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控えめに活動

「ふんふんふ~ん、雑草ちゃんはさよ~なら~」

今日も鼻歌交じりに日課の土いじりです。

今までは主に庭園のお手伝いでしたが、最近ではまず自分専用スペースの手入れから始めています。旦那様に買っていただいた花たちは、とっても元気に美しく花を咲かせています。かわいらしい花のために、私はせっせと雑草を抜くのです! 雑草なんかのせいで、旦那様が帰ってきた時にこの花がダメになってたとか、シャレになりませんしね!

そして自分スペースがきれいになったところで、庭園に乱入です。


土いじりは義父母公認。ですから大手を振って作業できるのですが、それ以外の家事はちょっとバレたらまずいかも、なので、あまり派手に(?)やらず、ちまちまとやることにしました。突然のご来訪に大慌てっていうのもなんですしね!


義父母がいない日は、朝食の後土いじりから始まり雑草を抜き、庭園がきれいさっぱりしたところでお飾り用の花をチョイスします。それからそれを持ってお邸内をうろちょろします。

そうこうしているとお昼になるわけですが、今はいつもどおり(・・・・・・)なのですよ。ですから私もいつもどおり(・・・・・・)使用人さんダイニングでレッツ賄いなのですよ!!

お一人様朝食も、昼食のことを思うと我慢できます。

義父母もいませんから、本当に気を抜いた家庭料理のようなものですが、それでも美味しいんですよねぇ。いいのかしら、カルタムの持ち腐れ……ではなく、カルタムの腕が鈍ってしまったらどうしましょ。でも義父母だって毎日王宮で食べてくるわけではありません。こちらで食べることの方が多いのですから、そこは真面目にカルタムが腕を揮っています。その日の賄いがちょっぴり贅沢な感じにはなりますが。

まあ食事事情はそれくらいにして。

昼からもなんやかんやと用事を見つけては動いています。

そして哀しき習性、夕方には大人しく業務を終了しています。

ちなみに、義父母が王宮で晩餐をいただいてくる時はもちろん、私も使用人さんダイニングで夕飯ですよ! その日はご褒美をいただいた気分になりますねえ。


義父母が王宮に出かけていると、案外旦那様といる時と同じような生活ができるのですが、問題は外出しない日です。

だっていつ別棟から出てくるかわからないんですから!


かねてからの打ち合わせ通り、義父母に動きがあるとすぐさま別棟の義父母付きの侍女さんが、

「先代様がこちらに来ますよ!」

と知らせに来てくれます。


そう。それは義父母シフト発動の合図。


まず私たちはそれを受けて、

「らじゃっ!!」

とその場で私は服装を整え、ミモザは手早く髪やメイクを整えてくれます。それはもうすごい早業で、ミモザはまた何かレベルを上げたようです。ヘアメイクに関して、もはやミモザにかなう使用人さんはいないと言っても過言ではありませんね。この点においてはダリアをも超えたのではないでしょうか。

あ、そうそう。義父母がお邸内にいる時は、やはりお仕着せは断念することにしました。ささっと着替えるといっても限界がありますからね!

なるべく汚れの目立たない色で、動きやすい服を選んで着ることにしました。あまりわがままを通して、ダリアやミモザに負担をかけるのはよくないです。

ヘアメイクだけならすぐさまできますし。


他の侍女さんたちはサロンでお茶の準備にかかります。

以前の旦那様シフトに比べたら楽勝ですよ。私の身繕いとお茶の用意くらいですからね!


まあそんな風に急ごしらえで取り繕ってから、ふらりと庭園の方から姿を現したお二方に向かって、

「お義父様、お義母様、ごきげんよう!」

と、何食わぬ顔で挨拶しちゃう私ってば演技派です!




「お届け物で~す」


と、旦那様の部下のお姉さまがやってこられたのは、お返事を書いてから三日後のことでした。


「奥様、旦那様のおつかいの方がいらっしゃいました」

「ええっ?!」

今日は義父母がご在宅なのでお仕着せを着ていなかったのでセーフですが、危なかったです。こういう突然の訪問もこれからは想定されますので、やっぱりお仕着せは封印ですね。うう……。

とまあそれはさておき。

いきなりのご訪問に驚きながら、ロータスに呼ばれて慌ててエントランスに向かうと、そこにはにこやかなブロンズのお姉さま。

そしてその足元には、大きな麻袋が二つ置かれています。大の男の人でも一抱えできるかどうかといった大きさです。何かごつごつとしたものがぎっしりと入っているようで、ギリギリと口が縛られたそれは表面が凹凸しています。

「ごきげんよう、お姉さま。お手紙のお届けでございますか?」

たった三日でもう次のお手紙とか? 暇ですか旦那様。

「いいえ、今日はお手紙もありますが、奥様が所望なされた果物をお持ちしましたの」

そう言ってお姉さまは足元に転がる麻袋を指しました。

マジすか。一瞬くらっとしました。

「え……と、果物、でございますか?」

そんなもの所望しましたっけ? あ、そう言えばロータスにお願いしたんでした! 

あれ? でもおかしいですね。ロータスが旦那様に「果物を届けてください」なんて言うはずがありませんから。ロータスならば、いつもの出入りの商人さんから手配するはずです。

まさかね、とは思いつつもロータスの方を見ると、やはり小さく首を横に振っています。ということは、これは先日私がロータスにお願いしたものではないということです。

じゃあ、一体……?


「あっ!」


突然思い出しました。

「奥様?」

「どうなさいましたの?」

思い出しついでに素っ頓狂な声を上げてしまった私を、ロータスとお姉さまが怪訝な顔で窺っています。

「あ、はは。ナンデモナイデス」

慌てて笑って繕いましたが、確かに私は旦那様のお手紙に書きましたね『果物が特産とおっしゃられていましたが、どんなものかぜひ食したいと思いました』って。……もちろん、社交辞令でしたとも!!

そうか、まともに所望したととられましたか……。

自分の社交辞令をまともにとられてあちゃーとなっている私に、お姉さまは懐から前回と同じ封書を取り出すと、

「で、こちらがお手紙でございます」

そう言いながら渡してくれました。デスヨネ~、やっぱりお便りもありますよね~。

「やはりお手紙もありましたか」

「もちろんでございます」

やっぱりまだ向こうは余裕があるようです。今回のもしっかりとした厚みがあります。

「あ、今回ももちろんお返事をお願いしますね!」

お姉さまはとっても素敵笑顔で言ってくれました。




お姉さまのお話しでは、まだ前線に動きはなくて、水面下で作戦を実行中なのだとか。だからまだ余裕があるそうです。まあ、旦那様や部下の皆様が無事だということは嬉しいことですね。

このまま交戦することなく帰ってきてくださるのが一番いいと思うのですが、そうもいかないのでしょうか。


旦那様のお手紙でも似たようなことがちょろっと書かれてありました。あとの大半は前回同様の甘い言葉のオンパレードと、特産の果物についてのレクチャーでした。

前回は観光案内、今回は特産品の説明。旦那様は一体何をしたいんだかよくわかりません。

とりあえず返事を急がれるので、検閲官様に優しい文書を心掛けてお返事を認めさせていただきました。ああ、もちろん社交辞令といえども『~が見たい』とか『~を食べたい』とかはNGワードですよ! ほんと、前回『宝石を見てみたい』なんてうっかり書かなくてよかったと、胸をなでおろしています。


お返事を書き終えてからは、義父母たちも交えてお姉さまを丁重におもてなしし、今回はお菓子の用意がありませんでしたので急遽有名菓子店に走り、菓子折りを購入してお持たせにしました。




「まあしかし、これはどっさりと届いたもんだね。どれだけ入っているんだろう? ロータス、開けてみてくれ」

「かしこまりました」

お義父様が麻袋を見て感嘆の声を上げています。

お義父様の言葉に応えて、ロータスが麻袋の口を縛っていた麻ひもを解こうとしました。

しかしそれはかなり固く縛られていて、器用なロータスをもってしてもなかなか解けません。


「解けませんね。……ああ、そういうことか。今回私たちに報告書もなかったことだし」

「でしょうね」

「……おそらくは。では、ナイフで切りましょう」


ロータスが麻ひもと格闘しているのを見ながら、お義父様は何かを確信したようでした。

お義父様を覗き込んでいるお義母様もわかったようです。

そして言わずもがなのロータス。

あ、あれ? 私だけがキョトンとしていますよ?

おいおい。私だけがわからないようですよ、なんのことかさっぱりわかりませんよ、もしも~し?

みんながわかるということはよほど簡単なことなのですよ、と自分の理解力のなさにオロオロしていると、

「あ、ヴィーちゃんは気にしなくていいのよぉ」

とのお義母様のフォローが入りました。

「え? あ、でも」

いたたまれない感がハンパないので食い下がろうとしたんですけど、

「うん、大丈夫だよ。あ、そうだヴィオラには手紙があったんだよね。何か言ってたかい? あいつは」

お義父様にサクッと話題転換されてしまいました。

まあちょっと甘い言葉を思い出して赤くなりながらも、そこは思いっきりカットして特産果物の紹介のことをお話させていただきました。




それからも、旦那様のお手紙は3、4日に一度やってきました。

王宮への報告書と同時に送ってきているようです。こんなに筆まめな方だとは知りませんでしたよ、お返事書くのが大変ですよ。

こんな生活を三週間も続けていれば、旦那様からのお手紙のペースもつかめ、義父母との生活のペースもつかめてきました。


しかし、義父母の行動は旦那様とは違ってイレギュラーが多いのです。

旦那様は朝登城してしまうと夕方もしくは夜まで帰ってきませんから、結構余裕でシフト態勢に入ることができましたが、義父母はそうではありません。

朝出て行って、夕方帰ってくることがほとんどですが、たまーに昼過ぎに帰ってきたりもするのです。

ふらりと庭園を散歩して、庭に面するガラス扉から入ってくることもしばしば。

この間なんて、私がメインダイニングでシルバーのカトラリーをせっせと磨いているところに、

「奥様、先代様がすぐ迫っています!」

との報告が。

「まああ!」

「奥様っ! 急ぎましょう!」

すぐさまミモザが駆け寄ってきてヘアメイクにかかります。お下げにしていた髪をさっと解くと、それを今度はねじり上げて即席で夜会巻きにしてしまいました。巻いたところを髪飾りで止めて、あっという間にアップスタイルの完成です。

ミモザの早業に惚れていると、侍女さんの言ったように、本当にすぐそこに迫っていたようで、


「ヴィーちゃん、こんにちは~。ダイニングで何をしているの?」

「ここに姿が見えたからちょっと寄ってみたんだよ」


お二人がガラス扉から入って来られました。

間一髪セーフです!

私はミモザによって瑞々しく彩られたチェリーピンクの唇を少し綻ばせて、

「ごきげんよう、お義父様、お義母様。今日はダリアから食事のマナーについて教わっていましたの」

「奥様はほぼ完ぺきにマスターなさっておられますが、いつでも完璧なレディでいるためにも、日々のブラッシュアップは大事でございます」

私とダリアの大嘘です。

いや、とっさにダリアが機転を利かせてカトラリーを、正餐の時のように並べてくれたので助かりました。

パッと見、ダリアによるレディ教育・お食事編という感じですからね!

「まあ、そうだったのね。ダリアに教えてもらったら完璧よ! しっかり練習してね」

お義母様が励ましてくださったのですが、若干心が痛みます……あはっ。

「じゃあ、私たちはまた散歩に行くね。邪魔して悪かったな、ダリア」

「いいえ」

お二人は特に用事もなかったようで、ダリアにひとこと言うとまたもと来た扉から庭園に出て行かれました。


「ふ~、危なかった~」

「今日はまた猶予がなかったですよね~」

「ここがダイニングで、カトラリーの手入れだったからよかったものの……」

義父母を見送って、私とミモザとダリアは椅子にへたり込みました。

「いや、でもなんて言うか、スリリング? お二人に見つからないようにこそっとお仕事しちゃうとか、小人の靴屋さんみたいじゃない?」

見つかる、見つからないというギリギリのところで、かくれんぼのような感じに、ちょっとワクワクしてしまったら、


「「それは違うと思います」」


ダリアとミモザに即否定されてしまいました。




そんな平和な私たちでしたが、旦那様が遠征に出られてからひと月後。

隣国との開戦の知らせが王都を駆け巡りました。


旦那様、大丈夫でしょうか……?


今日もありがとうございました(*^-^*)


旦那様の御届け物。織田信長と小豆の袋といったところでしょうか。あ、でも旦那様が信長ではないですよ!w

今日(10/11)の活動報告に小話を載せる予定です。よろしければそちらもどうぞ!

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