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相入れぬ者 5

「テディ!しっかりして!メル!」

 2人に声をかけるが全く動じることなく己の作業に徹しようとする。


(なんてこと!折角掛けていた魔法が意味を成していないなんて!)


 やがてメルは意を決したかのように剣をまっすぐ構えた状態で一直線に突進してきた。

「力量の増幅!」

 咄嗟に呪文を紡ぎ、瞬間的に男性以上の筋力を得る。

 ドンっと間一髪のところで後ろの方向へテディに体当たりをしてメルの剣を避ける。

 あのまま刃を受けていたら私を貫いてテディにも刺さっていたはずだ。


 持続力がない上に後々激しい筋肉痛を伴うこの魔法は出来れば使いたくなかったと思いつつ、テディとメルから離れ距離を取る。


(考えなきゃ…今戦えるのは私しかいない。せめてテディが正気に戻ってくれれば…)


 メルは剣を構え直し、テディは呻き声をあげて起き上がる。

 そのまま2人で襲いかかってくると予想していた私の期待を裏切るかの如く、テディはニヤリとほくそ笑んでその場に立ち尽くし両手を広げた。

「!!」


(まさか!メルにテディを攻撃させる気なんじゃ!!)


 メルが先程と同じように全力でテディに突進する。

 テディは抵抗することなく両手を広げたままそれを迎え入れようとしていた。


「やめてーー!!」


 私がテディに手を伸ばしたその時、スカートのポケットから強く白い光が溢れ出す。

 スカートから溢れ出したその光は小さく丸い球体となって私の前で静止する。

 やがてそれは人の形を成して、気がつけば目の前には白銀の髪を纏った美しい青年が不機嫌そうに姿を現した。

 よく見ると額には小さな角が生えている。


 むすっとしたまま彼はテディに歩み寄ると、場の空気をぶち壊すかのように思い切りテディの脇腹に蹴りを入れた。テディは抵抗する事なく地面にのめり込む。

「おい、バカ王子、何姫君を泣かせているんだ。こんなもんに惑わされるなんてお前の気持ちなんて所詮その程度って事なのか?だったら俺が貰うぞ」

 腕を組んでニヤリとテディを見下ろす彼を息を飲んで見つめていると、「いてて…」と言いながらテディがむくりと起き上がった。


「テ…」

「お前はいつもいつも!主に対してもうチョットは敬意を払えと言ってんだろうがっ!なんでそう乱暴なんだ!」

 私がテディに声を掛けようとしたその瞬間、脇腹を抑えながらテディは彼に向かって大きな声を張り上げた。

 テディは怒ると何だか別人みたいになるのね。と、だいぶ慣れてきた彼の態度を静かに分析する。


 角の生えた彼は少し涙目のテディを「ふん」と意地悪そうに一瞥すると、スタスタと私の前に進み出て、そっと私の頬を撫でると、今度は打って変わって優しい笑顔で私に声をかけてきた。

「不甲斐ない主で申し訳ない。主に愛想が尽きたらいつでもいつでも私に言うといい。私が貴女を慰めよう」

 もう泣かないで。と彼は私の頬にキスを落とした。

 ちなみに私は泣いていた訳では無いのだけど…


「お、っまえ、は何してるんだーーー!!」

 と、テディは真っ赤な顔で叫んで彼に殴りかかる。しかし、彼はヒラリと横に避けてテディの方がよろよろとよろけてしまった。


「この空間は長く続かない。運命の乙女よ。主を頼む」

 朱に染まった頬を抑えながらキョロキョロと辺りを見渡すと、まるで時が止まったかのようにテディと私、そして彼以外の人物が動いていないことに気がつく。


 彼に視線を戻すと、彼はにこりと愛嬌のある笑みを浮かべて私に手を振った。

 うっすらと彼の姿が消えていく。

「あのっ……ありがとう!」

 と、お礼を言うと彼は少し驚いた顔をして再び満面の笑顔を宿すとやがて空気に溶け込んでしまった。


 それと同時に再び周りの空気が変わる。

 部屋中に歌が響き渡り、メルはテディに向かって突進してくる。


 ただ一つ違うのは、テディが正気に戻った事だった。


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