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相反する決断 1【フィオ編】

 =====



 兄上をウイニーに預け、身を隠して1年。あれから心配していたエルネストからの襲撃は全く無かった。

 夢想の報告では城から僕や兄上を追い出した事で安心しきっている節があるとの事だった。


 とはいえアスベルグに雪狐や夢想兵の一部が集結している情報はあちらにもキッチリ入っているらしく、時折密偵らしき人物がアスベルグ内で動き回っているとの報告が来ていた。


 僕が失踪してからの最初の数ヶ月は開拓地の方にも密偵を送り込もうとした節があったが、第一拠点跡から先に進むことが出来ず、帰って来ない密偵も多かった為諦めてしまったらしい。


 一見するとこちらが有利な状況と言えるが、アスベルグの事を考えると一概にそうとも言えなかった。


 鯨波は国王の近衛を務めると同時に、海軍を担う騎士団だ。

 鯨波の約3分の2が海軍隊と言っていい。

 主な拠点は2カ所程だが、1番大きな拠点は王都の北の港ノースプリエン、もう一つは王都とアスベルグの間ほぼ中央に位置するウズマファスだ。

 鯨波が攻撃をしかけてくるとすればウズマファスからアスベルグに向けて海軍が出動する可能性が一番高い。動きがないのは完全に舐められているか、僕や兄上が現れるのを待っているかのどちらかだろう。


 このまま硬直状態が続くだけならばある意味王都を攻めやすいのかもしれないが、アスベルグの現状の軍備では王都を攻めている間に海側から落とされて国境を越えられてしまう恐れがあった。


 その先に待っているのはウイニーを巻き込んだ戦争でしかない。

 エルネストがアスベルグを手に入れてしまえば、戦力が鯨波しかないエルネストは同盟国に助けを求める可能性の方が高い。

 それだけは何があっても避けなければいけない。

 レイやレティを巻き込むような、ましてや敵対など僕の望むべき所ではないのだから。


 そんな悩みを抱えアスベルグの軍備強化に心血を注ぎ更に1年が経ち、耳に入ってきたのがノートウォルドの人身売買の話だった。

 ノートウォルドの噂を耳にしたのはほんの偶然だった。

 フェンスでゲイリーと【かかとの折れたハイヒール亭】で定期連絡をとっていた時の事だった。


 エルネストの密偵がアスベルグを彷徨いているだけに、開拓地へ繋がる道を悟られては困るので定期連絡はここの客室で行うようになっていた。居心地のいい場所ではないが男が2人で顔を合わせていても不自然ではない場所としてはうってつけと言えるし、ここの女将は顔が広く、様々な情報を仕入れてくる上に客に関する事は相手が誰であろうと決して口を開こうとはしないので信頼を置くことが出来た。


 女将から幾つか買った情報の中に紛れ込んでいたのが(くだん)の噂だった。


「ゲイリー、これはいい機会だと思いませんか?前に購入したイオドランの戦艦の威力と夢想、雪狐の連携を図るのにうってつけです」

「どうですかね、クジラを想定するならどうあがいても子供の戦争ごっこにしかならないと思いますが…何よりウイニーの問題ですから我々が手を出せばバレた時に厄介な事になりませんかね」

「ウイニーに交渉するのは然程難しい事ではありませんよ。それに戦艦自体は改良に改良を重ねてあるのでクジラに匹敵できる強さの筈です。確かにクジラを想定した時にその辺の犯罪組織では物足りないかもしれませんが、現場の問題は海上戦が未経験な事と夢想と雪狐の連携の強化にあります。自信をつける意味でもやって損は無いかと」


 確かに…とゲイリーは顎髭を撫でながら呟く。

「ウイニーの交渉は殿下にお任せするとして、第5から魔術師の手配とレムナフを呼んでも?」

 ゲイリーの提案に僕は少し眉を寄せる。

 レムナフは夢想騎士団の副団長だ。現在は第5拠点からゲイリーに代わって開拓地警備の全管理を行っている。

「何故レムナフを?魔術師の件はいずれアスベルグに必要だと思っていたので了承はしますが…必要ですか?レムナフ」


 僕の問いにゲイリーはニヤリと微笑みながら答える。

「私がアスベルグを離れるよりレムナフに動いてもらった方が都合がいいでしょう。実戦をこの目で確かめたいとは思いますが、最終的にアスベルグは雪狐に一任したい。そうなるとバシリーは必然的にノートウォルドの実戦で指揮を取らざるを得ない。アスベルグに主要人物2人がいなくなるのも大問題ですからね。それに目減りする兵力と戦艦を誤魔化すためにも私がいた方が良いでしょう。幸にも開拓地はまだ目を付けられていませんし、ホルガーに一任して問題無いのでは?」


 なるほど。と僕は頷いてみせる。

 実践を行う上で兵達がアスベルグを離れた場合、密偵に勘付かれて隙を付かれる可能性の方が高い。

 そうなってしまっては元も子もない。

 レムナフならば確かにゲイリーの代わり以上の働きをしてくれるだろう。


「わかりました。では、ゲイリーはアスベルグに戻ってバシリーと今後の相談を。拠点には1度戻る予定だったので僕が行きましょう。レムナフには事前調査も兼ねて直接現地へ向かってもらう様に言っておきます。ホルガーには極上のトップルでも持っていきますかね。流石に可哀想ですから」

「御意。その気遣いをたまには私にも見せて下さると嬉しいのですがね」


 やれやれとゲイリーは首を振る。

 こう言った経緯で僕はノートウォルドに向かう事となった。


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