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帆柱の屋烏 2

 首を傾げて記憶を紐解いていると、テディはがっくり肩を落として大きく嘆息を吐き出した。


「"特別"の意味ちゃんと考えてくれてます?」

「特別?……ああ!」

 そう言えば、私がテディの事を特別に思ったらテディの事を教えてくれるって言ってた様な気がするわ。


「その様子だと全然考えて無かったんですね…そんな気はしてましたが……僕、いつまで経っても名乗れないじゃ無いですか」

 酷いです。とテディはそっぽを向いてしまう。

「ぅ…ごめんなさい…あ、待って!怒らないで!ちゃんと、ちゃんと考えるから!特別、特別ね」

 と言ったものの、漠然としてて何が答えなのか思いつかない。


 初めてのお友達だから特別なお友達って言ったら怒られたのよね。

 うーん。初めて出来きた友達ってだけじゃ特別な感じはしないのかもしれないわ。だって、仲が良いのか悪いのかわからないもの。


 私にとってテディは特別か否か…

 多分、特別なんだと思うわ。でも、なんて表現したらいいのかしら。

 例えば相手がダニエルだとしたら、背中を預けるなんて少々危なっかしくて無理だと思う。でもテディなら安心して預けられると思うわ。それに一緒にいて誰よりも楽しいとも思うし、もっと色んなところに一緒に行きたいって思うのも多分テディとだけだわ。


 そうね…テディは私にとって特別なーー


「あ、解ったわ!」

 私はポンっと手の上で拳を叩く。

 テディはゴクリと喉を鳴らしてじっと私の言葉を待った。


「多分、こういう関係を親友とか兄弟分とか言うのね!」

「違います!!なんでそっち方向に進むんですか!!」

 苦心の末、私が出した答えをテディは即座に否定する。

 そっち方向って他に方角があるのかしら?


「でも、私にとってテディは他の知り合いとか旅先で出来たお友達とかとも違うと思うわ。そういう意味では親友って言葉が1番しっくり来ると思ったんだけど……テディはそうは思ってくれないの?」

 しょんぼりして肩を落とすと「う…」と、テディは息を飲む。

 そして直ぐにぶんぶんと首を横に振ると、私の肩をがっしり掴んで物凄い迫力のある笑顔で私に力説してきた。


「僕も色々学習しましたし、君がどんなに傷ついても心を鬼にしてあえて言わせて貰います。僕は君を友達ともましてや親友とも思えません!」

「……」


 テディからまさかの拒絶宣言をされ、頭の中が真っ白になる。

 友達と思ってたのは私だけ…?

 私、知らない間にテディに嫌われるような事をしていたのかしら…


 絶句して俯く私の目頭に熱いものがこみ上げてくると同時に喉の奥が焼け付くような感覚が沸き起こる。

 テディは絶望する私の両頬を挟んで無理やり顔を上に向け、どこか切なげな顔で言葉を続けた。

「友達とも親友とも思えませんが、レティは僕にとって特別なんです…これでもまだ解りませんか?」


 友達でも親友でもないけど特別…?

「…それって、妹みたいって事?」


 困惑する私の目を見つめて、テディは「はぁ…」と本日何度目かの嘆息を吐きだすと、私の頬から手を離し、再び私の手を取ると、腰を屈めて指先にキスを落とした。形だけのキスではなく、唇が指にそっと触れるキスを。


「…妹相手にこんな事したいと思いませんよ?」

 そう言ってテディは私を伺うように上目遣いでじっと私の顔を覗き込む。

 今目の前で自分の身に起こった一部始終に思考回路が再び停止する。


「あ……の…………」

 どういう、意味、かしら……?


 無意識に握られた手の指先に目が行く。私の指先からは既に離れているものの、今だ触れそうな位真近にあるそれを見て、触れた暖かく柔らかなその感触を思い出し急激に身体中の体温が上昇する。

 次第にうるさくなる胸を押さえるのに必死で私はやがてそこから動けなくなってしまった。


 テディは今、私に何をしたのかしら?

 その前になんて言っていた?

 特別?特別って、そういう意味なの?!


 パッと思わず握られた手を振りほどいて熱くなる顔を押さえ俯く。

 泣きそうになるのを必死で押さえて、一生懸命言葉を探す。

「待って、待ってね?………あの、えっと……私……」


 待って、待って頂戴。なんて言ったら良いのかしら?

 だって、今まで大事な友達だって思ってたし、そんな風に考えた事なんて無かったわ。

 確かにテディは素敵だと思うし、特別…だし。でも、私、テディと同じ気持ち…なのかしら。


 頭の中がぐちゃぐちゃで、言うべき言葉が見つからない。

 なんて言えば、なんて伝えれば…とそればかりがループする。


 ギュッと目を瞑り黙り込んでしまった私に、テディは落ち着いた声で静かに告げた。

「フィオディール・バルフ・ラスキン。それが僕の本当の名前です」

「…えっ?」


 驚いて顔を上げると、少し困った様な顔でテディーーフィオディールは微笑んでいた。

「仕方ないので意識して貰えただけで今は良しとします。答えは今聞きません。ですが覚えておいて下さいレティアーナ。次に会う時、僕は君に答えを聞きますから」


 テディに"レティアーナ"と呼ばれたのはいつ振りかしら。

 初めて呼ばれた時には感じなかった心臓が跳ね上がる感覚に戸惑いを覚えつつも、それ以上に彼が口にした"本当の名前"が頭の中に焼き付いて、彼の言う"答え"とは別の答え(・・)に更に頭が混乱するのだった。

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