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交渉と対話 4【フィオ編】

 ゴーグルと外套のフードを頭から外すと、カチリと玄関の鍵を開ける。

 するとすぐ目の前に雪狐の兵士が刀身を差し出してこちらを威嚇した。

 攻撃の意思はないとゲイリーと2人、両手を上げて見せる。


「兄上に用があってこちらに来ました」

「フィオディール様!これは失礼致しました。ご案内致しましょう」


 兵士は僕達の姿を確認し、剣を仕舞うと「こちらへ」と言って来客室へ案内する。

 一階の中央階段の裏手に位置するその部屋は中庭を一望出来るこの屋敷で一番見晴らしのいい場所だ。

 椅子に座り、兄上を待つ。すぐ後ろにはゲイリーが控えている。

 庭の気配を追うと、微かに夢想の兵が動いているのが感じられた。

 続いて屋敷の中の気配を探る。


「思っていたより居ませんね」

 ボソリとゲイリーが呟いた。

「…ええ、ですが油断しない方がいいでしょう」


 不気味な静けさの中、カチャリとドアノブが回る音がした。

 静かに開いた扉の奥から気難しそうな顔の兄上が中に入って来た。

 正面の椅子にどかりと座る。


 僕はいつもの様にニッコリ微笑んで兄上に挨拶をする。

「思っていたより元気そうで何よりです。こちらでの暮らしで何か不自由な事はありませんか?」

 椅子の背もたれに片腕を掛けて庭の方を見たまま兄上は憮然と返事をした。

「何もない。自由とは言い難いがな。匿ってもらってるのにこんな事をいうのはなんだが、お前、一体なにしに来た?俺と接触したら危険なのは解っているだろう?」


 不満そうに言葉を吐くが、兄上は決して目を合わせようとしない。

 雪狐がいるから余裕だという様子も特には見られない。

 エルネストから特に指示は来ていないのか?


「その件なんですけどね、陛下にはもう兄上がここにいる事バレバレみたいなんですよね」

「なっ?!」


 心底驚いた顔で勢い良く立ち上がった。

 顔色は悪く、冷や汗が流れている。


(まるで本当に知らなかったと言った感じだな…どういう事だ?兄上自身が知らせたので無ければ、何故エルネストは兄上がここにいる事を知っているんだ)


 これが演技でないのであれば、雪狐に間者が混じっているのかもしれないな。

 僕は考えを巡らせながらも悟られない様に兄上に話し掛ける。

「それでですね兄上、一つ聞きたい事があるんですよ」

 ニッコリ笑って兄上を見上げ「どうぞ座って下さい」と、着席を促す。

 兄上は青い顔のまま恐る恐る椅子に座った。


「聞きたい事とはなんだ?」

「簡単な事です。兄上は雪狐の兵とご自分の命、どちらか一方を差し出せと言われたらどちらを差し出しますか?」

「なんだとっ!?」


 兄上はまた立ち上がり、後ろに控えていた兵は剣の柄に手をかけた。

 扉付近にいた雪狐も少し殺気立っているのが判る。


「落ち着いて下さい。ただ聞いてるだけですから。まぁ、返答によってはこちらも考えなければなりませんが?」

 笑顔を崩さず首を傾げる。夢想には僕が抜刀しない限りは殺気を出さないように言いつけてあるが、微かに緊張している節が感じ取れた。


(まったく。雪狐がこっちに気を取られて居なければバレてしまいますよこの気配)


 兄上はと言うと、フルフルと拳を握りながら顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけている。

「そんな顔をされても僕も切羽詰まってる状態ですから、ちゃんと答えてくれないと困るんですよ。兄上だってこんな所で殺生沙汰とか嫌でしょう?」

「当たり前だっ!俺は死ぬのはゴメンだがそれ以上に部下を犠牲にする程落ちぶれちゃいない!」

「では、ご自分を犠牲にして雪狐をとると?」

 僕の問いに迷いなく兄上は力強く頷いて見せた。


 僕は後ろに居たゲイリーと顔を見合わせると、ゲイリーはコクリと頷いて見せた。


「良い返答ですね。ご自分を選んでいたら僕、兄上を軽蔑するところでした。尊敬する兄上が兄上で良かったです」

 頬を染めて嬉しそうに優雅に微笑んで見せる。

 兄上はそれでも警戒する様に此方の出方を伺っている。


「そこまで警戒しないで下さい。悪いようにはしませんから。実はですね、僕、陛下に兄上の首を持って来てくれって言われちゃったんですよ」

「なっ…」

 絶句する兄上の前に雪狐の兵が庇うように剣を抜いて威嚇する。

 扉の前の兵も同様に抜刀した。

 しかし、僕とゲイリーはあくまでも剣は抜かない。


「ちょっと落ち着いて下さいって。僕、その気は無いですから、話はちゃんと最後まで聞いて下さい」

 両手を上げて意思表示を示す。すると雪狐の兵たちも警戒は解かずに剣を収めた。


「いい子ですね。兄上、僕が兄上を助ける条件はただ一つです。キツネとの契約を破棄して、雪狐を解散して下さい」


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