表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/238

いざ王宮

ミモザたちの部屋から直接エントランスに向かえば、お義母様もちょうど姿を現したところでした。

ちなみにお義父様は『出征の儀』に、旦那様の名代として出席されているので、とっくの昔にお邸を出ています。『激励会』から参加のお義母様と私は、後から出発することにしていたのです。

私を見つけてキラッキラしい笑顔になったお義母様。

「きゃ~、ヴィーちゃん! 今日も可愛いわぁ!! こんな可愛い娘を連れて歩けるなんて、鼻が高いわ! あんな愛想なしの息子なんかより、私はこういう可愛い娘が欲しかったのよぉ」

などとテンション上げていますが。

いや~、これはミモザや侍女さんたちの努力の賜物でして、本来の私とはちょっと違うと思うんですよ。

そこまで喜ばれても、とビミョーな気持ちで、

「ありがとうございます~。あは~」

とお義母様の笑顔には到底かないませんが、ワタシ的には一番のスマイルでお答えしておきました。うん、笑顔はキラキラじゃなくても、どんなのでも、いいものなんですよ……。

危うくやさぐれかけたのですが、ハッと我に返ります。ミモザのことを報告しておかねばと思い、気を取り直しました。

「お義母様、ご報告がございますの」

「あら、なあに?」

澄んだスターサファイアの瞳をクリンと丸めて、こちらに問いかけるお義母様。

「ミモザが懐妊いたしました」

「ええっ?! ミモザが?」

今度は驚きに目を瞠っています。ころころとよく表情が変わるなぁと、お義母様を観察しながら、私は先を続けますが。

「はい。今朝体調を崩したので、部屋で休ませてお医者様に診ていただいたのです。それで判りました」

「それはとってもおめでたいわ! ベリスも喜んでるんじゃない?」

指を組み、それはウキウキとはしゃぎだすお義母様。

「はい、おそらくは」

「おそらく?」

「今はミモザの体調のことでいっぱいいっぱいみたいで、余裕がなさそうでしたので」

喜ぶところまで感情が追いついてないのではないかと思われます。だってベリスが喜ばないわけがないですもんね!

「あ~、なるほどね」

お義母様も容易に想像できたのか、ニヤニヤしながら肯いています。


そこまでお話ししたところで、


「お二人とも、時間が迫っておりますので、馬車の中で続きをお話になられてはいかがですか」


ロータスの控え目な声が、いつまでも続きそうな私とお義母様の話を止めてくれました。

おお、そうだった。王宮に行かねばならなかったんですよ。危ない危ない、また忘れるところでしたね。ん? 故意じゃないですよ?


ロータスに先導されて、お義母様の後から私もエントランスを出ると、もう馬車は用意されています。

お義母様と私が、向い合せに着席したのを見計らって、


「「「「「行ってらっしゃいませ、奥様、大奥様!!」」」」」


と、恒例の家人総出のお見送りです。腰の角度も完璧に、一糸乱れぬお辞儀です。

お義母様はニッコリ笑って、慣れた様子で軽く手を振って応えていますが、私はぎこちなさが拭えません。

だって何度やられても慣れないんですもん。きっと慣れる日は一生来ないと思いますが。


ロータスが静かに扉を閉めたのを合図に、馬車は王宮に向かって動き出しました。




「で、ミモザの様子はどうなの?」


ガタゴトと揺れる馬車の中で、最初に口を開いたのはお義母様でした。

「はい。先程見舞ったときには元気そうでした。しかし、ダリアが言うには、これからしばらく体調がすぐれない時が続くとのことですが……」


私の語尾は曖昧になりました。


だって、話には聞いたことがありましたが、身近に妊婦さんがいた経験もなく、そこんところは不明瞭なんですもの。母が弟妹を懐妊した時は知っていますが、それだって8年も経っていますから、もうすっかり過去の記憶ですよ。知らないに等しいのですよ。

するとお義母様は、私の様子に何かを察してくれたのか、

「ああ、そうね。発覚したばかりだったら、まだふた月かそこらくらいだから、これからがつらい時期ってところね」

神妙な表情でコクコクと頷いています。いや、さすがは経験者ですね!

「そうなんですね」

未経験、かつよくわからない私は、それらしく相槌を打ちことしかできませんが、あしからず。

「そうよ~。食べ物の匂いを嗅ぐだけで吐き気がしたり、不意に眩暈がしたりするのよ~! まあ、そのうちヴィーちゃんにもわかる日が来るから! うっふっふ~」


ニマ~。


そんな効果音が聞こえそうな感じの笑いですね、お義母様っ!

なんか非常にデリケートな問題に、我知らず足を突っ込んでしまった気がします。バシバシします。そして、すんごい期待している目で見られています。


これはもしや「孫はまぁだ?」ってやつでしょうか?!


う~んと、そう言えば跡継ぎ問題ってどうなったんでしたっけ?? 契約は白紙撤回からの新たに更改はしましたが、これに言及はしていませんでしたよね? 本当の夫婦になる、とかほざい……げふげふ、おっしゃっていたことに、これは含んじゃってるんだよ! とか言われちゃうのでしょうか?!

孫もへったくれも、未だに『夫婦』とは言えない私たちなのですけどお義母様……。

恐る恐るお義母様を見れば、やっぱり満面の笑みでこっち見てますしっ!


うん、ここは逃げちまえ! 気付かないふりをしよう!


「ソ、ソレハドウデショウカネェ? オホホホホ~! っとまあ……え~、こほん、それでミモザなんですが、仕事はしばらくできなさそうなのですが、実家に帰ってもご両親はお店をやっているとかで忙しいらしく、人手もないですからゆっくりできないようなのです。ですから、今までどおり、お邸の、ミモザたちの部屋にいてもよろしいでしょうか? あそこならば手の空いている使用人さんが様子を見れますし、動けるようになれば少しずつ仕事をすれば、気が紛れるかと思うのです」

しれーっと話を元に戻しておきました。かなり強引な舵取りですが気にしないっ!

お義母様も、深くはツッコむつもりはなかったのか、さらりと流してくれたようで、

「ええ、それでいいじゃない。その方がヴィーちゃんも安心でしょ」

あっさりとミモザの滞在を許可してくださいました。

「そうなんです。私もミモザが近くにいる方がいいです」

公爵家うちは使用人には手厚く、がモットーよ。それくらい当たり前だから、ミモザにも気兼ねなく過ごすように言っておいて!」

お義母様、男前です! つか、公爵家って本当にいい就職先ですよねぇ。噂でちらりと聞いたことがあるのですが、公爵家に就職するのは、王宮に就職するより難関だそうです。いや、こんなに厚遇されるのであれば、競争率が高いのも頷けますよ。そりゃあ、いい人材が集まってくるのも肯けますよ、しみじみ。

まあ、話はそれましたが。

「わあ! ありがとうございます!」

「そんなの、私たちはもうすでに隠居している身だから、わざわざ許可なんかとらなくてよかったのに」

クスクスと笑うお義母様。

「旦那様がいらっしゃられないので、私一人が決めていいのかどうかわからなくて」

やっぱり自分の家ではありませんからねぇ。遠慮気味に言うと、お義母様が一言。


「ヴィーちゃんは立派なフィサリス公爵夫人なのよ? もっと堂々となさいな」


無理です。


あわわ、心の中でソッコー返事をしてしまいましたよ、心の中でよかったよ! なんというか、まだ、『お飾りの公爵夫人』という意識が抜けきらないようでして、私。

「まだ、不慣れで……」

控え目に返事をしておきました。

「ふふ、ヴィーちゃんらしいわね。まあ、これから徐々によね。あ、そうそう。ダリアだって懐妊している間、お邸にいたんだからね」

するとお義母様が意外なことを教えてくれました。

初耳に、驚きで二度見してしまいましたが。

「え? ダリア、ですか? そんなこと、ひとっことも言ってませんでしたけど?」

「そうよ~。ダリアとカルタムには二人子供がいるのよ。二人とも産んだのも邸でだし、そのまま邸で育ったわ。両親ともにうちで住み込みだから、うちが家みたいなもんじゃない。人手もあるし、下手に実家で育てるよりも楽よ」

知りませんでした! つか、そもそも夫婦に見えない夫婦ですしね~。

そもそもダリアは、公私の区別がくっきりはっきりついている人ですから、プライベートなことなど一切話しません。私が唯一知っている私的情報が、カルタムと夫婦だってことってくらい、徹底しているんですから!

驚いている私に、面白そうにクスクス笑い続けるお義母様。

「お子さんいるんですね~! 全く知りませんでしたよ。しかもお二人も!」

「そうなのよ~。娘さんは今王宮で働いてるわ。息子さんはどこかで料理修行しているはずよ」

お義母様は、ダリアの子供たちのことを思い出しながら話してくれました。

「ふおおお~。娘さんは王宮で何をしていらっしゃるんですか?」

「王女様付きの侍女をしているわ。本当は専門学校を出たらすぐうちで働く予定だったんだけど、王宮から名指しで『是非王宮に!!』って言われちゃってね。ダリアも、実は王宮からの誘いを蹴ってうちに来たもんだから、こっちとしても、二度も拒否するのは可哀相かしらって思ってね。仕方ないから期限付きで、武者修行という形で貸し出し中」

お義母様の口から出るわ出るわの新事実。そして何気に王家に対して上から目線?

しかしさすがは優秀なダリアの娘さんですね! きっと成績も優秀だったのでしょう。でないとわざわざ王宮から名指しでラブコールなんて来ませんよ!! そもそもダリア自身が、王宮からの誘いを蹴ってたっつーのも初耳ですが。それもすごいですね。

「だからミモザも、遠慮なく邸に滞在していいのよ!」

「わかりました! ミモザにも伝えておきますね、きっと喜びますわ!」

帰ったらすぐに、ミモザに伝えに行かなくちゃね!


そうこうしているうちに、王宮が見えてきました。




王宮なんて、ワタシ的には三度目です。一度目は言わずもがなの結婚式で。それすらも半年以上前ですからね。二度目は『オプション』のパーティーで。あーほんと、お久しぶりなもんです。

そもそも王宮自体に縁もございませんし、そんなにしょっちゅう来たいところでもありませんが。


今日はガーデンパーティーということで、馬車は庭園の入り口に寄せられました。

公爵家うちの庭園も素晴らしいのですが、やっぱり王宮だけあって、こちらも素晴らしい庭園です。いや、やっぱりうちの方が素敵かなー? 不敬罪とか言われたら困るから、心のうちにしまっときますが、うん、やっぱりうちの方が上だ! 

とまあ身内びいきはいいとして。

広さはこちらの方がもちろん広いです。その広大な庭園に、色とりどりのドレスで盛装した貴婦人方、女性陣には劣るけど、きちんと正装した殿方。そして今日の主役である、軍関係の皆様。軍関係の皆様は、騎士や兵士の制服を着ているので一目瞭然です。階級などは、襟章でわかるそうです。ちなみに私はわかりません。不勉強でごめんなさい。


とにかくたくさんの人・人・人、です。


本日はお日柄もよく、晴天に恵まれた、ガーデンパーティーにはうってつけの上天気。これから戦に行くんだぞ~という荒々しさは全く見えない、ほのぼのとした空気が流れています。


『激励会』、ですよね……?


私とお義母様が馬車から降りて、庭園の入り口をくぐるとすぐに、


「まあ、フィサリス公爵夫人ではございませんか!!」

「お久しぶりでございますわぁ」

「ご領地に行かれてしまって以来ですから、どれくらいお久しぶりかしら?」

「あらやだ、『前』公爵夫人ですわね? ご子息のお嫁様、とっても素敵な方ですわねぇ」


と、お義母様はあっという間に、旧知のご婦人方に囲まれてしまいました。


「あらまあ、皆様お久しぶりですこと。お元気になさっていて? もう『公爵夫人』はこのヴィオラですのよ? 私はただの元公爵夫人ですからね、ほほほ」


とお義母様は朗らかに笑いながらも、しっかり訂正していました。

ワッと寄ってきたご婦人方にびっくりするでもなく、一人一人に微笑みかけながら余裕であしらえるところなど、さすがだなぁと感心せずにはいられません。

お義母様の半歩後ろで、その様子を尊敬のまなざしで見ていた私でしたが、


「久しぶりですから、あちらでゆっくりお話ししましょうよ!」


と、ご婦人方の中の誰かが言って、あっという間にお義母様を連れ去られてしまい、私ってば気が付けばぽちーんとお一人様になっておりました。


うおっ?! お一人様っ?!


これはどうしたもんでしょうか?!

周りを見渡せど、知り合いはいません。実家の両親も来ているはずなのですが、まだ到着していないのでしょうか?

パーティーをパーフェクトペースで参加しているはずのアイリス様たちも、まだ見かけておりません。

仕方ないですねぇ。ここは今まで培った私の最大のスキル、『秘儀☆壁の花』を発動するときが来ましたね!


いざっ!


……


……


あ、ここ、庭園。壁ないじゃない……。


今日もありがとうございました(*^-^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ