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知らぬは当人ばかりかな 2

 そんな訳で、私はシャルロットにとてつもなく負い目を感じている。

 甥っ子達は申し分なく可愛いのだけれども、出来る事なら顔を合わせずに過ごしたいと思わずにはいられないのだ。


 しかし、それでも初めのうちは家族揃って朝夕を共にする日々が続いていた。

 甥っ子を囲みお父様とお兄様夫妻と食卓を囲むのはまさに理想的な家族本来の形と言えたと思う。


 それが長く続かなかったのは、私が耐えられなくなった(・・・・・・・・・)からだった。

 仲睦まじく会話をするお兄様とお姉様の姿や、事ある毎にキスを交わす2人の姿は衝撃的で、お父様はもう慣れたといった感じで平然としていたけれど、私はいつまで経っても慣れる気がしなかった。


 兄離れしなければいけない事は重々承知なのだけれど、やはり突き付けられるお兄様と私の間に新たに出来た分厚い壁が何とも言えない寂しさを痛感せずにはいられなかった。


 私の気持ちを察するかの如くお父様は積極的に縁談の話をする様になった。

 お父様としても、孫も出来たしそろそろ爵位をお兄様に譲り引退を考えている節があった。

 そうなるとこの家に私の居場所がますますもって無くなるわけで…


 家に帰って来て僅か2週間で、私は例によって家を飛び出した。

 ただし、潜伏先は目と鼻の先にある王城。


 最低限の荷物を手に、こっそりと客室に泊り込み更にそこから3日経った頃、城のメイドに見つかってレイに久方振りのゲンコツを貰う羽目になったのだった。


 とはいえ意外にも追い出される事は無く、そのままお城でお世話になる代わりに魔法について享受して欲しいとレイに頼まれ、教えられる範囲で教える事となった。

 そこには何故か毎回リオも当然の如く参加していた。


 城の中ではレイ達に魔法を教えるだけでなく、半獣族の祭りの為に各地方の貴族達へ向けて手紙を送ったり、薬剤の免許を取る為に図書館を利用して勉強に励むという忙しくも有意義な日々を過ごしていた。

 ひと月が経った今では、レイやリオだけでなく、城の兵士達までもが私の講義を聞きに来る様になっていた。


 私は日々増える聴衆に頭を抱えレイと話し合って、今日から新しく講義を受ける人に向かって魔法の基礎を叩き込む授業を兵舎で行う事にしたのだった。


 聴衆の中にはクロエやダニエル、ジゼルダ公も興味深げに参加している。

 コホンと小さく咳をすると、作戦会議室にあった黒板をひっぱってきて私は図面を書いて説明を始めた。

「一口に魔法と言ってもその種類や性質は様々で、国や地域によっても根本的な考え方も多種多様となっており、いくら修行を積んだとしても習得出来ないものも中にはあります。その要因の主な原因は2つあり、ひとつは魔法の根源をどこから得ているかに依るものです」


 私は黒板に人と焔狼(えんろう)の絵を描いて焔狼から人へ矢印を引っ張って説明する。

「例えば、神獣から魔法の根源を得ている場合、焔狼の場合は…やっぱり炎という事になるのかしら?」

 と、レイに向かって視線を送るとレイは「しらん」とでも言いたげに肩を竦めてしまった。


 伯父様に教えて貰ってないのかしら?

 私は気を取り直して説明を続ける。


「えっと、まぁ、多分炎じゃないかなぁと仮定して、神獣焔狼が炎を司っているとします。すると、通常人の手では生み出せない様な炎をいとも簡単にその場に生み出す事が出来てしまう訳です」

「それって神獣と契約してないと魔法は使えないって事ですか?」

 興味深げに若い兵士が質問をする。

 私は「いいえ」と答えて更に説明を続ける。


「神獣と契約していた場合は神獣が司る力を通常の人間よりも簡単に使うことが出来るというだけであって、魔法の根源が違っていても似たような根源さえあれば使える魔法も中にはあります。ただ、滅び去った神々を根源とする魔法や竜の祝福に起因する魔法は血筋や祝福を受けたか否かによって使えたり使えなかったりします」


 例えば、半獣族達は元々竜の国の外に住んでいた原住民で、私達と違って竜の祝福は受けていない。

 故に私達の血の中に流れている祝福の力は得ることが出来ず、竜の祝福に起因する魔法は使えないということになる。


「とはいえ、殆どの魔法は自分が得る根源さえ理解していれば理論上は大抵の魔法を使う事が出来る。と言えます」

 おぉ〜!と兵士達から感動の声が上がる。

 私はそこで「但し」と注釈を付ける。


「ここでいくら修行を積んでも使えない魔法の原因ふたつ目です」


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