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兄として 2【フィオ編@リオ】

 フィオも一緒に布告する事を条件づけておけば俺が王位を狙っての宣戦布告とは見られないだろう。

 単純に追われた側の反撃に取ってもらえる可能性が出てくる筈だ。


「しょうがないですね。今の所はそれで妥協しましょう。まぁ、戦力を誇示するのにもいい機会かもしれませんね。兄上(・・)()が手助けしてるとなると味方につく貴族は多くなるでしょう」

「おいっ!あくまでも協力関係だ!立場は同等だぞ!!」

 釘を刺す俺にフィオはヒョイっと肩を竦める。

 …俺は提案を誤ったのか?


 どうあがいても王位を押し付けられる予感に俺は今後の展開に不安を感じずにはいられなかった。



 =====



 翌日には各地へと使者が送られた。

 領主がいなくなった地域には傭兵団と雪狐の兵を送り、雪狐から信用のおけるものを領主として俺は任命した。

 抵抗が激しくなると思われる場所にはフィオやレムナフ、バシリー、ゲイリー、ウルフと連携して直々に赴きそれを制圧して行った。

 三週間経った頃には民も落ち着きを取り戻し始めていた。


 しかし、最後まで抵抗が激しい地域はやはり王都付近の領主や海岸沿いの地域だった。

 単純に海上戦を想定した時、クジラに対抗できるとしたらそれはウイニーのブリューグレスだけだろう。

 だからと言って何も策が無い訳では無い。

 人間にルールがあるように神獣同士でも一定のルールがあると昔雪狐は言っていた。

 クジラの攻撃を危惧しているのかと思い、俺がその話をしたらフィオは酷く驚いていたが…



 **********


『そんな話聞いてませんよ!?』

『お前とユニコーンはどれだけ信頼関係が無いんだ…よく主従としてやっていけてるな』

『アレは主人が僕じゃなくても言う事は聞きませんよきっと。……レティは違うみたいでしたが』


 ああ…清らかな乙女にユニコーンは弱いからな……レティならかなり当てはまるだろうな。

 しかも主人がコレだし…


『とにかくだな、海を攻略したいなら雪狐を連れて行け。聞けば今の雪狐の主人は随分と相性が良いらしいな?常時こちらに召喚しておけるならクジラが無茶な攻撃をしかけてくる事もない』

『神獣は主人を守護しても神獣を攻撃する事は出来ないから。ですか…もっと早く知っていれば船に余計な機能を苦労して付ける必要もなかったのに』


 **********


 そう、土地を守護する神獣は他の神獣と戦うことが出来ない。それは自分達が死んでしまえ長年守護してきた土地に影響を与えてしまうからだ。

 神がこの世界から消えた時、ハイニア大陸だけでなくこの世界全体に大きな影響を与えたのだと雪狐は言っていた。

 地上へ逃れた神獣はその影響から世界を護る為に神獣の中でも力のあるもの達が土地に根を張ったという。

 根を張った神獣はやがてその土地と同化して世界を安寧へ導くのが目的らしい。

 その神獣に何かあっては困ると神獣同士で決められた絶対のルールがそれだった。


 フィオは〈対クジラ津波シールド〉なるものを魔術師に開発させ戦艦に搭載していたらしい。

 余計な時間と労力だったとガクリと肩を落として哀愁を漂わせたが、神獣同士で戦えないだけであって津波が全く来ないとも言い切れないので決して無駄では無いと俺はフィオを慰めたのだった。


 その時の会議で最終決戦の予定が組まれた。

 ゲイリーとバシリーそして雪狐は海から、フィオと俺、ウルフは陸から同時に王都を目指す。

 アスベルグにはレムナフが残り、引き続き奇襲に警戒する事にした。


 陸路が幾らか時間がかかる為、先に俺達が出発する事になった。

 フィオとあちらにいる魔道士が魔法使い便を通じて現在地の報告を行う。


 数日が経過したある朝、いつものようにフィオが手紙を送ると、バチン!という何かを叩いたような音が周囲に響き渡った。

「なっ!?」

 と、フィオが驚いた声を上げる。

 焚き火近くで朝食を食べていた俺とウルフも驚いてそちらを見れば、1枚の手紙が地面に落ちていた。


「どうかしたのか?」

 と、俺はフィオに声を掛けたが、フィオはその声が聞こえているのかいないのか、慌ててその手紙を拾い上げ、再度魔法を掛けていた。

 するとまた先程と同じようにバチン!と言う大きな音が響き渡り、手紙は誰かに叩き返されたかの様に地面に叩きつけられた。


 フィオは青い顔で同じ事を繰り返す。しかし何度やっても結果は同じでとうとうその場に座り込んでしまった。

「おい!どうした?しっかりしろ、魔法が使えないのか?」

 俺はフィオの前に膝を着くと、肩を掴んで揺さぶった。

 フィオは焦点がぶれた状態で口元を押さえながら震える声を絞り出した。

「レティに…レティにだけ手紙が送れない。こんな事今まで無かったのに…」


 レティに手紙が送れない…?

 俺は魔法の事はあの娘に少しばかり教わった程度でまだよく分からないが、特定の人物だけに手紙が送れない何て事があるんだろうか?


「バシリーやゲイリーの方には送れたのか?」

 俺が問いかけると、フィオは力なく頷く。

「レティだけだ…魔法使い便は想いを乗せる魔法だ。届かない理由があるとすれば、僕が相手を知らない場合か相手が拒否した場合、もしくは相手が受け取れる状態にない場合やこの世に存在しない場合…」


 だとするとレティが手紙を拒否したって事か?

 後者の理由は俺もあまり考えたくないな…


「お前昨日レティに嫌われるような内容の手紙でも書いたのか?」

「まさか!至って普通の内容の近況報告だった!昨日の手紙にはレティから返事がちゃんと届いてたし、国境付近の町で毒が撒かれて難民の介抱に追われて大変だと書いてあった。なにか…凄く嫌な予感がする」


 呆然とするフィオを見つめて俺も眉間にシワを寄せる。

 難民を疎んだ住人がそういう暴挙に出ることもあるだろうが、まさかそこから更に暴動でも発生したのだろうか?

 あの娘ならそういう事に巻き込まれてもおかしくは無いが…


 チラリとウルフへ視線を送ると、難しい顔で腕を組んでいた。

(マスター)、もしかしたら忙しくて返事を書けねぇから拒否しただけとは考えられませんかね?……というかそう考えてくれないと俺達も困るわけだが」

 後半部分はほとんど呟くようにウルフは言った。

 フィオはまるでその言葉が耳に入っていないかの様に何やら考え込み始めてしまっていた。


(この様子だと作戦を中止して戻ると言いかねないな…)


 王都はもう目の前の所まで来ている。いくらレティに何かあったかもしれないとしてもここまで来て引き返すわけには行かない。杞憂の可能性だってあるのだから。


「フィオ今更戻る事は考えるなよ?作戦は進んでしまっているし、仮に兵士を数名送った所でここから戻っても往復に時間がかかってしまう。幸いにもアスベルグはリドに近い。レムナフに連絡を取って偵察隊を送るように手紙を書け。その方が早いだろう」

「兄上…すみません」

 ようやく正気を取り戻したかの様にフィオは呟いた。顔色はまだ青いが、引き返すとは言い出さないだろう。

「いや、いい。俺も気になる。流石に護衛の兵もいるだろうし何もないとは思いたいが、毒を撒いた犯人を捕まえると息巻いて首を突っ込んでそうだからな。レイノルド殿が頭を抱える姿が目に浮かぶ」


 俺がそう言ってフィオの背中を叩くと、フィオは少し力無く笑ってみせた。

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