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想いの行方 2

 席に着くと早速とばかりに質問責めに会う。

 ベルンにいた頃の話から魔法の話、ウイニーに帰ってきてからのお城での生活等、彼女達の興味はとどまる事を知らなかった。


「私、2年前のコルネリア様とアベル様のご婚約の際のお話!すごく感動致しましたのよ!」

「えぇ、私も当時は羨ましいって思いましたわ!愛するお兄様の為に単身ダールまで旅するなんてそう簡単に出来ることじゃありませんもの!」

 きゃっきゃと楽しそうに彼女達がはしゃぐ中、私とお姉様は思わず顔を伏せる。


 普通に考えて褒められた行動では無い事は良くわかっているし、あの時はかなり頭に血が上っていたから出来た行動だとも言える。

 お姉様もリヴェル侯も良い人だし、冷静に考えれば放っておいても私もお兄様達もなるようになったのだ。

 …穴があったら入りたい。


「あの、1人と言ってもクロエが居たし…彼女が居てくれなければワタクシどうなっていた事か…流石に無謀だったと反省してますわ」

 小さくなって私が言うと、彼女達はまたきゃあきゃあと騒ぎ出す。


「知っていますわ!クロエ様!かっこいいですわよねぇ〜」

「私も何度か夜会で警備をされている姿を拝見したことがありますけれど、月の女神のようなあの銀糸に闇夜のような紫の瞳!本当にお綺麗で!」

「同じ人間とは思えませんわよね!表情もいつも凛とされていて…女性でなければアタックしていたのに…」


 うんうんと誰ともなく頷く。

 やっぱりクロエは誰から見ても憧れの存在なのね。


「あら?でも…」と、招待したご婦人の1人が首を傾げる。

「確かもうひと方ご同行者がいらっしゃったとお聞きしておりますわ」

 私は思わず「んぐっ!?」と喉にお茶を詰まらせる。

 すると、他の婦人たちが不思議そうに、

「えっ?そうなんですか?そんな話初めて聞きましたわ」

 と、私の方に注目する。


(な、なんでテディの事までバレているのかしら!?)


 けほけほと小さく咳き込むと、

「そ…んな方いらっしゃったかしら?2年も経つと流石に記憶が…」

 と、空々しくも誤魔化してみる。

 すると逆に興味を引いてしまったようで、彼女達はキラキラと目を輝かせて私に詰め寄った。


「そうそう思い出しましたわ!確かあの時駆け落ちのお相手で鳶色の髪の男性がレティアーナ様とご一緒だったって噂が一部で流れていましたわね!」

 そう言えばヒースとの一件でそんな記事が出回っていたかしら…


「あらやだ!鳶色の髪って言えば最近噂になっていたあの?!」

 それはもしかしてもしかしなくてもリオの事よね。


「確か先日の仮装舞踏会でのお相手はレイノルド殿下ではなく正体不明の黒い仮面の貴公子とお聞き致しましたわ!もしかしてその方が!?」

 キャー!と浮いた話に期待して彼女達は騒ぎ立てる。


 半獣族の話をする為に呼んだのにどうしてこういう方向に話が進んでしまうのかしら!?

「あの、多分全て別の方を混同されて…」

 と、真っ赤になりながら私が説明しようとすると、身から出た錆とはこういう事を言うらしく、ますますもってして彼女達は食いついてくる。

「別の方という事はやはりそういったお相手がいらっしゃいますのね!?」

「どなたですの?!誰にも言いませんから教えて下さいまし!」

「ええ、私達こう見えて口は堅いんですのよ!」


 ジリジリと詰め寄ってくる彼女達に尻込みして、思わずお姉様に目配せをして助けを求める。

 お姉様は苦笑しつつもどこか楽しげに、

「レティアーナ様の想い人に関しては私も興味がありますね。是非私もお聞きしたいわ」

 と、あろうことか彼女達に賛同してニッコリ微笑んだ。


(酷いわお姉様!もしかして今まで家に帰ってなかった仕返しだったりするのかしら!?)


 私は熱くなる頬を押さえながら、しどろもどろに渋々ながら話し始めた。

「ええと、あの、本当に誰にも仰らないで下さいね…?まだその、確信は持てないのですが、気になる方なら…」

 言い淀んで俯いていると、やはりキャアキャアと彼女達は騒ぎ立てる。

「やっぱり!どなたですの!?ヒントだけでも教えて下さいな!」

「私達も知っている御仁ですの!?」


 ううう…流石にこの世情でリン・プ・リエンの王子様だとは言えないわよね。

 なんて説明したものかしら。


「詳しくはお答え出来ないのですが…その、他国に住んでいらっしゃるさるお方とだけ…で、許してもらえませんか?」

 チラリと、彼女達を上目遣いに覗き見る。

 すると、かなり予想外だったのか驚いた顔で、しかしその興味は右肩上がりに上昇するかのような目をしながら「ほぅ…」っと一様に溜息をついた。


「他国と言いますとやっぱりベルンにいた頃に…?」

「そうなるとベルンのいずれかの国の…」

「いいえ、ここまで変化球なのですから、もしかしたらリン・プ・リエンに住んでいらっしゃる方かも知れませんわよ?」


 リン・プ・リエンと聞いて思わずビクリと肩が反応する。

 何でここまで勘がいいのかしら!?


 頬を引き攣らせながら笑顔を作り「ご想像にお任せしますわ」と答えたものの、どうやら見逃してはいなかったらしく、誰もそれ以上追求はしなかったけれど、彼女達は目配せをして頷くとニコニコと微笑んで「想像しておきますわ」と答えた。


「そうそう、リン・プ・リエンと言えば…」

 と、招待客の1人が少し躊躇いがちに話題を変える。

「近頃ウイニーとリン・プ・リエンの国境付近が大変な事になっているらしいですわね?」

「国境付近?」

 と、また別の1人が眉を顰める。


「ええ、うちの主人はリド辺境伯と親しくさせて頂いて居るんですが、主人の話によるとなんでもリン・プ・リエンの内戦に巻き込まれた市民の一部がウイニーの方へ流れてきているらしいんですの」

「まぁ…そんな事になっているなんてワタクシ知りませんでしたわ…」


 考えてみれば新聞記事の内容からもそんな事があってもおかしく無いと容易に想像出来る。

 新聞記事にはまず初めにとある貴族が国王を裏切ったという内容から始まって、その後次々と有力貴族と言われた人達が知らぬ間に暗殺されていったと伝えていた。


 そこにはリオの名前もテディ…フィオディール殿下の名前も書かれていなかった。

 それもその筈で、2人はリン・プ・リエン国内では数年前に死んでしまったという扱いになっていた。

 どういういきさつなのかは流石に解らないけれど、誰もが2人はもう居ないものだと思い込んでいるようだった。


 故に誰が起こした騒動なのか、敵は誰なのか判らないまま内戦だけが激化し、領地を治める筈の領主が居ない地域も多く出てきてしまったのだ。

 その土地に住んでいる住民達が混乱しないわけがないのだ。

 いつ、どこから、誰が攻め込んで来るか判らない土地で安心して暮らしていける人何て居ない。

 体力のあるものやお金のあるものは他の土地へ逃げようと考えるのが当たり前だ。


「なんでも陛下やレイノルド殿下が情報規制を行っているらしいですよ。内戦でリン・プ・リエンに向かおうとする人は余程でない限りいらっしゃらないですから、これ以上の混乱を避ける為に難民の事は伏せていらっしゃるようです」

 あまり広く知れ渡ってしまうとウイニーでも暴動が起きかねないですから。と、彼女は言った。


「それで、その難民の方々はちゃんとした対応を受けていらっしゃるのかしら…」

 心配になりポツリと私が漏らすと、話をしてくれていた彼女は「流石にそこまでは…」と、申し訳なさそうに答えてくれた。


 規模も判らないしかと言って領主達が突然現れた難民達に食料と住むところがすぐに用意出来る訳も無いし…

 怪我人や病人がいる可能性だってあるのよね。


 難しい顔で黙ってしまった私に、彼女達は心配そうに声をかけてきた。

「レティアーナ様…大丈夫ですわ。うちの主人もリド辺境伯に援助を頼まれましたし、陛下や殿下も動いてらっしゃるようですし」

「そうですわ!それにレティアーナ様の想い人がそこにいらっしゃるとは限りませんもの。リン・プ・リエンの中にも安全な場所はある筈ですわ」

「そうですよ!きっとそういった場所にいらっしゃるに違いありませんわ!」


 予想外の慰めに私は目を(しばたた)かせると、苦笑しつつも「ありがとうございます」と彼女達にお礼を言ったのだった。


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