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ピエドラの町

嬉し恥ずかし(いや嬉しくないですね、恥ずかしいですね!)旦那様と手をつなぎ、モンデュックの丘を下っていきました。天気もいいので、のんびりお散歩気分です。ええ、お散歩ですよ!

景色を見ながらゆっくり歩いていましたが、それでもピエドラの町まではそんなに時間もかからず到着しました。




昨日馬車で通り過ぎたよりもずっと間近に、町の躍動が伝わってきます。


「賑わってますね~」


荷台にてんこ盛り農作物を載せた荷馬車が往来を行き来しています。マルシェ帰りなのか、膨らんだ買い物かごを重そうに持っている人や、おめかしをした男女、はしゃぐ子供たち。

大通りはたくさんの人や馬車で賑わっていました。

王都以外は自分ちの領地しか知らない私は、どこを見ても物珍しく、さっきからきょろきょろと他所もの全開です。だってうちの領地、こんな賑やかな活気に包まれてなかったですもん。うう、豊かな領地ってこんななのですね。しょんぼり。

「そうですね。ピエドラは公爵領の主都ですし、公爵領内でとれる農作物や鉱物など、王都に直接送る分以外はほとんどがここにまずは集まってきますからね。ああ、あまりきょろきょろしていると危ないですよ」

旦那様はそう説明しながらも、私がきょろきょろとしていても大丈夫なようにしっかりと手をつなぎ、私の歩調に合わせて歩いてくれています。うん、恥ずかしいけど安心感が芽生えてきました。感謝はしてます。

「ほとんど、ということは、あの、以前送ってきてくださった南のご領地の果物なんかもですか?」

「ええ、もちろんですよ」

旦那様は頷きました。

遠征中に送ってきてくださった、あの果物です。そういや私、結局あの贈り物のメッセージをわからずじまいですねぇ。ロータスもお義父様たちも教えてくれずじまいですよ。

今なら旦那様に聞いたら教えてくれるかしら?

そう考えた私は、

「旦那様? あの時の果物に、何かメッセージを込められていたんですよね?」

自らの好奇心のために旦那様に尋ねました。

「え? ああ、まあ。でも貴女はわからなくてもよかったんですよ」

旦那様はいつも通りの微笑みで返してきました。ふむ、何でもないことのように言ってますが、気になるものは気になるのですよ。

「でも、お義父様もお義母様もロータスだって、あそこにいた人はみーんなわかってたのに、私だけわからなくていじけそうでしたよ」

いや、実際いじけましたが。

「そうでしたか。それは申し訳ないことをしましたね。まあ、簡単なことですよ。言ってしまえば『袋のネズミ』という意味ですから」

「あ、それお義父様も言ってました。『袋のネズミ』って」

「そう。麻袋の中の果物を敵方、麻袋をわが軍と見立て、きっちりと包囲して逃げ道がないということを、あの袋の果物に込めただけです」

あっさりと旦那様は教えてくださいました。

「はぁぁぁ。あの果物にはそんな深い意味があったんですね……」

そうだったんですねぇ。感心しきりで口あんぐりです。

完全に知らなかったよ! と私の顔にばっちり書いてあったのでしょう。旦那様はクスッと笑ってから、

「歴史書に載っている故事なんですが、あまり一般には知られていないエピソードなんでね。貴女が知らなくても当然です」

フォローを入れてくださいましたが、私の勉強不足が露呈してしまいました。

ええ、私、机でのお勉強は苦手です……。

「え、えっと、また今度そのお話とか、勉強しておきますね!」

とりあえず繕っておきましょう。

「屋敷の書庫にあると思いますよ。ロータスに言えば出してきてくれます」

「お屋敷に帰ったらお願いしてみますね!」


そんなことを話しながら歩いていると、食料品や生活雑貨、いろんな物を売っている広場に出ました。うん、多分マルシェですね。

買い物をしている町の人や、お店の人の声でざわざわしています。

「マルシェですね!」

「そうですよ。寄って行きますか?」

「はい!」

買わなくても店先をひやかしたり知れるだけでも楽しいですからね!

果物屋さん、八百屋さん。王都とはちょっぴり違った種類のものが多い感じがします。結婚前の貧乏生活は伊達じゃないですよ! 自分で八百屋に行って買い物してましたからね! 




一通り見終わったところで、お昼近くになりました。

結構大きなマルシェで広場の奥の路地までお店があり、見るのに意外と時間がかかったのです。しかし品ぞろえは豊富で、多種多様。まさに何でもそろう感じです。何でもあります、ないものもあります、ってヤツでしょうか。

いやいや、それよりも。

お店を見るのに夢中になってすっかり忘れていましたが、気が付けばずっと歩きっぱなしです。別荘を出たのが朝食後。そしてもうお昼ですから、さすがにちょっと疲れてきました。

ちょうどお昼時間でもありますし、ここらで休憩をお願いしてもいいですよね? お昼は昨日見たオープンカフェ希望です。多分ここからそう離れてはいなかったと思うんですけど。

「旦那様、ずっと歩きっぱなしだったから疲れてきてません? ちょうどランチ時ですし、どこかで休憩がてら食べませんか? それとも別荘でランチを用意してくださっているのなら、戻ります?」

隣を歩く旦那様に問いかけました。「聞いてるかー?」とばかりに繋いだ手をキュッキュッと握ると、すぐさま気付いて。

「本当だ。すっかりマルシェをまわるのに夢中になってましたね! お昼は適当に済ませてくると言ってあるので、この辺りでよさそうなお店を探しますか」

まぶしそうに空を仰いで言いました。お日様はすっかり一番高いところにありました。

「わあ! 本当ですか? では、昨日通り過ぎた街角のオープンカフェに行ってみたいんですけど、どうでしょう?」

「ああ、ちょっとかわいらしい感じの?」

「はい!」

「いいですね! ではそこに行ってみますか」

「はい!!」

旦那様はすぐさま同意してくれました。やった、うれしいな!

「あのカフェなら……こっちですね。行きましょう」

「は~い!」

さすがは旦那様。昨日通りがかっただけなのに場所をバッチリ覚えているようです。ぐるりと周りを見渡すと、すぐにカフェの場所の見当をつけて歩き出しました。




カフェを目指してマルシェを出たところで。


「おや、見かけない顔だな~」

「いい服着てるし、どっかの商人のボンボンかぁ?」

「ほう! あんたも綺麗な顔してっけど、連れのねえちゃんは、これまた上玉だなぁ~」


私たちの目の前に立ちはだかった、三人の男たち。服をだらしなく着崩して、仕事もしてないぐうたらにしか見えません。やたらと日焼けして、ギラギラテカテカしています。20代後半くらいでしょうか? 体は大きく、がっちりしています。見るからに荒くれ者って感じです。

男のうちの一人がヒュウ、と下卑た口笛を鳴らしました。


なにこの明らかに『ゴロツキですねん』という感じの安っぽい男たちは!!


これは旦那様と私に絡んできてるんですよね? ……大丈夫かしら? ちらりと旦那様の顔をうかがえば。


「なんだ、お前たちは」


さっきまでとは違う、低い声でゴロツキたちに言いました。私をさり気なく背に隠しながら。あ、でも見ていたいので背中からちょこっと顔を出させていただきますね。全体的には隠れておきますけど。

「俺たちぃ? 俺たちはちょっとお金が欲しい、ただの庶民だよ?」

「素直に金出せば、ちょっとしか痛い目に会わなくて済むぜ~」

「あ、そのねーちゃんも置いていけよな」

軽ーい口調で次々に勝手な事を言ってます。あ~、この人たちバカですね。って、旦那様のこと知らないから仕方ないか。領主様ですよ~、しかも騎士様ですよ~。

「……ふむ。どうしようもないただのクズとみた」

旦那様が冷たい視線で男たちを見据え、冷たい声で言いました。あ、斜め下から実況させていただいてます。

こんな旦那様の表情、見たことないですね。

キリリ、と相手を射抜く視線というのでしょうか。いつもの、柔らかい微笑みを浮かべている顔とは全然違います。纏う雰囲気も凛としています。ふむ。これが騎士様おしごとモードの旦那様でしょうか?

とっても頼もしく見えます。


いつの間にか私たちを取り囲んで、人だかりができていました。あら、ちょっとした見せ物になってしまってます。


私のすぐ後ろに、若いお姉さんが立ちました。町のお姉さんです。旦那様がすかさずちらりと目配せしたのが見えました。お姉さんが頷きます。「ちょっと見ていてくれ」「了解」てな感じですかね。

お姉さんのすぐ後ろにも壮年の、町の男の人が二人立っていました。この人たちも、ゴロツキたちを睨んでいるところを見ると味方ですね。


私がまわりを気にしている間にも、旦那様とゴロツキは一触即発状態になっていきます。


「クズとはまたお言葉だなぁにーちゃんよ」

「これは痛い目みたいらしいなぁ」

「綺麗な顔に傷作っちゃったらごめんねぇ~。ついでにそのねーちゃんに無様な姿見せてやれよ~!」

「だな~!」


へらり、といやらしく笑った男その1が、拳を固めて旦那様に向かってきました。

あーらら、知らないですよ? その人、騎士様プロですからね!


今日もありがとうございました(*^-^*)


小話祭り、活動報告にてまだまだ開催中です♪

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