表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/238

二世帯同居です

フィサリス公爵家はただ今二世帯家族。ただし夫は単身遠征中たんしんふにんちゅう

はい、義父母夫妻が別棟に滞在中です。


来て早々、お義母さまが、

「私たちにかまわず、ヴィーちゃんはいつもどおりにしてくれてていいからね!」

とキラキラ笑顔でおっしゃってくださいましたが、

「……できないわよね……」

コソッ。

「……まあ、確かに……」

ヒソッ。

私の小さな小さな呟きに、打てば響いたミモザ。同じように潜めた声で相槌を打ってきました。

「あら、どうかしたの?」

何も聞こえなかったお義母様が、小首を傾げてとってもキュートにこちらを伺ってきますが、

「ええと、ナンデスカ? どうもしませんわ~。うふふふふ~」

と誤魔化しておきました。




「お義父様たちがお帰りになるまで、当分お仕着せは封印ね」

私室にて。

私はすっかり馴染み切ってしまった愛用のマイお仕着せに向かって、涙交じりにしばしの別れを告げています。

「まあまあ、奥様。そんな嘆かなくてもよろしいかと……」

大袈裟な悲壮感を漂わせる私に苦笑いのダリアと、

「明日からは、こちらのワンピースでよろしいですか? いつもの3着だと服がないのかと怪しまれますので、7着で着まわしていきましょうね。もっと用意したいのはやまやまなのですが、これで我慢しておきます」

衣裳部屋からいつものワンピースにプラスして、明日からのコーディネイトのローテーションを嬉々として確認しているミモザ。最後の方は聞こえないふりをしましたが。

「ええ、それでいいわ。まあ、お義父様たちは別棟にいらっしゃるから、大体いつも通り過ごしても問題はなさそうだけど……」

「そうですわね。ですが、お食事はメインダイニングでとることになるでしょうね」

私の言葉を受けてそう続けると、気遣わしげに、ダリアの眉尻が下がりました。

うう、やっぱりそうですよね。使用人ダイニングで食べるわけにはいきませんよね。

義父母夫妻がいつ何時本館にいらっしゃるかわからないですものね。

「……お一人様、やだなぁ」

これからの私の姿が容易に想像できます。『だだっ広いメインダイニングにポツン』。……淋しすぎます、想像しただけで涙ちょちょ切れてきました。

これならまだ、旦那様と二人で食べた方がよかったです。最初の頃こそ会話もぎこちなかったですが、最近では慣れてきたこともあって、そんなに気詰まりなことはなかったですしね。

むしろ旦那様がいろいろお話をしてくださっていたので、結構楽しく過ごせていたように思います。

勝手に想像をたくましくして、またブルーになっている私に向かって、

「しばらくの我慢ですわ、奥様!」

ミモザが私を励ますように、こぶしを握って目力強く見つめてきます。

「またすぐ元通りになりますよ」

ダリアも微苦笑しながら慰めてくれます。

「そおね。ここでぐだぐだ言ってても仕方ないわね」

二人に励まされて、私もようやく覚悟ができました。

そうですよ、いつも通りしてていいって言ってくださったんですもの! 言質はいただいております!




いつもと同じように、朝からキチンとシンプルワンピースに身を包み、ミモザに超ナチュラル良妻メイクを施してもらってからメインダイニングに向かいます。

近頃は旦那様と朝食から一緒でしたので、この手順は変わることがありません。


しかしここからが非日常です。


ダリアたちと一緒にメインダイニングに入っても、そこにロータスはいても旦那様の姿はありません。

やたらと大きなダイニングテーブルが鎮座しているだけです。こうやって見ると、何だか喪失感がありますねぇ。旦那様、キラキラピカピカだから、存在感はバッチリありましたから。

「おはようございます、奥様」

「おはよう、ロータス。むうう、やっぱり一人ぼっちですかぁ」

ロータスがひいてくれた椅子に腰かけ、萎れる私。

「仕方ないですから諦めてください。せめてもの慰みになればと思いまして、お食事は賄いと同じものにしておりますから」

「うん、それはありがたいんだけどね。でも賄いならなお一層、向こうで食べたい~!!」

フォークとナイフを手に、私は盛大に嘆きました。


カチャカチャと、食器とカトラリーがたてるわずかな音だけがダイニングに響いています。


なにこれデジャヴ。


確か結婚してお邸に来た初日がこんな感じでしたよねぇ。

あの時はキャラでもない泣き落としで『脱☆お一人様』を勝ち取ったんでしたね。あれをやったら、今回も何とかなるかしら?

やってみなくちゃわからない~と、私は下を向き、瞳を潤ませ準備万端にしてから視線をロータスに向けたのですが、

「奥様。二度目はダメでございますよ」

しれっとスルーされてしまいました。

「がーん。バレマシタカ」

さすがはロータスです。伊達に半年以上、同じ釜の飯を食べてませんねぇ。私のやりそうなことは、もはやお見通しということですか!

最初の時は、みんな私のことをまだ解ってなかったし、私に対する遠慮もあったので、あっさり要求が通ったということですね。

私の作戦を見事に一蹴したロータスは、ニコッといつも通りの優しい笑顔を見せると、

「バレバレでございます。さ、早く召し上がってください。先日のお出かけの際に、旦那様が買われた花の苗が届いていると、ベリスが言っていましたよ」

甘い飴を目の前にぶら下げてきました。


お一人様の試練を乗り越えれば、庭いじりのご褒美が待っているということですね!


「わぁ! あのお花届いたのね? 早く食べてすぐさま魔王様ベリスのところに行きましょう! ダリア、ミモザ!」

私は俄然張り切って、朝食を平らげました!

……ん? これって飴と鞭?




辛いお一人様朝食をいそいそと終えて、私は温室に向かいました。

そこではすでにベリスが、届いたばかりの苗をいつでも植え替えられるように、準備して待っていてくれました。

「お店では、切って小さなブーケみたいに仕立てられて売られていたんだけど、こうしてみると、切るよりも植えて咲いているのを愛でる方がよさそうな花ね」

私は苗のポットをひとつ手に取りました。それは小ぶりな桃色の花をつける苗のようです。

「そうですね。この花は一年に何度も花を咲かせるので、通年目を楽しませてくれますよ」

ベリスが説明してくれました。

「へぇ~! そうなのね! じゃああの時、ブーケじゃなくて苗を買ったのは正解だったのね?」

「はい」

多分そんなことは知らなかったと思うのですが、旦那様、いいチョイスをなさいました!

「旦那様が帰ってくるころには、また花を咲かせてくれるかしら?」

今咲いている花が、これから一か月以上も咲き続けているとは思えません。

せっかく買っていただいたのですから、綺麗に咲いているところを見せたいですからね。

「ええ、きっと咲いているでしょうね!」

ミモザがとっても嬉しそうに答えてくれました。

とにかく、花を買ってくださったあの時の旦那様にもう一度感謝をしつつ、

「どこに植えようかしら? う~ん、庭園内はどこも計算しつくされてるから、この子たちの植える場所が見つからないわねぇ。花壇も満員御礼だし、直植えなんてしちゃったら魔王様ベリスのブリザード直撃だしねぇ」

苗の入ったポットを手に持ち、きょろきょろと辺りを伺いますが、本当にどこに植えればいいのでしょう。庭園の隅と言えども適当なところに植えたら、それこそ魔王ベリスの降臨ですからね。くわばらくわばら。

「ですがあまりに隅っこでは、せっかくの可愛い花がかわいそうですしね」

ミモザも一緒になって考えてくれます。

私とミモザが、あ~でもないこうでもないと二人でうんうん唸っていると、

「奥様の花壇に植えられたらいいのではないでしょうか?」

秘かに目元を緩めていたベリスが、そう提案してくれました。

そうだ、すっかり忘れていました! この完璧な庭園の中で、唯一ちゃらんぽらんが許される場所! そう、私専用のスペースがあるじゃないですか!

「そうね! あそこならまだまだ植える余裕があるし、なんてったってこの花の素朴さがいかんなく発揮されるわね!」

私専用のスペースは、適当に気に入ったものを適当に植えているので、すっかり名もない花の楽園になっていました。まるで以前の実家の庭のようです。でもこれが意外と落ち着くんですよねぇ、私には。素朴万歳!

そうと決まれば話は早く。

私はミモザと、花の苗を載せたトレイを持ったベリスを従えて、庭園の片隅にある『ヴィーちゃん専用花壇』に向かいました。


片隅と言っても暗くてじめじめしたところではありませんよ?

低灌木に囲まれたそこは、遮る大きな樹木もないので日当たり抜群、風通しも最高なのです。

近くには別棟に引き込んでいる遣り水があるので、水やりもラクラクです。

「この辺りでいいかしら?」

私はまた適当なところに、花の苗をポンポンと置いてみました。

花の苗は全部で3種類15株。桃色の花をつけるものと、赤い花をつけるもの、小さな白い花を幾つもつけるものです。

イメージとして、小さな直植えブーケを作るつもりで配置してみたのですが、

「なかなか色が混じって面白いですね。……いいんじゃないでしょうか」

ベリスからお褒めの言葉をいただいてしまいました! 

一見無表情ですが、よく見れば目元がわずかに下がっています。これは機嫌がいい証拠なのです! すっごい微かな表情の変化なので、普通なら見逃してしまいがちですが。

「うお~。褒められた~! 魔王様ベリスに褒められたよ私!」

「……ですからオレの名前に変な意味を持たせないでくださいと言ってるでしょうに」

滅多にないこと、いやむしろ初めてのことでしたので、私が変な感慨に浸っていると、呆れたようにベリスがじと目になっていました。そんなもん気にしないよ! 横でミモザは私に日傘をさしかけながら、私とベリスのやり取りに、クスクスおかしそうに笑っています。

「じゃあ、植えますか!」

私はスコップを手に、柔らかそうな土をえっさほっさと掘り返しました。


「きゃ~、虫が出てきたぁ~」

「……奥様、スコップを放らないでください。ミモザに当たらなかったからいいものを。危ない」

「奥様~、お顔に土がついてしまってますわ~!」

「え~? ここ~?」

「ああもう! 余計に土がついてしまったじゃありませんか~! 私がしますから、奥様はさわらないでじっとしていてください!」


そんな会話をしながら、三人でキャッキャウフフと楽しく土いじりをしていたら。


「ヴィオラ?」

「ヴィーちゃん?」


茂みの向こうから、ひょっこり義父母夫妻が突然顔を出しました。


「お義父様、お義母様!」

「ここで何してるんだい?」


そう言えばここ、庭園の片隅。そうです別棟の近くなのですよ。

あ~。土いじりしてるとこ、見つかっちゃいました……。


今日もありがとうございました(*^-^*)


同居初日に、もう土いじりばれてますw


9/5.6.9の活動報告に、リクエスト小話を載せています♪ お時間よろしければそちらも覗いてやってくださいませ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 売られていたいたんだけど      ↑ いた が、重複してます。 [一言] 書籍化済みの作品ですから、修正は、されない? 書籍化に当たって、校正さんがチェック済みでしょうし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ