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黄金の瞳 1【フィオ編】

※ストーリー「黄金の瞳」は残酷な描写があります。

 血生臭いのが苦手な方はご注意下さい。

 =====



 王都付近の小さな村に到着すると、ゲイリーへといつものように手紙を送り準備が整ったことを知らせる。

 既に辺りは夕闇に包まれ兵士達は最後の休息を楽しんでいた。

 酒を煽る者、馬鹿騒ぎする者、黙々と夕飯を口に運ぶ者…


 いつもならば兵を労い明日の為に各々に声を掛ける所だが、とてもそんな気分にはなれなかった。

 宴の挨拶は兄上に任せ、1人テントの中へと入って行く。


 地べたに座りポケットから本来ならばここに有る筈の無い懐中時計を取り出し祈るように握り締める。

「レティ…!」


(君は今何処に居るんですか?)


 アスベルグからウイニーへ派遣した偵察隊は2日後には現地の兵と合流し、その中にクロエさんが居たおかげで異変を知ることが出来た。

 丁度僕が手紙を届けられなくなった日からレティの姿が忽然と消えてしまい捜索している最中だったという。

 クロエさんは目撃情報や宿の主人の証言で難民キャンプから来たリドの兵に怪我人の処置を頼まれついて行ったきり行方が途絶えたという所まで突き止めていた。

 そして偵察隊も協力し捜索範囲を広げた所、町外れの東側にある小屋で散乱した薬とこの懐中時計を見つけたのだという。


 偵察隊はクロエさんと相談し、一度アスベルグへ戻ると僕の時計をレムナフに渡し、再び捜索へと向かった。

 レムナフからの報告が来たのは今日の昼頃の事だった。


 僕は呪文を唱え、催眠を促し夢の中へと落ちていく。

 ゆっくりと目を開けると、見慣れた雲の上に立っていた。


「ユニコーン!出てこい!レティはどこにいる!!」


 言いたい事は山程あるが時間は限られている。とにかくレティを探さなくては…

 レティがクロエさんに何も言わずにいなくなるなんて事は考えられないし、懐中時計が見つかった状況を考えれば間違いなく拉致されたという事だろう。

 犯人を断定するにはまだ早いが、エルネストが関与していないなどと言い切れもしないのだ。


 雲の合間から渋々といった感じでユニコーンが出てくる。

 ウマの姿ではなく人型をとって僕の前に現れた。その表情はかなり浮かない顔をしている。


「フィオ…俺……ごめん」

「謝罪は結構です!とにかくレティを探さなければ」

 雲に膝をつき、眼下に目を配る。ハイニア大陸は闇に包まれ所々から民家の光の塊が見て取れた。

 海の方を見ればゲイリー達の船の灯りも見える。


(くそっ流石に広い上に夜では何処を見ればいいのかわからない!)


 苛立ちながら探していると、後ろで絞るようにユニコーンが呟いた。

「…わからない」

「何?」


 何を言ったのかよく聞き取れなかった僕はユニコーンに振り返り尋ねる。

 するとユニコーンは泣きそうな顔で震えながら悲痛な叫びを浴びせてきた。

「判らないんだ!俺は媒介となる人間が近くに居なきゃ懐中時計から動けないが、気配を追う事位は出来る!でも、昨日からずっとレティアーナの気配が何処に在るのか判らないんだ!!こんな事は初めてだ!!」


 ユニコーンでもレティが何処に居るか判らないって…どういう事だ?

「それは拉致した人間が一種の結界を張っているという事か?」

「判らない。そういう事が人間に出来るのか知らない。でも気配が追えない理由、一つだけ心当たりはある…」


 真っ青な顔で俯くユニコーンに言い知れぬ不安を感じる。

 その心当たりは聞きたくないと頭の中で警鐘が鳴り響いていた。

 ジッと睨み付けるようにユニコーンを見つめた後、踵を返しまた眼下へ目をやる。


「……エルネストがレティを拉致したのであれば向かう先は王都の筈です。街道周辺を辿ってみればーー」

「フィオ!!」

 叫んだ声は悲鳴に近かった。掠れ、震えるその声でユニコーンは僕に残酷な可能性を突きつけてきた。


「レティアーナは……レティは多分もう、この世界には居ない」

「!」


 何を言っているんだ?このウマは…

 この世界に居ないとはどういう意味だ?


「ハ……ハハッ!こんな時に笑えない冗談はやめろ!意味わかんねぇよ!この世界にレティが居ない?なら彼女は何処にいるっていうんだ!!」

「死人は転生の門をくぐって別の世界へ行く。だから多分…」

「ふざけるな!!」


 ユニコーンに駆け寄り思い切り顔を殴り飛ばす。

 ユニコーンは避ける事もせず僕の拳を思い切り喰らい倒れ込んだ。

「…俺を殴ってもレティアーナは戻って来ない」

「…!」


 口の中を切ったのかユニコーンは口端から流れ出た血を拭いながら立ち上がる。

 殴った僕を睨むわけでもなくただその場に立って何かを堪える様に俯いていた。


「レティが死んだなんて……嘘だ!僕は信じない!!」

「フィオ…」


 嘘だ…そんな事あり得ない。数日の間に何が起こったっていうんだ。

 エルネストが拉致したんじゃないのか?レティを利用しようとしてたんじゃないのか?何故殺す必要がある?!

 彼女が死ぬなんて……


 胸の奥が濁る様な不快な感覚が襲い掛かる。目の前が朱くなり耳からは大きな耳鳴りが響いていた。

「フィオ…?」

 目の前のユニコーンの姿がボヤけていく。大きな白い霧が現れ、僕を包んでいるのかユニコーンを包んでいるのかすら分からない。

 耳鳴りが激しさを増し耐えられなくなり耳を塞ぐ。


「フィオ!!止めろ!!やめてくれっ!!」

 ユニコーンの悲痛な叫びを最後に()はその場から姿を消した。

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