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知らぬは当人ばかりかな 6

 =====




 東側の日差しが暖かく降り注ぐ城の中でも日当たりのいいこの部屋は、王妃の為だけにあてがわれている城の中でも1,2を争うほど特別な部屋だ。

 淡い水色に金の蔦模様の入った壁紙はゴテゴテとした嫌らしさなど微塵も感じない不思議な落ち着きがあるデザインで、家具も壁紙に併せた様に細かな細工に職人の気配りが感じ取れた。


 私は伯母様にバルコニーのテーブルへ案内され、言われるがままに着席する。

「お茶を用意するから待っていて」

 と、伯母様はにこりと微笑んで部屋の中へと入っていく。


 暫くすると呼び出されたクロエが部屋に入ってきて、私と同じように伯母様はクロエを案内して私の隣に座らせた。

 当然ながら仕事中だったクロエは困惑気味に私に会釈をし、渋々ながら着席した。


「姫、目が赤い様ですが、何かあったのですか?」

 席に着くと私の顔を見るなり怪訝そうに眉を顰めてクロエは言った。

 私は何となく居た堪れなくなって、クロエに向かって謝罪する。


「ごめんなさい。お仕事中だったのに…私の所為だわ」

 小さくなって私が言うと、クロエはますます訳がわからないと眉間にシワを寄せる。

「いえ、私は妃殿下に呼び出されただけですので…姫が謝られる事は何もないかと」

「そうそう、私が勝手に呼んだんですからね。さぁ、2人とも召し上がって。お菓子も用意しましたよ」


 伯母様はそう言って銀盤に乗せられた様々な茶菓子と、カモミールのハーブティーを私達に振舞った。

 クロエは困惑しつつも「はぁ…頂きます」と言って形ばかりにお茶を口に運んだ。

「レティもよ。ほら、貴女トップルの入ったチョコレートケーキ大好きでしょう?甘いものとお茶は心に安らぎを与えてくれるのよ?」


 ふふふと笑って伯母様は私にケーキをよそって微笑む。

 私はおずおずとケーキを口にすると、口の中でジワリと広がる甘く熱を帯びたその味にウットリと舌鼓を打った。


「そうそう。レティはそうやって幸せそうに笑っているのが1番可愛いわ。ね、クロエもそう思うでしょう?」

 伯母様がクロエに同意を求めると、クロエも苦笑しつつもコクリと頷いて伯母様に同意を示した。

「そうですね。姫は特に美味しいものを召し上がっている時はとても幸せそうで見ている方も幸せな気分になります」

「それではまるで私が食い意地が張ってるみたいだわ」

 と、クロエに言われてむすっと膨れて見せる。


 クロエはクスクスと笑いながら、

「気分を害してしまったならば申し訳御座いません」

 と、別段悪そうにも見えない表情で私に謝罪を口にした。


 伯母さまは私とクロエのやり取りを目を細めながら微笑んで楽しそうに眺めていた。

 品のある笑みを讃えたまま、伯母さまはハーブティーをゆっくりと口にした後「ところで」と、目を輝かせながら私とクロエを交互に見やる。


「フィオディール様って一体どんな方なのかしら?私は挨拶程度にしか言葉を交わしたことが無いものだから。2人の口から是非聞きたいわ」

「ぶふっ!」

「はぁ…?」

 私は口にしかけていたお茶を吹き出して、クロエは何故そんな話題が今更?と言った様子で首を傾げていた。

 真っ赤になってむせていた私に「あらあらまぁまぁ」と言って慌てることなく伯母さまはナフキンでテーブルを拭いて、何事も無かったかの様にニコニコ笑ってクロエに話を促した。


「先程2年前のお話を耳にしましてね。詳しい内容は言えませんけど、なんでもレティがダールへ行った時に殿下とお会いしたと言うじゃない?あの時レティの護衛を引き受けたのは確か貴女だったわよねクロエ」

「あの、もしかして報告に不備でも御座いましたでしょうか?やはり陛下に直接報告をすべき案件だったと…」


 伯母様に言われてクロエはサーッと顔を青くする。

 やっぱりクロエはテディが誰だか知っていたのね。そんな気はしていたのだけれど。


「あらいやだ、そういうことじゃないのよ。私は貴女を責めるために呼んだ訳ではないのですよ。単純に興味本位なのよ。可愛い姪っ子が夢中になる王子様なんて興味津々だわ」


 コロコロと笑って伯母様はサラッととんでもない事を言う。

 む、夢中って夢中って何!?


「伯母様っ!」と、私は少々恨めしげに声を上げたのだけど、伯母様は特に気にするでもなく、クロエは少し目を見開いて私を見ると、小さく溜息を吐き出して渋々ながら説明しだした。


「いずれそうなるのではないかと思ってはおりましたが…はぁ〜。あの方は男性にしては愛嬌がある整った顔立ちをして居ますが、私がリン・プ・リエンで兵士職に就ていた時から様々な噂が着いて回っていましたよ」

「いずれそうなるって…待ってクロエ!伯母様が勝手に暴走してるだけで、私は別に…」

「レティ、はしたないですよ。ちゃんとお座りなさい。それで?」

 思わず立ち上がった私を諌めるように伯母様が言葉を遮って着席を促し、クロエに話の続きを催促した。

 渋々ながら私が座ると、クロエも苦笑して話を続けた。


「1番有名なのはやはり"王妃殺しの王子"ですかね。フィオディール様が僅か9歳という事もあって当時はかなり騒然とした事を覚えています」


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