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知らぬは当人ばかりかな 5

 えっと…今なんて言ったのかしら?

 リン・プ・リエンの国王陛下…ですって!?


 私はこめかみを押さえつつ、必死で今の状況を整理しようと試みる。

「あの、聞き間違いですわよね?リン・プ・リエンの国王陛下だなんて。なんでまたそんな事に?ワタクシの記憶が確かならば、既に正妃様がいらっしゃいますわよね?」


 2人の間には既に世継ぎも居たはずだ。因みに私はあった事もない。子供がいるにも関わらず見初めた訳でもないならば一体全体どういう事なのかしら…


 レイは重々しい溜息を吐き出して、呆れたような目で私を見てきた。

「そうなる原因に心当たりならあるだろう?俺もお前もな。今リン・プ・リエン国内がどういう状況か考えてみろ。自ずと答えが出てくる筈だぞ」


 今のリン・プ・リエンの状況…

 テディが帰って暫くした後、彼が予告した通り彼の国は内戦状態に陥った。

 リン・プ・リエン国内の様々な場所で火の手が上がり、名の知れた有力貴族達が次々と倒れ、今まさにリン・プ・リエン国内は混乱の一途を辿っていた。

 彼の名前こそ聞こえてこないものの、テディは確実にその中心にいる。

 もし、リン・プ・リエンの国王陛下であるテディのお兄様が私の事情を知ったのであれば…

 私はテディの弱みという事になるのかしら…?


 ゴクリと喉を鳴らして周囲を見渡すと、レイがフォローするように更に言葉を続けた。

「お前の都合は陛下も伯父上も知らんと思うぞ。話してないからな。ましてやリン・プ・リエンの国王陛下がそれを知っているとも俺は思えん。が、同盟国である以上戦力目当てでこの話を持ち出しているのは間違いないだろうな」


 しれっと意味深に言うレイに伯父様もお父様も「何の話だ?」と訝しげにレイに視線を送る。

「レイ、お前はまた何かコソコソと隠し事をしているのか!リオネス殿の事といい現国王はワシなのだぞ?!表立って話せとは言わんが、キチンと報告をせぬかっ!」

「人に国王の仕事を押し付ける癖にこういう時だけ都合良く国王かよ…っんっとにクソ親父だな」

 と、レイは辟易したようにそっぽを向いてぼやき散らす。


 真っ赤になって震える伯父様を一瞥して、はぁ…と嘆息すると、

「当人同士の問題だから俺は何も言えん。聞きたかったらレティに聞け」

 と、レイは私に全てを投げてきた。


 すると今度は伯父様もお父様も伯母さままでもが私をジッと見つめてきた。


(なんっっっっっでここまで話といて私に振るのよ!)


 恨めしげにレイを睨みつけたが、レイは涼しい顔でそっぽを向いている。

 後で覚えておきなさいよ…


 私は真っ赤になりながらも「コホン」と小さく咳をして慎重に言葉を選んで口にした。

「ええと、フィオディール様、とワタクシは…仲のいい………お友達、で…」

 と、言ったところで、レイとお兄様からそれはそれは大きな溜息が同時に吐き出された。


「お前…この後に及んで友達だなんて…流石に俺もフィオに同情するぞ」

「レティ…あの状況で流石に友達は……」


 呆れる2人の言葉に更に私は真っ赤になって必死で2人に弁解する。

「だって!私はまだ答えも出してないし返事もしてないわ!だからまだ…お友達、でしょ?」

 不安になって今にも泣きそうな私に再び2人は大きな溜息を吐き出す。


 始終の私達のやり取りを見ていた伯父様達は驚いた顔で更に私を凝視した。

 お父様はいつかのお兄様の様に真っ青な顔をしている。

「アベル、分かりやすく説明をしなさい」

 引きつった笑みを浮かべながらお父様はお兄様に話を促す。

 おそらく今の私ではまともに話が出来ないと判断したのだろう。


 お兄様は戸惑いながらレイを見ると「良いから話せ」と顎で指示される。

 お兄様は頭を押さえながらも、お父様や伯父様に説明を始めた。


「2年前、レティがダールへ向かった時の事です。詳しい事情は知りませんが、その時にお忍びでウイニーにいらしていたフィオディール様とお会いして仲良くなったらしいんですが…先月例の件で再会して、フィオディール様の方からレティに直々に求婚されたそうです」


 説明を終えてお兄様がガックリと肩を下ろすと、声を上げることもできないと言った様子で事情を知らなかった伯父、伯母、父の3人が、あんぐりと口を開けて私に目を瞠った。


 私は慌ててお兄様に抗議する。

「ちょっ、お兄様!!ワタクシは求婚などされていません!!こ、告白は、されました……ケド…」

「同じ事だろうが。相手は王族でお前は公爵令嬢だ。大体あいつは腹は黒いが遊びでそんなこと言うやつじゃない事ぐらいお前にだって判るだろうが」

「っぐ」


 レイの容赦ない指摘に言葉を詰まらせていると、伯父様もお父様も難しい顔で頭を抱えて唸ってしまった。

「何故そんな大事な話を黙っていたんだ…」

「だ、だって…ごめんなさいお父様……」

「レティ?それで、貴女はどうしたいのかしら?」

 黙り込んでしまったお父様を見て涙目になっていれば、ずっと黙っていた伯母さまが優しく声をかけてきた。

 どう、したいと言われても…


「わかりません…フィオディール様の事はずっとお友達と思っていたので…ちゃんと考えなきゃって思うんですが、何も考えられなくって…」

 くしゃりと顔を歪めると、伯母さまは「あらあら」と言って私に歩み寄ると、ギュッと優しく抱きしめた。

 ずっと堪えていた涙がポロリと思わずこぼれ、私は伯母さまにしがみついた。


 そうすると堰を切ったように涙腺は崩壊して、嗚咽混じりに伯父とはいえ陛下の御前にも関わらず泣く事を止める事が出来なくなってしまった。

 伯母さまは私の背中を摩りながら「ふふふ」と笑って伯父様とお父様に言った。


「答えはもう出ているみたいね。リン・プ・リエンの国王陛下にはお断りのお返事を。今日の所はこれ位で宜しいでしょう?レティ、私のお部屋に行きましょう?美味しいお茶をご馳走して上げますね。そうだわ!クロエも呼びましょう。たまには女3人でゆっくり過ごすのも悪くないわ」

「えっ?でも私…」

 嬉々として言う伯母さまに驚いて涙目のまま見上げると「良いから良いから」と、困惑する私を余所に伯母さまは私の背中をグイグイ押して、部屋から私を連れ出した。


 バタンと扉が閉まると、部屋の中から誰のものともつかない大きな溜息が廊下に向かって落とされた。


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