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ノートウォルドを彷徨って 6

「おい、ふさけるな。一体何をした?」

 ガッと掴みかかろうとリオは私に手を伸ばしたが、私の肩に触れた瞬間「あつっ!」と言って手を引っ込めた。

 私は驚いた顔をしてこちらを見るリオネスを確認すると満足してニッコリ微笑んで答えた。


「最初に言いましたでしょ?ワタクシ、ついこの間までベルンに留学に行っていたと。特にイスクリスには長い事滞在していたんですの。あ、無理に扉をぶち破ろうとしても無駄ですから諦めなさい?」


 唖然として私を見る彼らをクルリと見渡すと、もう一度リオに向かって懇願する。

「ここから出たかったら私を蔑ろにしないでちゃんと頭数に入れて」

 真剣にリオを見つめながら訴えると、予想外に彼は余裕の笑みを浮かべて私の意見に拒否の姿勢を見せた。


「良いのか?俺達を閉じ込めておくという事は、その分お前の従者が助かる可能性が低くなるということだぞ」

 私は彼の言葉に「むっ」として扉の方に歩み寄り、手をかざし、

「抜け道の(しるべ)

 と、呪文を紡ぎ、扉の中に手を突っ込んでみせた。


「ワタクシ1人でここを抜け出すことは可能ですのよ?元々はぐれた友達を探して、どうにかしようと思っていたのですもの。協力が望めないなら貴方がたを閉じ込めて当初の予定通りに探しに行くだけですわ。もっとも、私が運悪く死んでしまえば貴方達はここから出られなくなるでしょうけど」


 どうだ!と言わんばかりにニヤリと笑ってみせると、兵達は顔を青くして、ダニエルは口をあんぐり開け、リオは苦虫を噛み潰したような顔をして拳を握った。


「あいつが惚れた女だからただの女だとは思っていなかったが…似すぎだろう……」

 と、リオはボソリと謎の言葉を呟く。

「何の話ですの?」

 と、首を傾げると、突然扉の向こう側から私は誰かに突っ込んでいた腕を引っ張られて、外に引き摺り出されてしまった。


「きゃあ!」

「うわっ!」

 勢いよく引っ張られて倒れそうになった私を、引っ張った相手が驚きの悲鳴を上げながらも反射的に私を受け止める。


「び、びっくりしました…扉から腕が生えてるかと思ったらレティじゃないですか!何でこんな処にいるんです?1人ですか?」

 その声にパッと顔を上げると、驚いて目を見開いたテディがそこにいた。

「テディ?テディなの?!無事だったの?!良かった。私、貴方を探そうと思って…本当良かった……」


 ホッとした所為か、涙腺が緩みぽろぽろと大粒の涙が堪えきれずに流れ出した。

 視界がゆがんでテディの顔が全く見えない。

 それでも何とか現状を伝えようと、嗚咽混じりにテディに話し掛ける。

「メルが…私の所為で、メルが…どうしたら良いのか、私……」


 上手く説明出来ない私の話をまるで全て理解しているとでも言う様に、テディはギュッと抱きしめて、私の言葉を遮った。

「レティ…すみません。レティの所為じゃないです。僕は知っていたのに黙ってたんです。君を傷つけたく無いと思って…責めるなら僕を責めて下さい。本当にすみません」


 辛そうな声で語りかけてくるテディの胸に、私は顔を(うず)めながら首を振って答える。

 テディが私達を置いて自分だけで解決しようとした気持ちは良くわかるから責めることなんて出来ない。

 私もメルに同じ事をしたのだから。


「おい!誰かそこにいるのか?!」

 扉の向こう側からリオの声と扉を叩く音が響き渡り、ハッと意識を取り戻す。


「その声は兄上?」

 不思議そうに首を傾げてテディは扉の向こうにいる人物に話し掛ける。

「えっ?!」

 テディの一言でとめどなく溢れていた涙は一瞬にして渇き、代わりにサーッと血の気が引いた。


 お、お兄様?お兄様って言った?!

 い、言われてみればどこかテディに似ていた様な…まさか初対面な気がしなかったのはその所為…


 顔面蒼白になる私の心情を知ってかしらずか、扉の向こうにいる被害者は無情にも端的な真実だけをテディに突きつける。

「フィオか?お前ならここを開けられるんじゃないのか?そこにいる姫君が俺達を閉じ込めてんだよ」

 その一言にドキリっと罪悪感が突き刺さる。

「いえ、テディ(・・・)です。閉じ込められてるって開かないんですか?ここ。んーこれ魔法ですよね?…無理です。この手の魔法は術者じゃないと解けません」


 ドアノブに手を掛けて丹念に調べながら、テディは呑気な声でリオに話し掛ける。

 続いてポンっと私の肩に手を置くと、覗き込むようにしてテディは私に優しく話し掛けた。


「レティ?一体中で何があったんです?無意味にこんな事したわけじゃ無いですよね?兄上に何かされましたか?」

 う…いくら知らなかったとは言え、友達のお兄様を脅したなんてとても言いにくいわ……


 スッと視線を逸らして俯くと、テディは更に優しく頭をポンポンと撫でてきた。

「大丈夫です。解ってますから。レティは嫌がらせでこんな事できる子じゃないですから」

 にっこり微笑むテディにグサリととどめの一撃を貰ってしまった。

 テディはもしかして、お父様みたいに良心に訴えて叱ってくるタイプなのかしら…?


 真っ赤になりながらスススとテディから離れると、俯いたまま小さな声でテディに謝罪した。

「ご、めんなさい…どうしても私も手伝いたくてワガママを言いました……」


 お父様に叱られている錯覚を覚え、いたたまれなくなってギュッとスカートを掴んで耐えていると、少々驚いた顔をしてからテディはまたにっこり笑って私の頭を撫でた。

「とりあえず、ここの魔法解いて貰えませんか?お手伝いがしたいなら僕がちゃんと連れて行きますよ。もう置いてったりしませんから」

 ね?とテディは首を傾げる。


 私はコクンと頷いて、扉に手をかざすと、トンと1回右足のつま先を鳴らして扉にかかっていた魔法を解いた。

 ガチャリ、とノブをまわして扉を開けると、ホッとしたように中にいた全員がこちらを見た。


「助かった。フィオ、礼を言う」

 リオが溜息混じりに前髪をかきあげながらそう言うと、すかさずテディは、

「いえ、ですからテディです!」

 と少し怒った様に声を上げた。

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