと足速に駆ける。
扉に手を掛けると覚悟を決めて一気に重厚なドアを開いた。
目の前に広がるのは普段と何ら変わらないであろう整然とした部屋の様子だった。
殿下が来たような形跡もエルネスト王がいる様子も見受けられなかった。
「ここではないのか?」
なら何処に?とリオネス殿下が呟く。
「雪狐、判らないですか?」
後ろで震えていたキツネに問えばキツネは目を伏せて意識を集中させる。
眉間にシワが寄り、額からは汗が滲んでいた。
「フィオの怒ってる感情が邪魔してるから判りにくいけど…多分地下……かも」
「地下?この城に地下なんてあったか?」
「西棟付近の牢の事でしょうか?あそこは一応地下に当たりますし」
「ううん。殆どこの真下くらいの場所よぅ」
真下と聞いて私はリオネス殿下と顔を見合わせ眉を顰める。
王の間の下一階は謁見室になっている。流石に私はそこに入ったことは無いが…
「謁見室に何か仕掛けがあるのだろうか?リオネス様は何かご存知ありませんか?」
「聞いたことがないな。王しか知らない何かがあるのであれば可能性はあるかもしれないが」
「王しか知らない?お手上げじゃねぇかそれ」
男3人で頭を抱えていると不意にキツネが「あ」っと声を上げる。
「謁見室じゃないけど、王しか知らない場所なら知ってるわよぅ」
「「「何!?」」」
私達が驚きの声を上げてキツネを見れば、キツネはスッと東の廊下を指差して説明した。
「東の裏庭の噴水。水を抜いて噴水の石像を回せば階段が出てくるのよぅ。昔それに気がついて遊んでたら先先代の王に物凄く怒られたのよぅ」
「何やってるんだお前は…いや、それよりその先がこの真下の地下に繋がっているのか?」
リオネス殿下が呆れ気味にキツネに聞けばキツネはふるふると首を横に振る。
「物凄く怒られたからその先は見てないわよぅ。でもフィオの気配があっちの方でするから可能性は高いかもぅ…」
縮こまって言うキツネの言葉に私達は顔を強張らせ喉を鳴らした。




