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再始動

「旦那様ってば、どこに行ってもいつもの旦那様でしたねぇ」


だだっ広いメインダイニングで夜の賄いを涙目で食べた後、私はサロンでお茶を飲みながらくつろいでいました。お客様など皆無に等しい生活をしているところに、今日はお姉さまや義父母夫妻がいらっしゃったからすっかり疲れてしまいましたよ。しかもあのお手紙ですからね!

身体が疲労回復を欲しているのでしょうか、ダリアが入れてくれたお茶を飲みながら、甘く美味しいお菓子にも手が伸びます。お姉さまへのお持たせ用に作ったお菓子です。たくさんあったので、使用人さんたちにも分けられました。カルタム謹製だけあって、とっても美味しいですよやめられない止まらないです!

美味なお菓子に癒されながらダラダラできるなんて、なんて至福の時なんでしょう!

そんなリラックスしている私に、

「そうでございますね。お元気そうで、私どもも一安心いたしました」

ロータスが穏やかに答えてくれました。

ロータスだって、いくら旦那様たち騎士団を信じているとはいえ、きっと旦那様のことはどこかで心配していたでしょうから、今日の報告を聞いてほっとしているのでしょう。

「旦那様からのお手紙、なんだかご領地のことが詳しく書いてあったけど、南のご領地って果物が特産なのね~。あとなんだっけ? あ、そうそう、なんか鉱物資源だったわね? 公爵領で有名なのはビーフブラッドだったかしら?」

元々興味があまりないので記憶に自信がありませんが、頑張って思い出しました。

お義母様たちから、以前お土産と称していただいちゃった気もしますが。

「ピジョンブラッドでございますね。ピジョンブラッドでしたら別の領地の物が有名でございまして、南のご領地で有名なのはダイヤモンドでございましょうか」

思いっきり間違えていましたね、私。それでもしれっと訂正してくれてありがとうロータス!

そして南のご領地産出鉱物はダイヤモンドですか!

「ふお~っ! ダイヤモンドまで産出しちゃうんですね~!」

「ええ。でもやはり希少価値という点において、ピジョンブラッドの方が上でございますね。産出量が違いますので」

ロータスが丁寧に教えてくれました。

すごいですね~公爵家領! 農産物から宝石まで取り扱っちゃうんですから、そりゃあ財政も潤いますよ!

でも別に宝石に興味があるわけでないので、それは適当に流しておきます。

「それよりも南の地方特産のフルーツが豊富だって書かれてありましたけど、どんなものなのかしら? 王都ではあまり見かけませんよね?」

少なくとも、私は八百屋や果物屋さんで見かけたことはありません。有名なものならごくたま~に入荷されて、とびきり高価な値段を付けられて陳列されてましたけど。あれは富裕層を狙ってましたよね! 明らかにうちのような貧乏人には用はないぜって感じで、挑戦的に飾ってありましたから!

まあともかく、そういうことで、未だかつて口にしたことなどなかったのですよ。

「そうでございますね。王都に出すよりも近隣諸国に流通させる方が優先されていますので」

輸出する方がもうけになるのですね! ちゃっかりしてますね!

「なるほど~。旦那様のお手紙を読んで、一度は食べたくなっちゃいましたよ~。でもあんまり王都には流通してないんですね。がっかり」

王都の中で手に入るのなら食べたいと思ったのですが、あまりわがままを言って困らせるのは本望ではありません。ここはサクッと諦めることにします。

しかし、

「召し上がりたいのでしたらすぐにでもご用意できますよ?」

何でもない事のようにロータスが言います。

「え? 手に入るの?」

「もちろんでございますよ。我が領地の物、奥様がご所望とあればすぐさま用意できます」

にこっと、いつでも私を安心させてくれる微笑み付きで、ロータスが言いました。

「う~ん、じゃあ、食べてみたいかも~!」

「かしこまりました」

そう言うとロータスは一礼して、サロンを出て行きました。




次の朝。

私がいつものように半泣きでお一人様朝食をいただいていると、


「執事殿。エントランスに使者がきているのですが」


と、門衛さんの一人がロータスを呼びにきました。

「使者? どこからでしょう」

どうやら今日の訪問予定ではない急なお客様らしく、ロータスの眉がクイッと上がります。

「はい。王宮からです。勅書も持っておりました」

門衛さんは使者さんから預かったと思われる封書を、ロータスに差し出しました。

ロータスと門衛さんのやり取りはドアのところでされていたので、私のところからは少し離れていてどんなのかは詳しくはわかりませんでしたが、白い封筒です。

その場で素早く中身を改めたロータスは、

「わかりました、行きましょう。奥様、少し失礼いたします」

私にひとこと断ってから、ダイニングを足早に出て行きました。

「は~い。あ、一人減った……」

ただでさえお一人様です。ロータスが脱退してしまったので、ダリアとミモザの二人だけになってしまって、思わず一人ごちました。

「王宮からって、何かしら? しかも急用っぽかったしね」

「そうですね。でもロータスさんに任せておけば大丈夫でございますわ。奥様がご心配なさることはありませんよ」

「そおね~」


いきなり訪れた勅使様についてダリアと私が話をしていると、そう時間をおかずにロータスは戻ってきました。

「勅使様はどういうご用件だったの?」

「はい。先代様に急ぎ登城してほしいとのことでしたので、今別棟に使用人を遣っております」

「お義父様? う~ん、なんでしょうねぇ」

とりあえずこちらに義父母が来るでしょうから、私は手早く朝食を終えました。


「お父さんてば軍会議に呼ばれちゃったのよ~。だからちょっと王宮まで行ってくるわぁ」

とはお義母様。しっかりと身ぎれいになさって準備万端です。

エントランスの車寄せに出てみると、王宮からのおつかいの馬車が横付けされていました。

一方。

「私は行きたくないんだけど~? 誰も聞いてくれないのか~? 私は隠居した身だぞ~!」

と、駄々をこねているのはお義父様。お義父様付きの使用人さんと勅使様に両脇を固められて、お義母様の後ろをぐいぐいと連行されています。

「ハイハイ、そうですね~。引退してますね~。でも陛下からの呼び出しなんで閣下の意見は聞けませんよ~」

抵抗するお義父様を適当にいなしているのは勅使様。お義父様相手に(仮にも前公爵ですからね!)まったく引くことなく会話しているところを見ると、前からのお知り合いなのでしょう。

「大旦那様、ぐずぐず言わずに行きましょうね」

「いやだ~、めんどくさい~!」

お義父様の嘆きは誰も彼もがスルーしているようなので、私も聞こえないふりをしておきましょう。

「はいはい、あなた。私もご一緒しますから、さっさと行きましょうね」

自分の背後で行われている連行劇を、お義母様はクスクスと笑って見ています。

「って言っても君は王妃様とお茶してるだけだろう!」

とうらやましそうな目でお義母様を見ているお義父様ですが。

「そうですよ~。さぁ、さっさと乗せちゃってくださいな。じゃあね、ヴィーちゃん! 帰りはいつになるかわからないから、晩餐の用意は要らないわ」

お義母様は気にしていない様子。にこーっと笑って私に手を振ると、馬車へとその身を翻しました。

「はい、伝えておきますね。行ってらっしゃいませ~」

「行ってくるよ~!」

連行されながら、それでも首をひねり、こちらに挨拶をしたお義父様でした。




台風一過でしーんと静まり返ったお邸です。

「お義父様たち、遅くなるのかしら?」

サロンでちょっとお茶をいただきながら、私はロータスに聞きました。

「会議に召集ですから、早くても夕方は過ぎるでしょう。あちらで晩餐は召し上がって来られるのではないでしょうか。そのような感じのことが勅書には書かれてありましたから」

「そうなのね。……じゃあ、今日は完全にいつもどおり(・・・・・・・・・)ってことよね?」

「……」

あ、今しれっと視線を外しましたね、ロータス!

「ね?」

ロータスの視線を追いしっかりと目を合わせてから、もう一度念押しすると、

「……ええ、まあ」

不本意丸出しな感じでロータスが肯定しました。ちょっとはその不本意を隠しましょうよ!

でもまあそれはいいです。いつもどおり(・・・・・・)なのですよ! ということは。


「うふふふふ~! 久しぶりに活動できるじゃな~い!」


「……やはり。そうおっしゃられると思いましたよ……」

ロータスが諦めのため息をつきました。


「お仕着せは着ないけど、やることはいつもと同じ~」

私はふんふんと鼻歌を歌いながらシトリン片手にガラス磨きをしています。私のこの手でガラスがピッカピカになるとか、もうたまりません!!

指でなぞれば「きゅっきゅっ」といい音を立てます。ああ、いい感じに出来上がりました!

「あ、次は洗濯もしたいわ! シーツのしわ伸ばしもしたい!」

公爵家洗濯秘術(?!)のしわ伸ばし。火のしを使わずに、人力でシーツを上下にバフバフするのです。空気が通って早く乾くし、その勢いでしわが伸びるし、空気が入るから布が固くならずにふかふかに仕上がるという優れた技術ですよ!

六人がかりでやるそれは、とっても楽しいのです! できればそのバフバフしているシーツの上で飛び跳ねたいのですが、それはさすがに無理ですので諦めていますが。

大きなシーツを六人がかりでバフバフするのはとっても力がいりますが、綺麗にしわが伸びていた時の充実感……! いい汗かきました☆


しかし悲しいかな旦那様がいる時の習性で、夕方近くになれば自然と仕事を仕舞いにかかっている私です。慣れってオソロシイ……。


「やっぱりお仕着せを着た方がいいわねぇ。せっかくのワンピースなのに汗かいたり埃がついちゃったりするものね」


部屋に戻ってお着替えです。

今日はお洗濯をしたから汗をかいてしまったので、晩餐前に着替えることにしたのです。

「え~と、しかし奥様? 今着ていらっしゃるものは普段着ですし、汚れても大丈夫なものですよ?」

私を着飾り隊長のミモザは、私のお仕着せ復活論に難色を示しています。

「ん~、でもなんとなく? ほらお仕着せの方が汚れても気にならないというか?」

「気にはなりませんけど……。もし突然先代様がいらっしゃったらどうなさるんですか?」

「そこが問題よねぇ~」

ミモザの反論に、私は腕を組み考えます。


「……お義父様たちに何か動きがあれば、こちらに伝えてもらうとかでいいんじゃない? てゆーか、いつもそうしてるじゃないの!」


別棟には侍女さんや使用人さんが、義父母夫妻のために付いています。

二人きりでいいのよ~とはおっしゃってはいましたが、何かと細々としたお世話は必要になりますから、三人一組でローテーションしています。あ、別棟ローテ再びですね! いや、みんな嬉々として働いていますよ?

そして、義父母の動きは逐一本館のロータスやダリアに報告が来るのです。まあ先触れみたいなものです。

外出から帰ってきた時もしかり。

「そこできちんと取り繕えば大丈夫! 今までやってきたじゃない。お二人がこちらに来るとわかれば変身するの! これって義父母シフトかしら?」

「……」

「よし。明日からはこの手でいきましょう!」

ミモザの沈黙は了解の意と捉えておきます! ふっふ~、ポジティブシンキングですよ!




お義父様は、次の日から毎日王宮へと拉致られていくようになりました。

初日にいらした勅使様が毎日お迎えに来られるのですが、お義父様に対してとってもフランクなのでお知り合いなのかしらと思っていたら、やっぱり元直属の部下さんだったそうです。だからあんなにお義父様の扱いがぞんざ……こほん、扱いに慣れていらっしゃったのですね!

毎朝同じ小芝居……ではなく攻防戦を繰り広げてから登城していかれます。お疲れ様です。

お義母様も、お義父様に付いて毎日王宮に行かれます。お義母様も一緒じゃなきゃいやだとか、お義父様がダダをこねているらしいです。放っておきますが。

お義母様は毎日、王妃様とお茶したりなんやかんやとしているそうです。お義父様と違って楽しそうです。


そして私は、そんなお二人を満面の笑みで見送った後、私室にいそいそと戻ります。

「さ、今日は何をしましょう~?」

やっぱり私には奥様然とした生活は似合わないのですよ~!


今日もありがとうございました(*^-^*)


今日(10/4)の活動報告にちょこっと小話を載せる予定です♪ よろしければ覗いてやってくださいね!

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