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回避はしたけど

「ヴィオラ?」


突然の義父母の登場に、ぼけ~っと固まっている場合ではありません。

さっき放り投げてしまっていたのでスコップこそ手にしていませんでしたが、手やスカートの裾はもちろんのこと、顔にまで土をつけてしまっている私です。どこをどう見ても「天気が良かったのでお花を愛でていたところでしたの、おほほほほ~☆」と誤魔化せるようなレベルではありません。 

これは万事休すってやつですか!


「ごきげんよう、お義父様、お義母様! お天気もいいですし、これから仲良くどこかへお出かけですか?」


手に付いた土を後ろ手にこっそり叩き落とし、スカートもさり気なく整えながら立ち上がって何事もなかったように笑顔で問いかけると、

「まあね。ちょっと中心街に行こうかと思って出てきたんだけど、こちらから楽しそうな声が聞こえてきたから覗いてみたんだよ」

のんびりとおっしゃるお義父様。

声のトーンがいつも通りだったので恐る恐るその表情をうかがえば、使用人がやるような土いじりを嫌悪した感じはなく、怒っているふうでもありません。むしろいつもと同じか、何か面白いものを見つけたような微笑みをうかべていたので、ちょっと胸をなでおろしました。

「まあ、そうだったんですね!」

「で、ヴィーちゃんは何をしていたの?」

お義母様も好奇心に瞳を輝かせながら、私の周りをあちこちと観察しながら聞いてきました。

もはや土いじりをしていたのは明白な事実。誤魔化しようもありませんので、私はミモザたちをその場に残し、義父母に近付いて先程植えたばかりの花を示しながら、

「先日旦那様が買ってくださった花の苗が届いたので、さっそく植えようと思って、ミモザとベリスに付き合ってもらっていたんです」

私は正直なところを話しました。

公爵夫人がなんてはしたないことをしてるんだ、と怒られるのは覚悟します。ただ、ミモザとベリスが、私のせいで怒られなければいいなと思いますが。

しかし義父母は先程からの朗らかな態度も変わらず、私に示されたところを興味深げに見てから、

「かわいい花だね。これをあいつが買ったというのかい?」

お義父様が瞠目しています。

お義父様が知っている旦那様は、きっと人目を惹くようなゴージャスな花をふんだんに使った、それはド派手な花束を、嘘くさ……ゴホゴホ、キラキラ爽やか笑顔でスマートに贈るような方でしょう。そんな旦那様が何をトチ狂ったのかこんな素朴な花、それも苗を買うなんて、そりゃ驚きますよね! 私だってあの時は驚きましたもの。

「ええ、そうなんです。先日ご一緒に外出した時に見つけて」

あの時のことを思い出して、私は微笑みました。ましてや旦那様が『何度も花が見れますから無駄遣いにはならないのでは?』などと言い出すなんて、これっぽっちも思いませんでしたからね!

ほんと、あの日はまさかまさかの連続でしたが、とっても楽しかったですよ。

「そうなのね! フフ、可愛らしい花じゃないの~。天気もいいし土いじりは楽しいものね。こちらにいた頃もよくやったわぁ。ねえ、ベリス?」

お義母様は私と目が合うとにっこりと笑って、そして懐かしむようにぐるりを見渡してから、今度はベリスに笑いかけました。

「はい、大奥様」

可愛らしく顔を綻ばせて、お義母様は意外なことをおっしゃられましたけど? そしてそれに、事もなげに答えるベリスですけど?

「お義母様も、こうして花を植えられたりしていたのですか?」

「ええ、私もよくダリアに〝日焼けするからほどほどにしてください!〟って怒られたわ~。あらあらヴィーちゃん、顔に土なんてつけちゃって」

あ、しまった。さっきミモザにとってもらうところだったんだわ。私ったらそんなことすっかり忘れてましたよお恥ずかしい。

私はお義母様に指摘されて慌てて顔を拭おうとしましたが、いかんせんハンカチはミモザが持っています。そして私の手は土で汚れているので逆効果です。ああもうどうしましょ。

ワタワタする私を見てクスッとイタズラっぽく笑ってから、お義母様は私の顔についていた土を、取り出したハンカチで綺麗に拭ってくださいました。お義母様にそんなことさせちゃいまして恐縮ですが、助かりました。ありがとうございます。

「なんだか意外です」

私の知るお義母様はいつも明るく朗らかですので、ツンと取り澄ましてお高く止まった公爵夫人ではなかっただろうなとは想像に難くなかったのですが、それでも意外な過去のお義母様です。それって、まるきり今の私とミモザですよね!

口やかましく怒るダリアと、それをまったく気にしないお義母様の図とか! 容易に想像できちゃいますね!

「ほんとだよね。よくダリアが嘆いていたっけ。今じゃ喧しく言う人がいなくなって、野放図に庭いじりしてるけどね。いやしかし可愛い花だよ。こうしてヴィオラ自らが大切に植えたって聞いたら、あいつもきっと喜ぶと思うよ」

お義父様も嬉しそうに言いました。

「だといいのですが。旦那様が帰ってきた時に、今みたいに綺麗な花を咲かせていて欲しいなぁって思ってたんですけど」

私の視線の先には、綺麗に咲いている花たち。

「きっと咲くわよ! 大事に育ててね、ヴィーちゃん!」

お義母様は私の手を取ると、ぎゅっと握ってきました。

「はい!」

「じゃあ、邪魔したね。そろそろ出かけようか」

「ええ、そうしましょ。じゃあねヴィーちゃん。行ってきます!」

「行ってらっしゃいませ!」

義父母夫妻は私たちに笑いかけると、腕を組み仲睦まじく去っていきました。


「ふ、ふわぁ~、びっくりした。なんてはしたない、って怒られると思った~!」

私はへなへなとその場にしゃがみこんで、大きく息を吐きました。

「奥様ぁ、大丈夫ですか?!」

ミモザが慌てて駆け寄ってきました。

「うん、大丈夫よ。あ~もう、近くに住むようになって、しかも初日にいきなり土いじりがばれちゃうとか、私油断しすぎよね~」

「まあ、それは……」

苦笑いのミモザです。

黙って私を引き起こしてくれたベリスは、しかしいつも通りの無表情で、

「土いじりは大奥様もこちらにいらっしゃる時はよくされていたので、特にお咎めもないだろうからロータスさんもオレもお止めしなかったのですが」

と今頃そんなことを教えてくれましたが。

「あ、そうなの?」

そう言う情報はもっと早くに教えてほしかったですよ、ロータスもベリスも! そうすれば無駄なドキドキもしなくて済んだのに。

「まあそれはいいでしょう。さあ、ここを綺麗にしてしまいましょう」

なのにベリスはしれっと作業に戻ってますし。つーか、ベリスを問い詰めるような無謀はできないチキンな私ですから、

「はーい」

ベリスが黙々と花の周りを整えだしたので、私もそれに倣って作業に戻りました。




朝食に続いてまたまた半べそかいてお一人様ランチをやり過ごすと、午後から、今度こそやることがなくなってしまいました。

「いつもお邸内をうろうろしてましたからねぇ。それをやっちゃあいけないとなると、私は何をすればいいのでしょう?」

ダンス? ロータス恐いから却下!! 刺繍? 旦那様が出て行く前に、嫌っちゅーほどやりましたから却下! 読書? 今日は天気がいいから、室内にじっとしていると腐ってしまいます。

久しぶりに腕組みして仁王立ちし、うんうん唸っている私です。こんな悩みも結婚してすぐ以来ですよね。

ダリアとミモザは私のしたいようにさせるつもりなのか、さっきから黙って様子を見るばかりで、今日は助言もしてくれません。くうう。

「義父母公認の庭いじりでもする? でもきっと草引きしかやることないし、そんなに草だって生えてないから、午後中やるとしたらきっと芝生も抜いちゃうわ。自信持って言えるところが怖いけど。でもってそんなことしたら魔王様降臨だし」

私にはセレブお嬢様経験もセレブ奥様経験もございませんので(んん??)、本当にこういう時にはどうしたらいいのか、ほとほと困ってしまいます。

とりあえずベッドにダイブでもしておきますか。これも久しぶりですね!

「あ、でもそういえば」

バフン、と気持ちのいいベッドにダイブするや否や、私の頭にある言葉が閃きました。

「どうかされました? 奥様?」

「ねえ、ダリア。お二人にばれなかったら、いつもどおりにしてても大丈夫よね? いやむしろ、いつもどおりにしてていいって言われたわよね?」

ベッドにダイブしたかと思ったら突然ピタリと動きを止めた私に、どこか打ったのかと心配したダリアが寄ってきたので聞いてみました。

「ええ、まあそうでございますが? しかし、いきなりさっきバレそうになったところでございましょう?」

「ぐふっ……! まだ新しい傷が……」

胸を押さえて布団にうずもれる私。

肯定すると見せかけて、ちゃっかり杭を打つことは忘れないダリア。うん、的確にやる気を抉るスキルは見事です! いやしかし、ここで撃沈していてはいけません! がんばれ私!

「ん~ん~、ま、まあそれはいいのよ。今度はバレないように、こそっとやるから! ね?」

「……何をなさる気でございますか?」

「えーと、いつもどおりです」

「いつもどおり、とは?」

「もっちろん、お飾りとか~お掃除とか~ですよ~!」

ニマ~っと笑う私と、それを見てこめかみに手を当てつらそうな表情をするダリア。

「ダ、ダリア?! 頭が痛いの?!」

「いえ……そうではございませんが、いや、痛いです」

「どっちよ! えーと、まあいいわ。見つかってもいい感じにこそっとやるから」

「見つかってもいい感じとは?」

「お花飾ってますの~とか、ちょっと埃が目立ってましたので拭いてましたの~っていう感じ?」

「前者はいいとして、後者はアウトだと思われますが」

「え、うっそ?! ……ま、まあ、こんな感じで」

「……私がダメと申しましても、奥様はなさってしまわれるのでございましょう?」

ダリアが明らかにため息交じりで言います。

「ダリアに迷惑はかけないから! ね!」

小首を傾げてキャラでもないお願いポーズです。


こちらに来た当初はこれで通りましたけど、あ、そういえばこれってロータスに「二度目はない」って言われたんでしたっけ。


今日もありがとうございました(*^-^*)


9/10,11の活動報告にも、リクエスト小話を載せております♪ 

まだしばらく「書籍化記念リクエスト小話祭り」を、活動報告の方でやっておりますので、お時間よろしければそちらも覗いてやってくださいませ!(^-^)


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