領地に到着
王都内の道は、どこもばっちりと整備されているので快適な馬車の旅です。
ガタゴトと揺れもマイルドに馬車は進んでいきます。
その上もともと乗り心地抜群な馬車ですから、また眠気との戦いかと思いきや、初めて見る外の景色を見ていると意外と飽きないもので。
二人っきりで馬車に長時間なんて間が持つのかしら大丈夫かしらと初めは不安でしたが、外に見える初めてのものを旦那様にアレコレと質問などをしていると、とってものどかに時間が過ぎていきました。杞憂でよかったです。
旦那様がおっしゃっていたように、途中の町(村?)でお昼を食べたり休憩したりと、のんびりと公爵領までの道を行きました。
王都を出るとたいていの道は悪路と化すのですが、いつまでもたっても綺麗に舗装された道が続いています。おかしいですねぇ? 私の少ない経験から語りますと、王都を出ると途端にガッタンゴットンと大揺れするんですけど。
「もう王都は出たのですよね?」
「ええ、出ましたよ。まだ端っこですがもう領内です」
公爵領は王都に隣接していますからね。領地は隣接していても、メインの町までは少し離れているのです。
「それにしては道が整備されているなぁと思いまして」
私は疑問を口にしました。
「そうですね。領内の道は総て、王都と同じように整備されてます。それに、領内から主要な都市へ行く道も同じように整備されていますよ。ああ、どの道を通っても王都と公爵領に繋がっていますけどね」
総ての道は王都に続くんですか! しかも王都だけじゃなく公爵領にも?! 旦那様、しれっとすごいことを言いましたね。知りませんでした。じゃあ、うちの領地内の道も整備してほしいものです。え? 主要都市じゃないって? 失礼しました~!
ちなみに実家の領地に行く時などあまりに悪路で、馬車の中で頭を打ち付けないかひやひやするくらいに揺れますよ。まあそれも、整備をするお金がないだけなんですけどね~。貧乏貴族の領地と名門貴族の領地の違いですね。ごめんね、実家の領民たちよ!!
公爵領は、道路をきちんとメンテナンスする余裕があるんですね。すばらしいです。
まだしばらくガタゴトと揺られて、田舎風景、田園地帯、森林地帯、一見荒れ地に見える鉱山地帯などを一通り通り抜けました。
青々と穀物が茂る田園地帯など、見るだけで豊かさが伝わってきましたよ。実家の領地の畑は、いちおう穀物は育ってましたが日照時間とか寒さなどの関係でしょうか、ココのような青さではありませんでした。むしろ茶色っぽい……うう、うらやましいぞ、公爵領!
鉱山地帯は、掘り出した地肌がむき出しになっているので、全体的に赤茶っぽい色をしています。
「ここで公爵領自慢のルビーが採れるんですよ」
通り過ぎる時に旦那様が説明してくださいました。例のピジョンブラッドとかですよね。
「ルビーが採れるから、土も赤っぽいのかしら?」
何気に口にしたのですけど、
「それは関係ないと思います」
あら、旦那様につっこまれてしまいました。
またしばらく揺られていると、格段に人通りの多い場所に出ました。家や、広い道などが見えるので、どうやら町のようです。
「ここは?」
窓にへばりついていた顔を旦那様に向けて聞けば、
「ここが領地の中心地ですよ。この町の外れのモンデュックの丘に公爵家の別荘があります。ほら、あそこ」
旦那様も身を乗り出して、別荘の方を指さして教えてくれました。
町を見下ろすような感じで小高くなっている丘の上に、確かに小さく家が見えています。でも小さすぎてよくわかりません。
別荘を目指して町の中に馬車がどんどん入っていくにつれて、人通りもさらに増え、家や店などが見えてきました。
お貴族様のお屋敷のような家は見当たらず、小ぢんまりとした石造りの家が続き、田舎らしいこざっぱりとした服を着た人たちばかりが往来しています。まあ、言うなれば王都の庶民街のような感じです。
どの建物もちょっと薄い赤茶色の石が使われていて、統一感のある町並みです。その色がまたオシャレなんですよね~。
「綺麗な町並みですね!」
思わず声を上げると、
「ここの町は、鉱山で切り出された石を使って建物を立てていますから、色が似るんですよ。街全体が全体的にピンク色っぽいですが、お気に召しましたか?」
「ええ、とっても!」
王都や実家の領地では、基本白や灰色の石を使ってますから、ココのように素敵な色合いの町並みって珍しくてテンション上がります。
し か も。鉱山で切り出した石を使ってるって、何て素敵なんでしょう! 再利用ですよ、無駄なく使ってるんですよ! 私のもったいない精神がくすぐられましたよ!! いいところですねぇ、公爵領! あ、そう言えば、鉱山周辺は赤っぽい色でしたね。ええ、ルビーの色なんですよ、きっと! ……旦那様には即否定されちゃいましたけどね!
人々が寛ぐオープンカフェや、街角で商いするかわいらしい花売りの少女や、その場で絵を描き売っている絵描きさん。いろんな果物や野菜を売っているマルシェ。
活気にあふれた町並みを見ているとワクワクしてきました。うん、絶対町の中を案内してもらおう! 後で旦那様に言ってみようっと。
窓から町並みを興味津々で覗いていると、道行く人々が馬車に向かってぺこりと挨拶していきます。そうか、車体に家紋ついてますからね、領主様の馬車だってバレバレなんですね! あんまり恥ずかしい真似は控えないと。
住宅街を抜け、商店街のようなところを抜けていくと、もうモンデュックの丘のふもとでした。
遠目にはよくわかりませんでしたが、近付いてみると別荘も町と同じ石材を使っているようで、薄い赤茶色の立派なお屋敷でした。立派ですが、王都の公爵邸のような大きさはありませんよ。別棟が三つくらいくっついた感じかしら? つつましやかだけど洗練された建物です。
「素敵な別荘ですね~!」
馬車で門をくぐり、まじまじと建物を見ながら私は感想を漏らしました。
「かなり老朽化していたのを、ここに引きこもる時に両親が建て替えたのですよ。これは母上の好みです」
「そんな感じですね! でも素敵です!」
「貴女がそう言っていたと聞いたら、きっと母上も喜びますよ。さ、着きましたよ」
静かに馬車が停まり、外から扉が開かれました。
別荘のエントランスには、王都のお屋敷ほどではありませんが、こちらの使用人さんがお出迎えしてくれていました。全部で五人です。
全体的にちょっとお年を召した方が多いかしら? そう思って見ていると、
「ようこそいらっしゃいました、若旦那様、若奥様」
上品な白髪の初老の男の人が優雅に恭しくお辞儀しました。柔和な微笑みが素敵にダンディです! 目尻に寄った皺が、何とも好々爺然とした雰囲気を醸し出していて、思わず「おじいちゃんっ!」と言って抱きつきたい衝動に駆られます。
と、あまあそれはおいといて。
若奥様って、呼ばれ慣れてないからちょっと気恥ずかしいですね~! でもこちらではお義父様が『旦那様』で、お義母様が『奥様』だから仕方ないですか。
若奥様という言葉にテレテレしていると、
「久しぶりだな、フェンネル。しばらく世話になる。ヴィオラ、彼は別荘の執事のフェンネル。ロータスの前に公爵家で執事をしていた者です」
旦那様がおじいちゃんに向かって話しかけてから、私に説明してくださいました。
ほほー、ロータスの先輩ですか! ちらりとロータスを見ると小さく頷いています。
「初めまして、ヴィオラです。しばらくお世話になりますね」
ぺこり。あ、奥様なのにお辞儀しちゃいました。ヤバい。もっと奥様然としなくちゃダメですって叱られちゃうかしら?
しかしフェンネルは気にすることなく、
「そんなご丁寧に。こちらには公爵家を引退してきた者ばかりでのんびり過ごしておりますので、そう堅苦しくなさらなくて結構ですよ、若奥様」
そう言って朗らかに笑っています。よかったです。
「ここで立ち話もなんだ。ヴィオラも長時間馬車に揺られてきたから疲れているだろうから、とりあえず中に入ろう」
旦那様が私をエスコートしてエントランスに向かって歩き出しました。
「どうぞ」
フェンネルが恭しく進む方を示すと、エントランスの扉が開きました。
どちらかというと引きこもりな私ですが、いろいろ珍しいものを目にしてテンション上がりまくっています。
たまにはこういうのもいいですよね? もう来ちゃったんだし、せっかくだから楽しませてもらいましょう。旦那様と一緒? じゃあ旦那様にいろいろ説明してもらいましょう! そしたら観光だって楽しくなります。来る途中もそうでしたし、意外と苦痛じゃなかったですしね。ほらポジティブシンキングです!
今日もありがとうございました(*^-^*)
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小話のラインナップは、今日(3/28)の活動報告にてUPします。




