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思わぬ誤算 4【フィオ編】

 敵騎士団が到着すると、例の金髪の傭兵が一歩前へ進み出て、騎乗のクシュケピオ騎士団長と言葉を交わす。

 すると、クシュケピオ騎士団長は部下に指示を送り、部下は後方にいるニールオムニス騎士団の方へ馬を走らせてニールオムニスの団長を見つけると言葉を交わす。

 暫くしてその部下がクシュケピオ騎士団長の元へ戻ると、敵騎士団達は方向転換を行い、北方向へ進軍を始め、何もせずにその場から立ち去ってしまった。


 僕は思わずその場で立ち尽くし唖然とする。

 首を持ってくれば特別報酬を出すと(そそのか)されたはずの傭兵達は、あろうことか首どころか血の一滴すら流さずに敵兵を目的の場所へ動かしてしまったのである。


「っく…」

 っと、僕の隣からゲイリーの声が漏れる。

 横を見下ろせばくつくつと堪える様に肩を震わせ笑うゲイリーの姿が目に入った。

「やられましたね殿下。あの傭兵ただの傭兵じゃありませんよ」

「…彼らに会って来ます」

 僕が憮然として歩みを進めると、ゲイリーは楽しそうに「お供します」と後から着いてくる。

 更にその後を慌てたように夢想兵達が着いてきて、後方から突然現れた僕達を見て、傭兵達は瞬時に殺気立って迎撃大勢に入る。


(陣の取り方も的確で反応も悪くない。なら将を取られた時はどうするだろうか?)


 僕はニヤリとほくそ笑むと、騎乗の金髪の男に狙いを定めて転移魔法を発動させる。

「ちょっ…」

 と、声を上げたのはゲイリー。

 無論止める間も無く、僕は馬上に立って男の背後から首筋に刀身を突きつけた。


 ひゅーっと男は僕に動じる事なく口笛を鳴らす。

「馬は座って乗るものだとママに習わなかったのかい?」

「あいにく母は幼い頃に亡くなっていますので教わりませんでしたね」

 僕はニッコリと微笑みながら殺気を強める。

 後方の異常に気づいた傭兵達は後ろを振り向き、将の置かれた状況に気がつくと、流石に動揺を見せ陣形が崩れ出した。


「動くな!!」

 と、声を上げたのは僕ではなく目の前の男。

 傭兵達はその声にピリリとした緊張感を取り戻し、動揺しつつも何とか状況を打開しようと周りを注意深く観察し始めた。


「いいですね。危機的状況でも各々が打開を模索する。なかなか出来ることではありませんよ」

「そういう風に育てた。傭兵が雇い主に裏切られるなんて事はそう珍しくもないもんでね」


 例えば今回みたいに。と、男は飄々と言う。

 成る程。全てお見通しという事か。


「生き残る術という訳ですね。ですが何故あの騎士団達を北へ移動させたのですか?」

 作戦の内容をこの傭兵達が知っている訳が無い。彼らに与えた命はあくまで鯨波基地の撹乱とここへ到着する騎士団の殲滅だ。


 男は訝しむ僕にクスリと笑って答えてみせた。

「まず最初の依頼からしておかしいだろう?ウズマファスが鯨波の拠点なのはその辺のガキでも知ってるってのに傭兵に襲えってんだからどう考えても俺達は捨て駒。で、持たされた荷物は無論確認済みなのに、合流した男は荷物に生き写し。その後のヤツの行動で軍港にあの荷物を置いてくるのが目的だと判断した。で、ヤツは何やら書状をあの荷物に忍び込ませていたのをバッチリ確認して、戦闘の合間に俺も内容を見たってわけだ」


 つまり書状を見た時点で依頼主の素性や目的は大方の予想がついたという事になる。

 だったら次に依頼主はどう動くのか。と、男は突き付けられている剣を忘れたかのように得意げに話す。


「俺が依頼主なら1に仕事終了した時点で証拠隠蔽。2に更に仕事を増やして終われば隠蔽。3に手懐ける。王族の争いで3はまぁ、ねぇなと思ったから1か2が残んだろ?で、俺はおそらく2だろうなと踏んだ」

「何故です?実際当初は1を実行するつもりでしたよ?」

 と、正直に僕は男に話す。ギョッとしたのは彼以外の傭兵達で、男はケラケラと笑って「無いわぁ」と言った。


「俺達が着せられたのはエブグレイ騎士団の鎧だ。傭兵とはいえ兵士に変わりないのを忘れないで欲しいな。俺達だって兵に関する法典くらい知ってるし、ましてや諸侯騎士団の特徴から特性は雇われる側としてあんたらより知ってる自信がある。地方騎士団で1番デカい騎士団が動いたとなれば、当然他も動くと予想出来る。そうなると傭兵という猫の手も借りたい依頼主が考える事なんてひとつしかねぇな?」


 そして僕はこいつの予想通りキツネを使って新たに依頼をした。と。

 憮然と睨みつける僕に男は動じる事なく続ける。

「あんたらの狙いがシュミット伯領なら、要はあの場所に他騎士団を誘導しさえすればいいって事だろ?だったら俺達は鯨波に扮して"ウズマファスより伝令だ、シュミット伯が裏切った。至急現地の鯨波と合流して裏切り者に制裁を与えよ"とでも言っておけば首は繋がるし、あいつら勝手にそっち行くだろ?んで、俺達は知られる前に前金だけもって逃げりゃ良い……と思ってたんだけどなぁ」


 まさかつけられてるとは思わなかった。と、男は溜息混じりに肩を落とした。


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