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マーガレットに秘めた想い 2

 =====



 翌日、朝食も昨日と同じようにレイが迎えに来て一緒に食べる事になった。

 朝食を終えた後、私はリオに昨日と今朝の事を謝ろうとリオの部屋へと向かった。

 しかし途中で兵士に声を掛けられ、リオが自国に帰った事を知らされたのだった。


 あまりにも唐突な出来事に、私はショックを受けながらも教えてくれた兵士にお礼を言って来た道を引き返した。

「お別れも言ってないのに…」

 と、私はしょんぼりしながらその足で図書室へ向かう。

 薬学の辞書と本を幾つか選び、机に運ぶといつものようにパラパラと本をめくる。

 メモは取るもののその内容は頭に入ってこず、私は小さく溜息をついた。


 酷いわ。レイはきっとこの事を知っていた筈なのに、朝になっても一言も教えてくれなかったなんて。

 リオだって何にも言わずに帰っちゃうなんて…やっぱり迷惑だったのかしら。

 色々相談にも乗ってくれたしお礼も言いたかったのに。

 それともやっぱりテディに何かあったという事なのかしら…

 昨日突然使者の方が来て、そして朝には帰国だもの。


「テディ…」

 今朝も手紙は来なかった。

 安否を確認しようと何度かペンを握ったけど、返事が来なかったらと思ったら怖くて何も書けなくなってしまう。

 最近では懐中時計を日に何度も手にとって何か変化がないか確認する事が多い気がする。

 時々慰めるかのように暖かくなる懐中時計が今の私の心の拠り所になっていた。


 今日はとても勉強に手がつきそうもない。

 私は本を元に戻して、メモ帳だけ手にとって自室に戻ることにした。

 幸いにも今日は兵舎で魔法の講義は無い日だったので、舞踏会時間までゆっくりと過ごす事にした。


 何度かテディに手紙を書こうとペンを取ったものの、やはり思うようにペンは進まず、あっという間に舞踏会の準備をする時間となってしまった。

 何もしなくても時間は過ぎて行くものなんだと肩を落とす。


 侍女達が慌ただしく私の部屋に衣装や装飾品の入った箱を抱えて入ってくる。

 なすがまま、されるがままにあれよあれよと着替え終えると、最後に侍女から長い羽根のついた変わった形の白い仮面をつけさせられる。

「えっ、あの、これは?」

 困惑する私に、侍女がニッコリ「お似合いですよ、姫様」と言って深々とお辞儀をした。


 髪は高く結い上げられ、髪飾りには仮面と同じ白い羽根。

 同じように真っ白なドレスは、胸やスカートの部分がやはり仮面と同じふさふさの白い羽根で出来ている。

 長手袋にも羽根が付いていて、まるで白鳥を思わせる衣装だった。


 侍女が下がると、直ぐにコンコンとノックの音がして、中にレイが入ってきた。

 見るとレイも手には仮面を持っていた。

「ふーん。そうやって黙ってれば一応は淑女に見えるもんだな」

「なんですって?貴方たまには普通に褒めることくらい出来ないの!?」

 開口一番の憎まれ口に私は思い切りレイを睨みつける。


 するとレイはニッコリ微笑んで、

「すまん。良く似合っているよレティアーナ。まるで天使が居るのかと思った。………これでいいか?」

 と、思い切り棒読みで言ってきた。

「ええ、レイはまるで本物の(・・・)王子様みたいね?」

「おいおい、お前はこの国の王子が誰なのかも忘れたってのか?これだからバカは困…いでででで!」

 おいっ!髪を引っ張るな!何すんだ!と、レイは扉の後ろから誰かに髪を引っ張られ仰け反った格好で後ずさると、そのまま廊下にいる誰かに話しかけていた。

 不思議に思って扉の外を覗き込めば、髪を引っ張った人物に何か言われているようで胸倉を掴まれた状態で降参のポーズをしながら珍しく青い顔をしていた。


「レイ?誰かいるの?」

 私が声を掛けると、ピクリとレイとその人物が反応した。

「ああ、今日はアベルも嫁と来る予定だし、俺もエスコートしてやれないからな。代わりを連れて来たんだ」

 と言って、レイは後ろに居た人物の背中をポンっと押して私の前に立たせた。

 夜空のように青黒い大きな騎士の羽根つき帽子に黒い仮面。帽子と同じ色の大きなマントを身に纏った怪しい男性が、困惑した様子で私を見下ろした。

 その表情は仮面で見えない。


「…どなたかしら?」

 私が首を傾げて尋ねると、レイはニヤリと意味深な笑みを浮かべて私に言った。

「今日は仮装舞踏会だからな。誰かと聞くのは野暮ってもんだろ?今日は一日そいつに相手してもらえ。もっとも話せんだろうがエスコート位は出来るだろ」


 お話できないって、何か障害を持った方なのかしら?

 不思議に思い彼を見上げていると、突然慌てたようにレイの腕をガシッと掴んで廊下の奥に連れて行き、何やらヒソヒソとレイと話し始めた。


 どうやら障害を持っている方では無いみたい?

 暫くすると、レイが驚いたように「はぁ!?」と声を上げ、バツが悪そうに2人でこちらに戻ってきた。

「どうかしたの?」

 私が聞くと、レイは申し訳なさそうにまたまた珍しく私に謝罪した。

「すまん。踊れないらしい……」


 踊れないってワルツの事よね。もしかして身分が低い方なのかしら?

 確かこの手の舞踏会は身分とか関係なしに参加できるからそういう事もあるのかもしれないわね。


 私はにっこり微笑んで、彼を慰めるように声を掛けた。

「大丈夫よ。踊れなくてもパーティは楽しめるわ。それに確か仮装舞踏会ならブランルみたいな簡単な踊りもある筈だから…それを一緒に踊りましょう?」


 ブランルは男女ペアが集まって踊る軽快なリズムの小さな子供でも踊れる一般庶民にも馴染み深いダンスのひとつだ。基本は輪舞(ロンド)だけど、中にはラインのものや向かい合う形で踊るものもある。

 ダールでテディと私が演奏した曲もブランルの一種だった。

 ワルツはワルツで楽しいけれど、誰でも踊れるブランルの方が私は好きだったりする。


 彼は嬉しそうにウンウンと頷いて、マントの下からサッと小さなブーケを私に差し出した。

「まぁ…ワタクシに下さるの?ありがとう、お花なんて初めて貰ったわ。嬉しい」

 ずっとマントに隠していたのか花は少しだけ萎れかかっていたけど、色取り取りの可愛い花が彼の真心を表しているかのようだった。


 花を愛でていると、唐突にふわりと彼に抱きすくめられる。

「えっ?あのっ…」

 驚いて彼を見上げていると、レイは呆れた顔で溜息をついて、

「んじゃぁ俺は行くぞ。レティ、素性のわからん奴らも混じってるから今日はそいつから離れるなよ?後は任せた」

 と、サッサと会場に行ってしまった。


「ちょ、ちょっと!レイっ!!」

 私に言わせれば彼が一番素性がわからないのだけれど!?


 困惑する私に気がついたのか彼は身を離すと、そっと私に手を差し伸べてきた。

 おずおずと彼の手に私の手を添えると、先程の態度とは打って変わって、紳士な態度で私を会場まで誘導した。

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