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絶望の城 2【フィオ編@ゲイリー】

 =====



 ーーノースプリエン海上


 明け方には既に陣を組み開戦予定時刻よりも早く海上では前哨戦が始まっていた。

 陸地の様子はわからないが、交渉がかなり早い段階で決裂してしまったのが原因だった。


 エッカート率いる雪狐騎士団が衝角戦を行い、私が率いる夢想騎士団は一部の戦艦の内部へ侵入し船の乗っ取りを担当した。


 私は侵入先を指示し、船の上から戦況を確認しつつ自艦の防衛に気を配っていた。

 負けることは無いと自信があるが、万が一負けたとしてもこの船だけは沈ませる訳にはいかなかった。


(せめて国へ返して差し上げなければ…)


 船尾の大きな氷を包んだシートへと視線を移す。撤退も考えたが、ここからウイニーへはあまりにも遠い距離だった。季節も南西の風が多く、殆ど向かい風となってしまう為戻るには効率が悪すぎた。

 何より殿下に理由を明かさずに撤退は不可能だ。エルネスト王を倒す前に知られてしまえば今後暫くは王都攻略が不可能になる可能性を危惧した。


 巻き込んでしまった上に死して尚戦場を連れ回すのは心苦しかったが、いた仕方なかった。

 遺体が腐ってしまわない様にあの後すぐにキツネに頼んで氷の中に姫君を閉じ込めたが、暑さはだいぶ落ち着いて来たものの今はまだ夏の名残が残る初秋。

 あれからだいぶ氷が溶け、既に3分の2程の高さになっていた。


 キツネに頼んでまた氷を貼り直して貰いたい所ではあるが、この艦の周囲の海面に氷を張り巡らせる事と、鯨波の艦隊から放たれる火矢の火を消す作業で手一杯の様子だった。

 おそらくこの戦いで一番忙しいのはキツネだろう。


 夢想が着々と戦艦を奪取し、沈黙する船が徐々に増えていく。

 エッカート率いる雪狐騎士団も戦艦を匠に操り衝角を鯨波の戦艦へと突き刺して行く。

 旋回しながら火矢を放ち、次の船へと向かう。

 夢想兵は占拠した戦艦から黄色い狼煙を上げて占拠したことを雪狐に合図し連携を計る。


 船体は鯨波の船の方がやや大きく、数も圧倒的に鯨波が勝っていた。

 しかし船の性能は誰の目にも明らかな位こちらが勝っている。

 航行スピードは勿論、旋回の切り替え、消音・不可視シールド、それに何よりキツネの消火が少数ながら無敵艦隊を実現させていた。


「ゲイリー!バシリー!津波来るかもぉー!」

 船首の上を駆け回っていたキツネが大きな声を張り上げる。

「船を拿捕(だほ)していた夢想兵に帰還を促しシールドの準備を行え!急げ!!」


 船首付近にいた伝令が赤い狼煙を上げて合図を送る。

 各艦隊に配備された魔術師達が魔法陣に立ち呪文を唱えシールドを展開する。

 シールドの展開が完了したと同時にキツネの宣言通り鯨波の艦隊とこちらの艦隊の間に大きな蒼いクジラの姿が現れる。


 戦艦よりも大きなクジラは大きな声を上げると海面をのたうち回るように暴れ出す。

 鯨波の戦艦も巻き込む形で激しい波の揺れを生み出すと、クジラは一旦海の底へと潜り込んだ後、海面へ一気に浮上して空高くへと巨体を(ひるがえ)した。


「来るぞ!!衝撃に備えろ!!」

 船体へ掴まり誰もが津波の衝撃に備える。すると船首の先に立っていたキツネが眩しそうにクジラを見上げながら明るい声で返事を返してきた。

「おっけー!まかせてん♪」


 そう言ってキツネは海面に分厚い氷を張り巡らせる。

 ヒュッと音を立ててクジラが身体を空中で捻らせ落下体制に入り重力に身を任せ、頭から海へと突進する。


 ーー刹那。石の壁が割れるような衝撃音が会場に響き渡り、大きなクジラは氷の上で光の塊となってその場から姿を消した。


 僅かな振動が海面を揺らし、一堂は暫し呆然とする。

「いえい♪」

 と、キツネが1人勝利のポーズをとっていると、光の塊は12〜3歳の少年の姿を成して氷の上に現れた。

 頭をさすりながら蹲る少年の目には大粒の涙が滲んでいた。


「痛いよ雪狐…ルール違反だ…」

 恨めしそうに顔を顰める少年を見て、キツネはヒョイっと肩を竦めた。

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