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Coffee Break : トップル

Coffee Breakは本編ではありませんが、

その時々の物語の背景となる為、若干ネタバレ要素が含まれる場合があります。

気になる方は飛ばして読んで下さい。

 レティアーナが拉致されてリン・プ・リエンへ連れ去られていた頃、クロエとダニエルはアスベルグから偵察隊として来た夢想騎士団と協力して捜索範囲を広げていた。


 毒の被害にあった住人や難民の多さに気を取られレティアーナの護衛の手薄さに気付かなかった自分の浅はかさを日々呪いながらも、クロエは気丈にも凛とした態度でレティアーナの捜索を行っていた。

 目撃情報を元に些細な事も漏らさず捜索した結果、レティアーナが持っていたと思われる数種類の薬と凝った懐中時計が東の町外れにある小屋から発見されたのだった。


 この事から犯人は間違いなく国境を越えただろうと最悪な想定をせざるを得なかった。

 殿下からは以前にリン・プ・リエンの国王がレティアーナに求婚をした話を聞かされていたというのに此度の失態。リン・プ・リエンの王侯貴族の卑しさは自分が一番よく知っていただけに苛立ちがます。


 思えばレティアーナに関する任務で自分は成功した試しがない。

 貴族や王族の護衛は初めてではないし賊に襲われた事も一度や二度じゃない。

 にも関わらずまたこのような失態を犯してしまったのだ。


(しかも今度は戦争中の他国に狙われるという国を巻き込む程の失態。ただでは済まないだろうな…)


 王都へ連絡を取れば、現在殿下自らがこちらへ向かっているとの知らせが入っていた。

 明後日には到着予定で、クロエは宿で待機し、兵士達へ指示を仰いで過ごして居た。

 夜も更けて、ひと段落ついた頃に宿の店主に頼んで、トップルを一本出してもらう。

 食堂の片隅でグラスを仰げば思い浮かぶのは最後に見たレティアーナの姿だった。


 小さな子供の手を握り懸命に看病していた姿は、2年前に始めて出会った頃と何も変わらないクロエにとって理想の姫君だった。

 身分の差など気にせず、罪人すらも心配してしまう様な方だ。自分の処分はどうなっても構わない。だが、切に姫は無事でいて欲しいとグラスを額に掲げながらクロエは目を伏せてレティアーナの無事を祈っていた。


 どれくらいそうして居たのだろう。気がつけば空が白んで宿の窓からは光が差し込んできている事に気が付きハッとする。


(いけない。寝ていたようだ)


 顔をあげればいつの間にか自分の方には男性物の上着がかけられていて、目の前にはチビチビとトップルを煽るダニエルの姿があった。


「おうっ、起きたか隊長補佐殿」

「一体いつから…」


 普段ならば人の気配で直ぐに起きている筈なのに、ダニエルが目の前に座ったことなど全く気がつかなかった。それ程までに疲れていた自分に驚いた。


「運ぼうかとも思ったんだがよ、流石に起こしそうだったし疲れてるみたいだったから悪いかなと」

「起こしてくれて構わなかったのだが…すまない。気を使わせたな」

「ん。まぁ、なんだ。勝手に貰ってるし気にしないでくれハハハ」


 そう言ってダニエルはクロエが飲みかけていたトップルのボトルを振って見せた。見ればもう殆ど残っていない。

 クロエはそれに苦笑してダニエルを見上げる。


「貴公にはずっと働いて貰ってるからな。飲みたければ飲めばいい。私は元来それ程酒には強くないんだ」

「そうなのか?それは是非酔わせて見たいな。…っとと、ハニーの事だけどよ、あんま気を張り過ぎんなよ?隊長補佐殿だけの責任じゃないし、咎めは俺も一緒に受けてやりますから。それによ、犯人捕まえて汚名返上すればいいんだからよ!」


 ん?あれ?やります?やられます?と、ダニエルはクロエを励ました後で首を捻る。

 殿下の下で働くようになってからかなり敬語を意識しているらしいのだが、未だに正しく使えない所があった。


 そんなダニエルの思わぬ言葉にクロエは目を(しばたた)かせる。

 まさか励まされるとは思っていなかったのだ。旅をする中で無礼な所もあるが、この気さくさがどこか憎めないとクロエは感じていた。何より努力家な一面は好印象すら感じていた。

 2年前に一度ダールで出会っていたが、同一人物とは思えない位印象が違った。

 あの時はもっとオドオドした情けない男だと思っていたのだが。


「女性に節操がないとは聞いていたが…しょうがない人だな貴公は。もう日も上がってきた。酒も程々にしておけ」

「う…それハニーに聞いたのか?昔の話だ!今はっ…フラれたけどハニー一筋だ……」

「聞いたのは殿下からだが…貴公、それはいくらなんでも……」

「わ、わかってる!わかってっけどよぅ。思うのは自由だろ!?」

「…まぁ、そうだな」


 涙酒になりつつあるダニエルを見ながら、哀れな男だなとクロエはコッソリ思った。

 慰められたのがいつの間にか慰める立場へと変わり、クロエの指示を仰ぎに兵が来るまでクロエは暫くダニエルに付き合わされる事となった。


 2人がリンドブル元伯爵を捕らえ事件解決を見事に解決し、汚名返上を果たすのはそれから2週間後の事だった。

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