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絶望の城 3【フィオ編@ゲイリー】

「あらぁ?ルール違反じゃないわよぅ?だって攻撃はしてないものぉ〜。防衛よ防衛」

 すっごい音したわねぇ〜とあっけらかんと言ってキツネは少年に駆け寄ると小さな氷を手の上で作り、少年の額に当てがった。よく見ればそこに大きなタンコブが出来ていた。


「むぅ〜。僕は津波しか使えないんだ!邪魔しないでよ」

 頬を膨らませて拗ねる少年の腕をキツネは引っ張ってその場に立たせる。

 にこにこ微笑みながら少年の頭を撫でると「諦めなさいな」といって少年を宥めた。


 戦場とは思えない和やかな空気が辺りを包み込んだ。

「ねぇ、貴方がここにいるって事は貴方の主もここにいるって事ぉ?」

 キツネが首を傾げながら少年に問うと、少年は素直に首を横に振る。

「居ないよ。ここには居ない。僕嫌だな。こういうの嫌いだし向いてないのに…そろそろ限界だよ……」

 言いながら少年は眠たそうに大きな欠伸をする。その姿は薄っすらと消えかかっているのが遠目でも判った。


 キツネは頭をまた撫でて、少年を慰めるとうんうんと頷いて少年に同意してみせた。

「そうそう。貴方に戦争なんて無理よぅ。お家に帰っておやすみなさい」

 キツネの言葉にやはり素直に少年はコクンと頷く。

「おやすみ〜…みんなごめんねー」

 と、少年はうつらうつらと言いながら空気に溶け込むように消えていった。


 なんとも言い難い空気が辺りを包み込む。

 鯨波騎士団も唖然としている様子が伺えた。


 完全に毒気を抜かれたこの状況で、やはりあっけらかんとキツネは高らかに明るい声で宣言した。

「はいはーい♪戦闘再開するわよぅ〜!死にたくない子は白旗上げてね?」


 キツネはクジラが頭突きした海面の氷を消すと再び船首へと戻ってくる。

 ハッとして攻撃指示を出そうとした矢先、鯨波騎士団の戦艦から次々と白旗が掲げられていった。



 =====



 降伏した戦艦を陸へと誘導し、兵を捕縛する。

 思いのほか早く決着がついた事に呆気なさを感じていた。

 夢想に所属して実戦が初めてというわけではないが、戦争という意味では初戦闘と言えた。

 僅か一刻程で鎮圧し、事後処理の方が時間がかかっている位だった。


 処理がひと段落しようかという頃には姫君の氷はだいぶ溶けてしまっていた。


「団長!ジャミル団長はおられますか?!」

 何処からか夢想兵の声が聞こえてきた。

「ここに居る。どうした?」

 振り向けばそれは殿下について行った夢想兵達だった。


「団長!もしやこちらの戦闘は既に終わって居たのですか?」

「ああ、戦闘は割と早く方がついたんだが、処理がな。そちらも終わったのか?殿下はどちらにおられる」

「それが大変なんです!殿下の様子が朝からおかしかったんですけど、ずっと暴走なさったままで徐々に様子がおかしくなって今は城内でエルネスト王を探しながら手当たり次第に鯨波兵を襲っています」

「なんだと!?」


 今朝方のリオネス殿下の報告で、殿下が暴走なさっているという話は聞いていたが、朝から今までずっとだと…?

 今まで怒りで暴走することはあっても長い事その状態を保つ事など未だかつて無かった。

 一体殿下の身に何があったと言うんだ…


「リオネス様が早急にジャミル団長と雪狐様にお越し頂くようにと我々がこちらに来た次第です。殿下の様子は私から見ても普通ではありませんでした。団長!どうか殿下をお願いします!」

「判った…雪狐!聞いていましたか?」


 近くにいたキツネに声を掛けると、キツネがピクリと耳を動かし城を見上げ唖然としている姿が目に入った。


「雪狐、聞いていなかったんですか?今すぐ城にいる殿下の元へーー」

「ゲイリー駄目、あそこに行ったら殺される…」


 真っ青な顔で城を見つめながらキツネは言う。何時もの底抜けに明るい物言いと違いかなり深刻なキツネの様子を怪訝に思い眉を顰めると、キツネは私をゆっくりと見上げ震える声で呟いた。


「あそこに居るのはもうフィオじゃない。神獣を取り込んだ何か(・・)よ」

 禍々しい気配を辿りながらキツネは震え上がる。戦艦の船尾ではだいぶ溶けてしまった氷の水が甲板に大きな水溜りを作り濡らしていた。

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