騎士の哀悼 1【フィオ編@ゲイリー】
※ストーリー「騎士の哀悼」は残酷な描写があります。
血生臭いのが苦手な方はご注意下さい。
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殿下と連絡を取りながらノースプリエンを目指して4日が過ぎた。
昨日は〈消音・不可視シールド〉を駆使し、全艦鯨波に気付かれる事無く無事にウズマファスを通過した。
王都での激戦を考慮し、不要な戦闘は極力避けなければならない。
海岸付近を避け、時折現雪狐騎士団団長バシリー・エッカートと連絡を取りながら沖合をひたすら進む。
船に関してはエッカートの方がよく学んでいる為、航行指示の中心は自然とエッカートになっていた。
季節的にも南西から強い風が吹き、時折夕立が降ったものの快晴続きで航海は順調に進んでいた。この分ならば明日明後日にでもノースプリエンに到着するだろう。
船長室の窓から海を眺め暫し休憩がてら茶を嗜んでいると、突然キツネが船長室の扉を乱暴に開け駆け込んできた。
「大変大変大変大変!ゲイリー!早く来て!!鯨波!鯨波の騎士団がいる!!」
「何?!」
キツネに言われ慌てて外へと飛び出す。
キツネが指を指した方向を望遠鏡で見れば奥に小さく黒い船が浮かんでいるのが見えた。
「エッカート殿に連絡を!それと全艦に警戒を促せ!」
私が叫べば途端に甲板が慌ただしくなる。
方向は南東。数はこの場所からはまだ判らないが…一艦しか見当たらない。
何かの罠だろうか?
「ゲイリー殿!船はどこに?!」
程なくして他の艦から移動してきたエッカートがこちらに駆け寄ってくる。
望遠鏡を手渡し方向を示すと、エッカートはそれを確認して難しい顔でこちらに向き直った。
「罠でしょうか?あの一艦しか船は見当たらない様ですが…」
「私もそれを考えていた所だ。だが我々の行動が筒抜けになっていたとは…後方から艦隊が来るような様子は?」
ウズマファスは戦闘を避けて通過して来た。シールドを張っていたといえ何かしら情報が漏れていたとしたら挟み撃ちされる可能性もあった。
その疑問に答えてくれたのはキツネだった。
「んー?ないわよぅ?来たとしてもせっこさんが海面氷漬けにして足止めは出来るし気にする必要も無いみたいなー?」
誘導が目的ならそう遠くない場所に陣を組んで待ち構えている可能性はある。
しかし…
「目測だがあの船の速度は今のこの船の速度より明らかに速い気がするな。囮ならばこちらの姿を確認してから船を走らせるだろう。おそらくあの船は何か目的があって一艦で動いているような気がする」
望遠鏡でギリギリのこの位置でシールドを張っているこちらの船が見つかっているという事はまずあり得ない。それを念頭に考えてあの速度で航行しているのであれば単独で動いていると考えるのが自然だろう。
エッカートも私の意見に頷いてみせた。
「そうですね、私もそう思います。気付かれている様子もありませんし距離も大分あります。このまま無視して通り過ぎるという事も出来ると思いますが、どうしましょうか」
「そうだな」
船を動かすのにはそれなりの理由がある。しかも戦艦が一艦だけというのはかなり異常だ。
あの船の進行方向でいえば間違いなくノースプリエンへ向かっているのは確かだ。
後をつけるか、もしくは沈めるか。
「あたし見てこようか?」
と、唐突に目を輝かせてキツネが手を上げる。すると呆れ気味にエッカートがキツネを窘めた。
「狐の姿で潜り込んだとしても船の上では目立ちすぎる。バレたら流石に逃げられてしまいますよ」
「うー…でもあの船なんか気になるのにぃ〜」
「それは神獣としての感ですか?」
船を悔しそうに凝視するキツネが気になり何と無くそう問いかけた。
するとキツネは船を凝視したまま「ちがう」と答えた。
「どちらかと言うと女の勘みたいな?浮気をひた隠しにしようとしてる男みたいな匂いがプンプンするのよぅ!」
どんな匂いだ?と思うもののあまりそこには触れないでおこう。
エッカートと目を合わせると、困ったように肩を竦められてしまった。
「まぁ、女の勘は恐ろしいですからね。その勘を信じてあの船を探りますか。何か中から出てくるかもしれない。王都に着く前の準備運動に丁度いいだろう」
私がそう言うと、キツネは嬉しそうに、エッカートは神妙に頷いてみせた。




