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帰還の儀

ステラリアの登場やミモザの懐妊に驚いておかしなことを口走っていた旦那様でしたが、すぐにハッと我に返ると、自分の後ろに控えていたロータスを振り返り、

「とりあえずはわかったから。その辺りの雇用形態についてはロータス、後で報告してくれ」

「はい」

「ミモザは休業扱いではなく、ヴィオラの話し相手ということで、今までどおりの侍女待遇にしておけばいいだろう」

「かしこまりました」

そんなことを言いつけています。


これまでお屋敷の使用人さんの雇用などに口出ししなかった旦那様が、ですよ!


これには私が固まる番でした!

さすがのロータスは内心驚きつつも、表面上はいつもどおりに対応しています。私の背後ではダリアやミモザが固まっているでしょう。そんな気配がしました。

ほんっとうにどうしたのでしょう、旦那様は! 遠征から帰ってきて、おかしく……いやまともになって! ……ん、なんかおかしい。いろいろおかしい。……こほん、動揺が収まりません!

いいことですよ、いいことなんですよ! でも調子が狂うというかなんというか……。

いろいろ唖然としていた私でしたが、

「ヴィオラ? どうしました? そろそろ行きましょう。時間がありませんよ」

綺麗な濃茶の瞳でじっと見つめてくる旦那様に声をかけられて、ようやく飛ばしていた魂を体内に取り込みました。

「は、はい!」

「さあ、さっさと面倒くさい行事は終わらせてしまいましょう」

びっくりしたような声で返事をした私にくすっと笑いながら、旦那様はごくナチュラルに私の手を取りエスコートしてエントランスへ向かいました。




今日の『帰還の儀』は大広間で行われるそうで、私たちもそちらへと案内されました。

そもそも多目的ホールな大広間は大規模イベントの際に使用される場所ですから、私がここに足を踏み入れるのはこれで三度目です。三度くらいで威張っていてはいけませんね! ワタシ的には大出世なもんで、つい。

しかしこれまでは披露宴だったり夜会という華やかな催し物でしたが、今回は公式行事です。そしてビシッと正装したお貴族様が勢揃いし、これまた凛々しい騎士様たちが居並ぶという、どうにも堅苦し……真面目なものなのです。さすがにそんなものには初めて参加するわけですから、緊張しちゃいます。

旦那様にエスコートされるままに大広間へと歩を進めると、いつもの照明キラキラ、衣装キラキラ、軽やかな音楽が流れているといった華やかな雰囲気は一切なく、どっしりと重厚な雰囲気が漂っていました。お貴族様がみなさん色を押さえた衣装を着ているのと、フロアの真ん中(そして大部分を占める)に勢揃いしている大勢の騎士様方が制服を着ているからでしょう。

視線を前方にやれば、騎士様方の向こう、正面の少し高くなっているところに玉座が設えてあります。

センターが騎士様方の整列するところならば、貴族席はその左右、フロアの両端で、わざわざ椅子が置かれてあります。よかった。どうやら私たちは座ることができるようです。行事によっては立ちっぱなしということもあるそうですからね!


案の定というか、やっぱりというか、義父母と私は玉座近くの一等席に案内されました。

しかも最前列ですよ、目立つったらありゃしません。きっと実家の席ならば、目立たないベストなところにあるはずなんですがねぇ。お父様、どこにいるのかしら?

玉座の方から、お義父様、私、お義母様という順に座りました。義父母DEサンドイッチです。

「僕らの特務師団はすぐそこです。離れてなくてよかったです。儀式が終わればすぐにここに来ますから、待っていてくださいね、ヴィー?」

席までエスコートし、手を離す間際に旦那様は甘ったるい笑顔付きで念押ししてきました。笑顔でプレッシャーをかけてきます。

旦那様がおっしゃった特務の場所というのは、私たちのすぐ目の前です。言われるまで気付きませんでしたが、見知った顔がこちらを見てニコニコしていました。あ、お姉様方もいますよ!

「わかりました。ここで大人しくお待ちしておりますわ」

また変なのに絡まれても困りますから、ここで旦那様のお迎えを待ちましょう!

すると横から、

「お姫様の守りは任せておけ!」

お義父様、爽やかに笑いながら親指立ててますけど、意味不明です。


旦那様が貴族席を離れて、部下さんたちのところに行ってしばらくすると、


「国王陛下のおなり!」


という侍従様の声が大広間に響き渡り、厳かに重い扉が開きました。

いよいよ王様登場、儀式の開始です。は~、緊張してきました!




国王陛下が玉座に座り、その隣に王妃様、続いて王太子殿下以下王室の方々が入場・着席していきました。

全員が揃ったところでおもむろに国王様が立ち上がり、


「これより『帰還の儀』を執り行う。此度こたびの戦においてわが軍は勇猛果敢に戦い、そして我が国を勝利へと導いてくれた。よって…………」


朗々と開会宣言(?)をしてくださったのですが。


……長い。ひっじょーに長い。


そう言えば結婚式の時も国王陛下の乾杯の挨拶しゅくじは長かったよなぁ。おしゃべり好きなんですね、陛下って! とか茶目っ気たっぷりに言っても、長いものは長い、退屈なものは退屈。あ、言っちゃった。

フルール王国の建国史まで話が弾んじゃってますよ。伝説の英雄がどうしたんです? ああ、偉いんですね、はいはい。

つーか、伝説の英雄よりも、今目の前にいる戦の功労者を称えるべきだと思うのは私だけでしょうか?

いつまでお話する気なのでしょう? 国王様から死角の席のお貴族様は絶対寝てるよ、これ。もしくは目を開けたまま気絶とか。あ、でもちょっとうらやましいかもです。

私は座ってるからいいものの、旦那様たち騎士様はずっと立ったまま聞いてるわけでしょ? 貧血にならないかしら? って、そんなヤワじゃ騎士にはなれませんかそうですか。

眠気覚ましにと、さり気なくあちこちを観察しているのですが、やっぱり気になり視線をやってしまうのは旦那様のところで。

微動だにせず、ずっとキリリとした凛々しいお顔で、旦那様は国王様のお話を聞いています。うん、これにはちょっと尊敬しちゃいました!

いつもはどちらかというとにこやかな旦那様ですが、やはりこういう場では違うのですね。纏う雰囲気が違うというか。……やっとお姉様方が言っていた「仕事はできるんですよ!」という言葉が信じられる気がしました。

騎士様の制服までビシッと着こなして、カッコよさ激増です。そりゃ、世の中のお嬢さんの話題をかっさらってきただけありますね! 

旦那様だけではありません。お隣にいるユリダリス様やお二人の後ろに居並ぶ部下さんたちも、いつもはお茶目な方ばかりですが、今日ばかりはキリッと真面目な顔でお話を聞いています。

不真面目にキョロっているのは私くらいですか。

ちょっと反省して真面目にお話を聞きましょう。


……前言撤回。眠らないように頑張ります!!




さんっざん開会宣言をした後で、ようやく褒賞という段に移りました。

ああもう、目を開けたまま寝てしまうかと思いましたよ、長かった。次回からは宰相様辺りが短めの台本を作っといてくれませんかね。切望します。

まあそれはさておき。

やはりこの戦を勝利に導いた一番の立役者は旦那様率いる特務師団です。

「我が国を勝利に導いた一番の功労者たる特務師団よ、苦しゅうない、前に出よ」

「「「「「はっ」」」」」

国王様の一言に、特務師団の塊が乱れもなく一歩前に出ました。

それを見て満足気に肯いた王様は、

「そなたたちの地道な下準備のおかげで、我が軍は勝利したと言っても過言ではない。よくやった。よって褒美として団員各自二階級特進と、14日間の特別休暇を与える。ゆっくりと疲れを癒すがよい。他にも望むものがあれば、なんなりと申せ。叶えられるものであれば聞き入れよう。もう一度言う。よくやってくれた」

国王様の言葉のあと、会場は割れんばかりの拍手で包まれました。座っていたお貴族様方もスタンディングオベーションです。

しかし何とも太っ腹な褒賞です。一階級特進はよくある褒賞なのですが、二階級はさすがに稀です。そしておまけに休暇14日間て……。旦那様がおうちに長々といらっしゃるんですよ。間が持つか心配です。……っと、そうじゃないそうじゃない。

その他にも望みのものを進言できるなんて、すごい大盤振る舞いですね~!

旦那様たちの頑張りが認められたからなのでしょう。

旦那様が国王様の元に歩み寄り、何か賞状のようなものを受け取っています。

何かしら?

こういう場に初めて出る私ですから、あの紙の意味が解りません。

こっそり首を傾げていたのですが、

「あれは先程の褒賞を書き記したみことのりだよ」

とお義父様がこっそり耳打ちしてくださいました。ナイスフォローをありがとうございます!


私も立ち上がり、惜しみない拍手を捧げました。




旦那様が詔を持って自分の場所に帰ると、団員全体で元の場所に戻りました。

それを待って、次の褒賞に移るようです。


「実戦にて一番の活躍を見せた騎乗隊第一中隊よ、苦しゅうない、前に出よ」

「「「「「はっ」」」」」


次に国王様に呼ばれたのは騎乗隊でした。やっぱり実戦で活躍した人たちも褒めないといけませんよね! 

国王様に呼びかけられて前に一歩出たのは、旦那様たちと違って深緑の制服を着た騎士様たちでした。

旦那様たち特務師団の方はびしっと傷一つなくお綺麗でしたが、こちらはなんだかよれっとしているのは気のせいでしょうか? いや、実動部隊は体力勝負だから、きっとまだお疲れなのですね!

さすがは実戦部隊の方々だけあって、どの方もみなさん漏れなくお怪我をなさっているようです。大怪我というものではなさそうですが、そこらじゅうにガーゼを貼っていたりします。どの方も綺麗な顔立ちをしているようなのですが、せっかくのお顔が傷だらけです。きっと厳しい戦いを潜り抜けてきたのでしょう! お疲れ様です!

「そなたたちの一番乗りの特攻が功を奏したと報告されている。厳しい作戦だったと聞いているが、勇敢にもやりきってくれたおかげでこの勝利があると思っておるぞ。よくやってくれた。褒美として一階級特進、10日間の休暇を与える」

国王様の言葉の後、また会場が割れんばかりの拍手で包まれます。

そうか、厳しい作戦だったのですね! だから皆さんあんなによれよれしていて傷だらけなんですね! 休暇の間にしっかりと体を休めて、傷を癒してください。

詔を受け取りに出たすらりと背の高い金髪の騎士様を見ていると、不意に目が合いました。

綺麗な碧い目をされていますね! でも顔に大きなガーゼを貼っているのでイケメンが台無しです。

私たちのために戦ってくれてありがとうございましたの心を込めてニコッと微笑んでみたのですが、騎士様はビクッと引くついた後、さっさと視線を逸らせてしまいました。


なんでですか~! 地味子のゼロ円スマイルじゃお気に召さなかったんですか~? ぶーぶー。


今日もありがとうございました(*^-^*)

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