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ただいまのあとで

朝から帰還の儀とか、慰労会とか、行事を頑張りました。無事に乗り切りました。多分粗相はしてないはず。

今は旦那様と義両親と一緒に、帰りの馬車に揺られています。相変わらず公爵家の馬車の乗り心地は最高です。

気を緩めればまた居眠りしてしまいそうですよ。

ダンスもしたし、社交おしゃべりもいっぱいしたし、旦那様の部下さんたちと楽しく過ごしたりと、ワタシ的には濃密な一日でしたのでさすがに疲れていますからね! 

しかし今日は義両親も一緒ですので、ここでうとうとするわけにはいきません。頑張れ私、行事はお邸(おうち)に帰るまでが行事なのです!

義父母や旦那様のお話に耳を傾けて、睡魔を追いやることにしました。

「同盟を結んだというのは建前。実質南隣の国はフルールの支配下に下ったと同じでしょうし……」

「そうだな。これで戦略的に……」

あれ? 政治の話や難しい話になると余計に眠くなっちゃうんで、ご遠慮いただきたいんですけど?




今日もお出迎えはフルラインナップです。

エントランス前の車寄せにずらーっと並ぶ使用人さんたち。


「「「「「おかえりなさいませ」」」」」


一糸乱れぬご挨拶に「ああ、帰って来たよぉ~」とほっとします。私としてはこのまま自室に直行してドレスもコルセットもぺぺーっと脱ぎ散らかしてベッドにダイブしたいところですが、まだ我慢ですよね。

今はお月さまも煌々と輝く、すっかり夜といってもいい時間です。普段なら晩餐をいただいているくらいでしょう。

お義父様、お義母様たち、この後どうすんでしょ?

まさかの本館お茶コースでしょうか。いやほんと、今日はかなり疲れていますので勘弁願いたいんですけど……。

心の声はうちに仕舞い込み、お義父様たちの様子を伺っていると、

「ああ、ただいま。いや~今日も長かったよ。疲れたな~」

「左様でございますか」

お義父様が使用人さんたちのお出迎えの声にこたえれば、穏やかに微笑みながら相槌を打つロータスです。

「今日はもう別棟に引っ込むことにするよ。お腹もいっぱいだし、軽くお菓子とお茶をむこうに運んでくれ」

「かしこまりました」

お義父様はお義母様の腰を抱き寄せて、もはや別棟に帰る気満々でロータスに指示をしています。そしてロータスが応えたすぐ後、義父母付きの侍女さんが音もなくこの場を離れてゆくのが見えました。隠密スキル発動です。さすが、仕事が早い! え? スキル発動してるのになんで気付くのかって? そりゃ、私、半分使用人(あちら)サイドですからね!

「じゃあ、サーシスもヴィオラもお疲れ様。今日はゆっくり休むといいよ」

「ヴィーちゃん、お休みなさーい」

「おやすみなさいませ、お義父様、お義母様」

お二人は旦那様と私に軽く手を振ると、本館に立ち寄ることなく別棟への道を歩き出しました。しばし月夜のランデブーとしゃれ込んだ感じの後姿に、笑みがこぼれます。

お二人が建物の角を曲がるところまでお見送りしました。

さ、これで懸念は消えたし、後はゆっくり……っとと、消えてないですね。もう一人いますね。


「さ、夜風は身体に悪いしもう中に入ろうか。今日もお疲れ様でした」


そう言ってナチュラルに私の肩に手を添えてエスコートしてくる旦那様です。あーまた使用人さんたちの見てる前で。恥ずかしいったらありゃしないんですけど~。

「旦那様もお疲れ様でございました」

「この後どうしますか? 軽く何か食べますか?」

「さすがに今日はもうお腹いっぱいですわ!」

色々な意味で。昼からずっと何か飲んだりつまんだりしっぱなしですしね。

「ではお茶でも……」

しかしなおも旦那様が食い下がり、お茶に誘ってくるので、

「今日はもう、疲れてしまったのでこのまま休ませていただきますわ。旦那様も前線から帰ってきて早々に行事ですもの、落ち着きませんでしたよね? ロータス、旦那様をゆっくりさせてあげて?」

もう解放してください。盛装とか特殊メイクとか、もう時間切れですから。頭の中で『もう限界だよ~』という警鐘がピコンピコン鳴ってますから! 

……とは言えませんので旦那様のお疲れを理由に、やんわりとお断りさせていただきました。やんわりの割にはまくしたてましたが。早く自室に帰りたい一心なんです察してください。

「いや、僕は大丈……」

「いいえ、ご自分でもお気付きでないところでお疲れになっておられるのですよ! ね、ロータス?」

「そうでございますね。いくら旦那様がまだお若いとはいえ疲労は蓄積されますので、ご無理は禁物かと」

まだ抵抗をみせる旦那様でしたので、ロータスに話を振ると、ちゃんと空気を読んで援護射撃してくれます。グッジョブ!

ロータスをじと目で一瞥した旦那様でしたが、すぐにハッと何かに気付いたような顔をすると、じと目から一転、ぱああっと顔を輝かせて。


「そうですよね。今無理をしなくても、長期休暇に入ればいくらでも貴女と一緒にいられますからね!」


そうでした忘れてました。14日間もお休み貰ってたんですよ、コノヒト……。


「ソ、ソウデスヨ~! オホホホホ~」


カタコトになったのはスルーしてください。




無事に旦那様をお部屋にお送りして、お部屋に入るのを見届けて、後はロータスと旦那様付きの侍女さんたちに、旦那様のお世話をお願いしてからやっと自室に戻ることができました。

ああ、道のりは長かったです!

「ふ~! 今日も頑張りました~!! お勤めしゅ~りょ~!」

自室の扉が閉まると同時にドレスの武装解除を始めます。とにかくこの締め上げから脱出せねば。

けど私を締め上げてるコルセットのリボン、後ろなんですよね~。どこよ~。

「ああ、もう奥様! 私がいたしますので!」

首をねじれども見えないリボンを手探りで探していると、湯あみの支度をしてくれていたステラリアが飛んできました。

ステラリアの手でシュルシュルとあっという間に解けるリボン。

「ふえ~。生き返った気がする~」

開放感からお腹いっぱい深呼吸したら、

「奥様ったら大袈裟ですわ! 今日は(・・・)そんなに締めてませんよ」

ニッコリ笑うステラリアです。こ、これ以上の締め付けもあるんデスカ……!! そう言えば、コルセットの締め付けが強すぎて失神する人もいるとかいないとか。ソレ、ある種の拷問だよねと、対照的に私の頬はひくりと引きつりました。

今日は(・・・)、ね。いつも締め付けたりしないから、これでもきつかったんです~! あ、けど、このおかげで食べ過ぎ防止になったんだわ」

「それももちろん考慮の上ですわ!」

「すごい!!」

当然ですよ~と微笑むステラリアですが、そんなことまで考えられていたのですねっ!! 侍女スキルの高さに惚れてしまいそうです。

私がステラリアに賞賛の眼差しを浴びせていると、


「今回はお薬を飲んでいるタイミングがとれないのではないかと考えましたの。豪勢なお食事でも少しでしたら、毎日いろいろな食材をお召し上がりになられていますので、かなり慣れてきているので問題ないと判断いたしました」


ダリアがドレスを片付ける手を止めて説明してくれました。

そう言われてみれば、確かに私ってばいいもの食べてますよね。公爵家に嫁いできてから、毎日毎食。そりゃあ賄いだったり簡素なものだったりしましたが、素材は旦那様と一緒。つまりは最高級品です。

そっか~。知らず知らずのうちに最高級品の耐性がついていたんですね!! ん? つけられた? ま、どっちでもいいか。

あんまり舌が肥えるのは感心しないんですけど……。ま、その時はその時ということで。

「そっかー。高級食材に、胃がびっくりしなくなったってことね」

「さようでございます」

「じゃあ、量さえ食べなければ美食テロに遭わないってこと?」

「おそらくは」

「わかったわ。これからは量に気を付けるようにする」

「そうしてくださいませ。あ、でも旦那様との外出の際にはお薬はご用意させていただきます」

そう言って苦笑いするダリア。さすが、旦那様のことをよく知っていますね。

「おねがいしま~す!」

もう、ダリアにハグしたい気分です!




窮屈な盛装を解き、用意ができたので湯あみをします。

お貴族様の中では、湯あみを侍女さんに手伝わせている方もいらっしゃるという話は聞きますが、公爵家うちは個人の好みに合わせているようです。確かにダリアもミモザも、最初から押しかけてきませんでしたよね。後で聞いたら「呼ばれたらいく」というスタンスだったそうです。も ち ろ ん、貧乏人な私ですから、湯あみを使用人さんに手伝わせるなどという贅沢などしたこともありません。湯あみは自分で気ままにしています。つか、裸を他人にさらすなんて、そんな恥ずかしいことできませんから!

その代り、湯あみから上がると至れり尽くせりでお世話されますけどね。

ちなみに旦那様も義両親も自分たちだけで湯あみしているそうで、侍女さんたちに世話をされていないようです。

どうでもいいフィサリス家の湯あみ事情でした。以上報告ヴィオラでした。

っと、まあそれはさておき。

髪と頭をいい香りの石鹸で洗ってから、庭園で摘みたてのいい香りのするローズの花びらを浮かべた湯船に浸かります。花びらだけでなくローズの精油(もちろん自家製)まで入れられています。ものすごく贅沢ですが「これが普通です」と言われてしまえば仕方がありません。ええ、もう慣れてしまいました。寛げるようになってしまった自分に慄きますが。ちなみにお花や精油は日替わりです。私の体調や気分に合わせてセレクトされているようです。いつもはミモザが楽しげにやってくれていたのですが、懐妊がわかってからはダリアがしているみたいです。「今はにおいに敏感な時期でございますからね」と、ダリアは言っていましたが、よくわかりません。


ゆっくり湯船に浸かっていると今日一日の疲れが溶け出していく気がします。


あ~、長い一日だったなぁ。帰還の儀、王様のお言葉長かったなぁ。でも旦那様や騎士様は微動だにしてなかったもんなぁ、偉いなぁ。


ボケ~っとしていると、とりとめのない事ばかり浮かんできます。


旦那様たちの次に褒賞もらっていた人たち、傷だらけだったなぁ。


旦那様たちが傷一つなかったから余計に印象に残ったというか。絆創膏やガーゼを貼ってはいたけど、まあまあ(当社比)整った顔の騎士様たちでしたよね。実働部隊さん。あの方たちが一所懸命に戦ってくださったからこの戦に勝利できたのだし、この平和があるんですよね。感謝しなくちゃですね。


今日の社交はつつがなく終わってよかったなぁ。


これまで数度の社交の場では、何かしらありましたからね。

最初のアイリス様に声をかけられたのは勘違いだったけど、バーベナ様に絡まれた直後、旦那様からの羞恥プレイ攻撃を喰らったのもありましたね。この間の出征の儀の時は、騎士様にナンパされたり。


……およ?


今何か引っかかりました。

出征の儀の日。あの時の甘ったるい騎士様も「ナントカ中隊」とか言ってましたっけ……? 興味がないから合ってるか自信ないですけど、そんな感じでしたよね。金髪碧眼の残念騎士様。深緑の騎士服で。

今日の実働部隊さん、多分「ナントカ中隊」だったような……。ああ、もっとちゃんと聞いておけばよかったわ。そして深緑の騎士様の制服。


……およよ?


あれ? 今日の褒賞の騎士様と似てません?


え? え? えええ?!


おぼろげながら私の頭に形作られたイメージに、ショックを受けます。

うわー、あの人たちだったんだ?!

今の今まで忘却の彼方にぶっとばしていた自分にびっくりです。

うわーうわーうわー! 旦那様、アノヒトたちにも「妻のヴィオラです」って紹介してましたよね! なんかいろいろいやーな予感がするんですけど、気のせいですよね? ね? 


ブクブクブクブク……。げ き ち ん。


湯船に頭まで浸かりました。

なんかもう、いろいろごめんなさい。

ああもう、忘れてたことにしよう。いや充分忘れてたよね? うん、思い出さなかったことにしよう。


そろそろ茹っちゃいそうです。いつもより長く入っちゃったし。たった今頭に血が上っちゃったし。

社交の疲れもあるから、そろそろ上がろう……。


……あ、のぼせちゃった。




「きゃーーー! 奥様?! しっかりなさってくださいませ!!」


その後、いつまで経っても浴室から出てこない私を心配して、ダリアが様子を伺いに来て、のぼせた私が湯船の縁にだらりと伸びているのを発見して大騒ぎになったのは言うまでもないですね。


今日もありがとうございました(*^-^*)

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