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ウイニーの親友 3【フィオ編】

 =====



 僕は兄上とレイに手紙を送り、迎えに行く旨を伝えると、レムナフを従えてアスベルグからウイニーの北東リドに入る。

 リドからネグドール、そしてウイニー王都へと何事も無く目的地へ到着した。

 因みに僕がここへ来る事をレティには知らせずに来てしまった。


 トンボ帰りのつもりで居たし、それに何より時折彼女から届いた手紙から、返事を聞くのが何と無く恐ろしいと思っていたからだ。


 王都の城下町は既に夏の装いで活気付いて、これから始まる行楽シーズンに街中が浮かれている様子だった。

「いつ来てもウイニーは良いですねぇ…はぁ……」

 と、僕は沈む心と裏腹な言葉を口にして溜息を吐き出した。

 会いたいのに会いたくないという矛盾する心が鉛のように重く胸の奥に沈んでいく。


「何があったのかは存じませんが、話して解らない姫君では無いでしょうに。殿下が悪かろうが無かろうが夫婦というのはただひたすらに夫が謝ってしまえば元の鞘に収まるものです。ああ、そうだ。花など手土産に持っていかれると宜しいですよ。相手が誰であれ花を贈られれば女性は喜びますから」

 亀の甲より年の功と言わんばかりにニコニコ微笑むレムナフが、夏の日差しの所為かキラキラと輝いて見える。


「花、ですか。そうですね…何も持たずに行くより心強いですね…」

 フラフラと力無く花屋に立ち寄り、黄色と白のマーガレットをメインに彼女に似合いそうな幾つかの花を若草色のリボンで纏めて貰い可愛らしいブーケを作って貰った。


 彼女が喜ぶ顔を思い浮かべ思わずにんまりしていると、

「さぁさぁ、元気が出て来た所で行きますよ」

 と、レムナフが背中を押して来たので再び重くなった足を引きずりながら何とか王城へ到着した。


「あの、武器商人のテディです。殿下に取り次ぎを願いたいのですが…あ、手紙を先に出してあるのでテディが来たと伝えて頂ければ…」

 と、少々以前より挙動不審気味に門番に言った。

 呆れ気味に後ろから咳き込む音がしたのは気の所為だと思いたい。


 武器商人という割に手に持っているのは花束で、落ち着かない様子の明らかに不審な僕を門番は訝しみながら「少々お待ちを」と言って1人が城の中へと消えて行った。


 暫くすると中からアベルさんが出てきて、

「お久しぶりですテディ様、遠路遥々ようこそお越し下さいました。ご案内致します」

 と、僕に笑顔で会釈をした。


「あ、いえっ、そのっ、こちらこそ兄が長い間お世話になりまして、ええと、これっ、レティに渡してもらえませんか?」

 まさかアベルさんが出迎えに来るとは思っていなかった僕は、真っ赤になりながら緊張して震える手でアベルさんに花束を差し出した。正直自分が今何を言ったのか覚えていない。


「でん……テディ様、少し落ち着かれては如何ですか?アベル殿も門番達も驚いておいでですよ」

 呆れた様な声でレムナフに言われて始めて僕は周りの様子に気がつく。

 レムナフが言った通り門番は口こそ開けていなかったものの目を見開いて僕を見ていたし、アベルさんは苦笑して頭をポリポリと掻いていた。

 この間とはまるで立場が逆だ。


「レティならここ暫く城に住み着いてますから後で直接お渡しになればあの子もきっと喜びますよ。殿下もお待ちですのでとにかく中へご案内します」

 すみません…と小さくなって僕はアベルさんについて行く。


「私はてっきり何か思惑があってレティに近づいているのではと思っていたのですが…あ、すみません。気を悪くなさらないで下さい。しかしそうですか…リン・プ・リエンに嫁ぐとなると寂しくなりますね…」

 しんみりとしてアベルさんは肩を落とす。


 妹を持つ兄の心情というのは流石に判らないが、初めてレティに会った時の事を思い出せば、この兄妹がとても仲がいいのは明白で、僕としても正直妬けるくらい複雑ではある。

 しかし、母を失った時の喪失感に似た感情なのだろうと想像するとなんだかこちらも申し訳ない気持ちになってくる。


 …と言っても、レティが僕をどう思っているのか判らないのだが。


「いえ、僕は立場が立場ですしこの性格ですから、そう思われても仕方ないかと。誓ってレティに対する気持ちに嘘偽りはないと宣言できます!…ですが、レティは僕の事好きでは無いのかもしれません」

 最近返事くれないですし、くれてもそっけないですし…と、がっくり肩を落として言うと、

「いや、それは絶対ないです。兄として断言しますよ」

 と、苦笑混じりにアベルさんは言った。


「あの子は小さい頃から殿下や僕と過ごして、家に帰れば乳母は居ないし代わりにいるのは小間使いのメルだけで、女の子だというのに男ばかりに囲まれて育ちましたから、父や母の大恋愛に憧れてはいるものの、同年代の女の子同士でそう言った話をするような機会は奇跡的と言いますか、今まで全く無かったんですよ」


 デビュタントを終えて社交界へ出てすぐに僕と出会ってあの騒動を起こし、その後すぐにベルンへ留学、戻って来たのはつい最近。

 普通の女性ならば結婚の為に女性同士で恋の話に花を咲かせるところを、レティは勉強と旅路の日々に明け暮れたという訳だ。

 そして今もこの国の為に同じような日々を過ごしているらしい。


 実にレティらしいなと僕は思わず笑みがこぼれる。

「僕は誰かの為に頑張るレティが好きなんです」

 と、頷きながら自然と思った事を口にしていた。

 驚いた顔で振り返ったアベルさんを見て、僕はそこで漸く真っ赤になって口を押さえた。


 アベルさんはまた苦笑して、話を続ける。

「テディ様はあの子の事をよく見ているんですね。私も安心して任せられます」

 そう言ってアベルさんは立ち止まり、僕の方にくるりと向き直ると深々と頭を下げて僕に言った。

「テディ様、落ち着きの無い妹ですが、アレでも私の大事なただ1人の妹です。どうか宜しくお願い致します」

 「アベルさん…ぼ、僕の方こそ!宜しくお願いします!…お義兄さん!!」

 感極まりながら固い握手をアベルさんと交わしていると、後ろから溜息が聞こえてきた。


 「お前ら気が早過ぎないか?フィオはまず自分の国なんとかしろ自分の国を」

 いつの間にいたのか、そこには呆れた顔でこちらを見ているレイの姿があった。

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