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復讐と真実 2

 夜も更けてこようという時間になると、だいぶ周りも落ち着きを取り戻してきた。

「少し休んで下さい。倒れられたら困りますから」

 と、キャンプに戻ってきていたクロエが私とお医者様に声を掛けてきた。

 お医者様は頷いて私の肩を叩くと「そうしよう」と言って仮設のテントの中へと入って行った。


「じゃあ、私は一旦宿に戻るわ。クロエも休んでね」

 と、クロエに声を掛けると苦笑しがちに、

「私はもう休みましたから。姫はもう少しご自愛頂かないと困ります」

 と、言われてしまった。


 近くにいた兵士に宿まで送ってもらうと、ベッドに埋もれるようにして倒れこむ。

 クロエに言われるまでまた疲れている事に気がつかなかった。

 そう気がついたのは瞼を閉じて意識を手放そうとした時だった。



 =====



 気がつくとまたいつかの湖の前にいた。

 振り返れば馬の姿のユニコーン。


 彼は嬉しそうに駆け寄ってきて鼻先を愛おしそうにすりつけてきた。

「さっきは本当にありがとう」

 と、私は彼に改めてお礼を言う。

 どうしてもちゃんとお礼を言いたいと思っていた所だった。


『…問題ない』

 と、ユニコーンは何処か照れ臭そうに答えた。


「貴方には助けてもらってばかりだわ。何かお礼ができれば良いのだけど…」

 彼のたてがみを撫でながら何かないだろうかと思案する。

 夢の中では渡せるものも無いし…困ったわね。


 眉間にシワを寄せて考え込んでいると、ぶるぶると彼は首を振った。

『必要ない。貴女が笑ってくれればそれでいい』

「そういうわけには…そういえば貴方、名前はないの?テディもユニコーンって呼んでるみたいだし」

 私がそう言うと、彼はキョトンとして首を傾げた。


『我、ユニコーン。それ以外の何者でもない』

 う、うーん…それは名前じゃなくて学術的名称というものではないのかしら?

「えっと、それは個人名ではないでしょう?テディにはフィオディールって名前があるし、私にはレティアーナって名前があるわ。でも人間とは呼ばれないでしょ?解るかしら?」

 テディの名前を口にして少しだけ胸がドキッと高鳴る。


(やっぱり彼の本当の名前を口にするのは少しだけ勇気がいるわ)


 悟られ無い様に平常心を装っていると、やっぱりユニコーンは首を傾げた。

『我、人間に非ず。ユニコーンはこの世に我のみ。必要性を感じない』

 神獣特有の感覚なのかしら?確かに同種族が存在しない生き物ならそう考えるのが普通なのかもしれないわね?


「んー。名前って必要か必要でないかではないと私は思うわ。だって、相手の名前を口にするだけで心があったかくなるし、呼ばれれば嬉しくなるものよ?」

『嬉しい…?』

 興味深げにユニコーンは私をじっと見つめて尻尾をユラユラと揺らした。

 私は彼ににっこり微笑んでコクリと頷いてみせた。


「ええ!すごく嬉しいわ。だから貴方も乙女だなんて呼ばないで私の事は名前で呼んで?私も貴方の事は名前で呼ぶわ。私がつけてあげる!そうねー。何がいいかしら?」


 私が思案していると、遠慮がちにユニコーンはポツリと私の名前を呼んだ。

「レティアーナ…」

 呼ばれて驚いて顔を上げると、いつの間にか人の姿になった彼が頬を染めながら私と向かい合っていた。

「なぁに?」

 と、にっこり微笑んで彼を見上げるとどこかソワソワと落ち着かない様子で、

「なるほど…」

 と、顔を背けて口元を押さえた。

 長い銀糸が風に揺らいでとても綺麗だと思わず見惚れる。


「ゼイルベル…ゼイルはどうかしら?」

 異国の言葉で銀を表すゼイルベル。彼にはピッタリだと思った。


 彼はキョトンとして「ゼイル?」と首を傾げる。

 私はにっこり頷いて、

「そうよあなたの名前、ゼイルはどう?それとももっと別のものがいいかしら?」

 と彼に尋ねた。

 彼は心ここに在らずと言った感じで小さく首を横に振ると、

「ゼイル…」

 とポツリとまた呟いた。


「気に入ってもらえたみたいで良かったわゼイル」

「!!」

 私が名前を呼ぶとゼイルはキラキラと目を輝かせながら見開いた。

 やがて自分の中で起こった何かを理解すると、とても嬉しそうに満面の笑みを浮かべ私に向かって無邪気に催促し始めた。

「レティアーナ!もっと、もっと呼んで!凄い!!こんな気持ちは初めてだ!」

 子供の様にはしゃぐゼイルに驚いていると、もっともっとと彼にせがまれる。


(なんだか可愛い)


 クスクス笑いながら催促されるまま何度か「ゼイル」と呼ぶと、彼はおもむろに私の頬に手を伸ばし、やがて柔らかい唇を私に重ねてきた。


「!?」

「ありがとうレティアーナ」


 私は驚いて真っ赤になって口元を押さえ仰け反った瞬間、彼は嬉しそうに微笑んでお礼を言った。

 その姿はだんだんとおぼろげになっていき、私は狼狽えたまま(うつつ)へと引き戻されていった。

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