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兄として 1【フィオ編@リオ】

 =====



 2年ぶりにリン・プ・リエンへ連れ戻されアスベルグにいるバシリー率いる元部下達といつの間にか増えた傭兵団と合流し、作戦室に入って開口一番に言われたゲイリーとレムナフの言葉に俺は耳を疑った。


「は?」

「ですから、リオネス様にはエルネスト陛下に向けて宣戦布告をお願いします」

 ぽかんと口を開く俺にゲイリーは顎髭をなでながら胸を張りさも当たり前だと言わんばかりに再び同じ内容の言葉を言ってきた。

 それに続くようにレムナフが目を細めながら頷いて言う。

「仕掛けてきたのはあちらですから、何も気を負う必要はございませんよ。リオネス様が堂々と宣言なさることで混乱していた貴族達は必ずや優勢に働いているこちらの味方に就こうとするでしょう」


 いやまておかしいだろう!

 と、俺は頭を抱えて2人を睨みつける。


「なんで俺が兄上に宣戦布告しなきゃならないんだ!?俺は確かに兄上に命を狙われてはいるが戦争などする理由は何もないぞ!?」


 どちらかと言えば、戦争をする理由があるのは弟のフィオディールだ。

 あいつは昔から野心的だったし固執淡々とその機会を伺ってきていたのも知っていた。

 なのに何故俺がその役を務めなければならないのかさっぱり意味が判らない。


「理由ならありますよ兄上。この国の次期王は兄上ですから」

 かちゃりと開いた扉を振り向けば満面の笑みを浮かべた弟フィオの姿が目に飛び込んできた。

 鼻歌でも歌いだしそうな表情に若干嫌な予感がよぎる。


「おや、お早いお帰りですね。1日ズレると聞いていたのですが」

 主人のそんな表情に気付いているのかいないのか、ゲイリーは主に向かって軽く頭を下げた。

「飛ばして帰って来ましたからねクタクタですよ。クタクタですが有意義でした。レティがあんなに僕を思っていてくれたなんて感激のあまり連れて帰ろうかと何度振り返ったことか!」


 いつも以上に目を輝かせて言うフィオに俺とゲイリーは辟易した顔をして見せたが、レムナフだけは小さな目を細めて嬉しそうに頷いてみせた。

「それは良うございましたね。それで孫はいつ頃の予定ですか?」

「レムナフ…貴方の孫じゃありませんし、気が早すぎます。まだ返事も貰っていないのに」

「えっ、今の話だと既に返事を頂いた様に聞こえましたが違うんですか?」


 2人のどうでもいいやりとりにバシリーまでもが参戦して、収集がつかなくなりつつあるこの場に俺は苛立ちを露わにして思い切り両手で作戦室の大きなテーブルを叩いて牽制した。


「今はそういう話をしているんじゃないだろうが!俺がこの国の次期国王とはどういう事だ!お前が王になりたかったんじゃないのか!?」


 まさか野心があると見せかけて始めから俺に押し付けるのが目的だったとでも言うのか?!

 冗談じゃない!俺は雪狐を束ねる騎士団長でそれ以上でもそれ以下でもない位置に居られればそれでよかったんだ!

 何故兄と弟に挟まれてこんな事に巻き込まれなければならないんだ!!


「確かに僕は国王になるつもりですが、僕がなりたいのはこの国の王じゃありません。兄上僕はですね、エルネストの開拓計画以前から南の森には目を付けていたんですよ。それこそ念入りに調査しましたし、対策も練っていました。開拓地計画の命が下った頃には既に計画地とは別の場所に砦があって試験的に機能していました。僕はあの1から手掛けた森の中にある領地の王になりたいんです」

 ジッと向かい合ってフィオは真剣に俺に訴える。


 あの森に何もないわけがないとは思っていたが、まさかそこまで念入りに計画されていたとまでは思っていなかった。

 現在の開拓の進み具合がどれ位なのか計り知れないが、王と言うからにはそれなりの規模にはなっているのだろう。

 かと言って、はいそうですかと頷く理由にはサラサラならない。


「だからと言って俺がリン・プ・リエンの王になる理由にはならないだろう!その森にある領地がどれくらいのものか知らんが、リン・プ・リエンの王もお前が同時にやればいいだけの話じゃないか!」

 フィオは俺の言葉に目を伏せて首を降るとふぅ…と小さく嘆息を吐き出し肩を落とした。


「父上の事がなければそう思ったかもしれませんが…無理です。僕はこの国を愛する事が出来ませんし、ましてや貴族達と上手くやっていける自信がありません。因習が根深すぎるんです。僕はウイニーの様な国を作りたい。ですがリン・プ・リエンでは無理だ。粗方のエルネスト配下の貴族を倒したとはいえ権力に巣食うものはそう簡単に消えはしないでしょう」


 詰まる所、めんどくさいから俺に押し付けると言っているのかこの弟は…


「お前はこれだけ騒ぎを大きくしておいて人に押し付けるつもりなのか…」

「その一端は兄上にも責任があるじゃないですか。そもそも僕から始めたことじゃないですよこの内戦」

「アスベルグに戦艦を集めて兄上(・・)を挑発したのは明らかにお前だろう!」

「開拓地で余計な事をしてくれたのは兄上(あなた)です。そして兄上を匿ったのは僕です。兄上に拒否権はありません!」


 フィオの言い分にグッと喉を詰まらせる。

 ああ言えばこう言う…完全に弱みを握られてしまっている自分が情けなくなる。

 どんなに俺が争おうと、何が何でも俺に王位を押し付けるつもりだ…


「俺はこの国で死んだ事になってるだろ。だったら今更ノコノコ顔出すより別のやる気のあるヤツに押しつければいいじゃないか。………例えばゲイリーとか」


 ジトリとゲイリーを睨みつける。この男はこの男でそれなりに野心があると俺は常々思っていた。

 統率力もあるし不可能ではないはずだ。

 だが、俺の言葉が意外だったのか室内にいた全員が目を見開いて俺を見つめた。

 ゲイリーは少々嫌そうに眉を顰めると顎髭を撫でながら首を振った。


「私は確かにそれなりの野心があるのは認めますが、流石に王は……無いですね。参謀で勘弁して下さい」

「むしろ参謀が望みでしょうなゲイリーは。表立って暴君になるより裏で人を操りたい人間ですからねぇ」

「そういうレムナフも人の事は言えないと僕は思いますが…兄上がどうしても嫌だと仰るなら…そうですね、ウルフにでも頼みますか」

「はっ!?俺!?そんな、(マスター)、冗談きついッスよ」

「嫌ですね。本気に決まってるじゃないですか。大丈夫ですよ貴方頭いいですし」

「なっ…そんな無責任な!!リオネス様!お願いします!このままではリン・プ・リエンは本当に危機に瀕してしまいます色々な意味で!!」


 …ああ、なんか本格的に疲れてきたな。

 流石に俺も素性の知れない傭兵に全てを任せるなどと言える程この国を捨てきれはしない。

 嫌な思い出が多いのは確かだが、少なからずフィオよりは郷愁の念を持っている。

 王になるならないは置いておいて、取り敢えず内戦を鎮める名目で貴族に対して牽制をかける事には協力してもいいのかもしれない。


「わかった。王位を継ぐ継がないはともかく、今の状況を安定させる為に宣戦布告はしてやろう」

 俺が辟易として考えあぐねている間にいつの間にかまた互いの悪口戦争となっていた場がピタリと静まり返った。

「兄上、本当ですか?」

「但しだ!あくまでも雪狐騎士団としての宣戦布告だ。それとお前も共に名を連ねる事が条件だ」


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