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最終章 プロローグ

 宙空にシャボンの様に浮かぶ水鏡には真っ赤な顔で頬を押さえる金髪のうら若い娘の姿が映し出されている。

 娘が振り返り、近くにいた同じく金髪の青年を見上げ、じとりと睨み付け何やら口論を始めたところで水鏡はパチンと破裂し映像は跡形もなく消えてしまった。


 部屋には怪しい香が立ち込め、玉座の上では呆れた顔で幼い少女が彼女の神獣を撫で繰り回していた。

「何故じゃ」

 と、誰に言うわけでもなく少女はポツリと呟いた。


「何故あの娘は真名を名乗らない。折角妾が手助けをしてやったと言うのにこれではまるで意味がないではないか」

 苛立たしげに爪を噛むと、そばに控えていた中年の兵士が窘めるかのように口を開いた。

「私の記憶が正しければ、レティアーナ様に真名を授けた事で歪んだ運命を回避したと本人に言っていたような気がする訳だが、貴女はまた説明を面倒くさがって全てを説明しなかったのかい?ライリ」

 やれやれ。と彼女の夫ジャハー・キアーは首を横に振る。


 するとライリと呼ばれた少女ーーラハテスナ皇国の女王ライリ・ミナー・ヌールはムッとした様子でジャハーに向かって反論を唱えた。

「普通洗礼を受ければ自然と名乗るのが当たり前であろう?何故わざわざそのように当たり前の事を説明せねばならぬのじゃ。しかし、これはいよいよ不味い状況になりつつあるぞジャハーよ」

 胡座を組み、腕を組むんで眉間にシワを寄せる一見幼い女王は黄金に輝く瞳をココではない何処か別の場所を必死に探すかの様にくるくると揺らめかせていた。


「せめて真名を見聞きする機会があれば良いのじゃが…困ったのう。このままでは本当にハイニア大陸前代未聞の危機じゃ」

 世に恐ろしきは人の心よ。とライリは呟く。

 女王を支えるように横たわり眠っていた神獣眠虎(みんこ)はピクピクと耳を動かして、やがて珍しくその瞳をゆっくりと開き、大きなあくびをしながら伸びをした。


『干渉しすぎるのも僕はどうかと思うよライリ。運命は変えた分変えた大きさだけ君に、もしくは本人達に返ってくるんだよ』

 心配そうに擦り寄る眠虎を撫でると、ライリはすくりと立ち上がって玉座から外へ本来の姿を現した。

 妖艶な美女姿の彼女の腕には小さな虎の子供が抱えられ、不安げにライリを見上げていた。


「わかっておる。じゃが主らもこの結末は本意では無い筈じゃ。外側から間接的にでも軌道修正が出来ぬか手を尽くすぞ。僅かでもあの運命からずれさえすれば何とかなるやも知れぬ。ジャハーもお前も妾に協力してくれるな?」

 険しい表情で助力を求めるライリに、1人と1匹は神妙にコクリと頷いて見せた。

「女王陛下の御心のままに」

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