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相反する決断 2【フィオ編】

 =====



 一度第5拠点へ戻りウイニーとの交渉の準備とレムナフ,ホルガーへの指示、魔術師の手配を行い、再びウイニーへ。

 ウイニー王都へ入った所で、フェンスの【かかとの折れたハイヒール亭】で手に入れた情報よりもより詳しい情報を入手することが出来た。

 どうやら情報が錯綜しているようでフェンスで仕入れた情報には誤情報が混じっていたようだった。

 僕としては対した間違いではないが、ウイニーにとっては間違いなく大きな問題となるだろう。


 それを踏まえた上でレイと交渉を行うと、すんなり了承を得ることが出来た。

 レイから得た情報の中に僕にとって頭痛の種が混じっていたのは頂けなかったが、噂を辿るよりも確実な情報を手に入れることが出来たので良しとした。


 後はひたすら北を目指すだけだったーー




 焔狼の森の湖で小休憩を取る。

 ついでに忙しくて読む事が出来ず、溜まっていたレティからの手紙を順番に読みふける。

 最後に貰った手紙の文章で、「これから北のーー」という部分に差し掛かった時だった。


 後方から女性の悲鳴が聞こえた気がした。

 立ち上がり、辺りを見渡すが異変は感じられない。

 気のせいかと思って座り直そうとした瞬間、すぐ横の茂みから何かが飛び出して来るのが視界に入る。

「止まって!!」

 飛び出してきた影が声を上げる。

「……えっ?」

 その姿に思考が停止する。短かった金糸は真っ直ぐ長く伸び扇のように広がり、しなるような身体は以前よりも細く滑らかな曲線を描いている、そしてあの時絹のように白かった肌は健康的に焼けていて…

 2年前とは大きく違っていたが見間違える筈は無かった。

「ん?」

 と、僕の声に反応して彼女が振り返る。

 夏の青空のように澄んだ青い瞳が湖に消えるその瞬間、僕は息をする事すら忘れてしまっていた。



 ずっと夢にまで見ていた彼女が目の前に現れたのだ。

 到底こんな場所で出会うなんて誰が予想できると言うのだろうか。

 しかも更に美しく成長した姿で。だ。


 流石に湖に落ちて浮き上がって来ない事に気がついた時は焦ったが、助けた後目を開いて言葉を話す彼女は間違いなく現実にここに居るんだと感動して抱き締めずにはいられなかった。


 しかし、それもつかの間だった。話を聞くうちに知りたく無かった事実に到達する。

 彼女の目的、間違った(・・・・)噂の認識。そしてこれから僕がやろうとしている事。

 どれもレティを傷つけるものに違いなかった。


 再会出来た喜びが闇の奥深くに沈んで行った。





「テディ?どうかしたの?」

 ブリュークのトップル蒸しを美味しそうに頬張りながらレティは首を傾げる。

 僕はぼーっとしていた意識を取り戻し、

「いいえ、何でもありません。少し疲れてるだけです」

 と、笑顔で返事を返した。


 何故こうも自分はツイていないのか。いや、ある意味ではツイているのかもしれない。

 ずっと会いたいと思っていたレティとの再会、ネグドールでの半獣族ピアとの出会い。

 どちらも喜ばしい事ではある。但し同時でなければ。

 例えばレティではなくクロエさんと再会したのであれば僕は迷うことなんて無かったのに…とレティ達に気付かれないように小さく溜息を吐く。

 敵陣も作戦も目の前だというのに僕は今、今後のあり方を考えて宿屋の食堂で夕食を食べながら立ち往生していた。

 ゲイリーがいれば間違いなく「私情を挟むからそうなるんです」と言われるだろう。取るべき行動などピアを連れて行くと決めた時点で決まっているというのに。


「全く、上手く行きませんね」

 僕は聞き取れない位小さな声で呟いた。


「何か言った?」

 と、また訝しげにレティは声をかけて来る。

 レティは人の感情の機微に敏感だなと思わず苦笑する。

「僕、やっぱり疲れが溜まってるみたいなんで先に戻って休んでますね。今後の事は明日相談しましょう」

「大丈夫?テディ、おやすみなさい」

 心配そうな彼女にもう一度微笑むと手を振って部屋に戻った。



 部屋に戻ると早速外に出る準備をする。

 装備は必要最低限で手には革製の手袋はめる。

 ふぅ…と息を吐き出して、どうにかこうにか気持ちの切り替えを行う。


 窓の外を確認した所で、コンコンとノックの音がした。

「テディ様、まだ起きていらっしゃいますか?具合の方は如何ですか?」

 と、メルさんが入ってくる。手には何やら薬を持っていた。

「お疲れでしたらこの薬、お嬢様から分けてもらいました。疲労回復に効くので……あの、その格好は?」

 不思議そうに首を傾げて扉の前で彼は佇んだ。

 彼にだけは説明して行こうと思っていたので丁度いいタイミングだった。


「大丈夫ですよ。心配お掛けしてしまったみたいでわざわざすみません。そこ閉めて貰っていいですか?」

「あ、はい」

 そう言ってメルさんは慌てて扉を閉める。

 僕はその隙に窓を閉め、メルさんに気づかれないように小さく呪文を唱え、パンと小さく両手を叩く。

 一時的だが一種の結界を部屋に貼り付け、外へ(・・)干渉出来ない様にした。

 メルさんは気づく様子もなく、部屋にあるテーブルに薬を置いた。


「メルさん、僕はこれから取り引き相手の所へ行って来ます」

「えっ?!今からですか?」

 驚いた顔でメルさんはこちらを見る。夜もだいぶ深まり、常識で考えれば外を動き回るには最適とは言い難い時間帯になって来ている。僕はコクリと真剣に頷いて返事をした。


「なるべく朝までには戻って来るようにしますが、そのまま戻らない可能性もあるのでその時はレティをよろしくお願いします」

「ま、待って下さい!戻らない可能性があるって一体どういうーー」


 困惑するメルさんの肩を安心させるようにぽんぽんと叩いてみせる。

「可能性は可能性ですよ。あまり安全な町とは言い難いですからね。あ、この薬、有難く頂いて行きますね。僕が戻らなかったらレティにもお礼を言っておいて下さい」


 そう言って僕は薬をポケットにしまうと再び窓を開け、そこに足を掛けたところで再び彼に声を掛ける。

「メルさん、先に謝っておきます。すみません。…恨んでくれて構わないです」

「えっ?」


 僕は振り返ることなくそのまま窓から屋根へよじ登る。

 靴に消音呪文を唱えると町の何処かに刻まれている夢想特有の目印を探しながら僕はレムナフの潜伏している場所を目指した。

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