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スイーツパーティーにて

今話題のスイーツと綺麗なお姉さまたちに囲まれて、私はすっかり大満足です。

しかし悲しいかな、眼の前には店にある全種類のお菓子が並べられているのですが、もちろんすべてを食べられるわけもないので、一人秘かにハンカチを噛んで歯ぎしりしたい気分です。実際そんなことをしたら皆さんにひかれてしまうでしょうからやりませんけどね。それくらい悔しいということで心中お察しくださいませ。

とりあえず一口でも口を付けたものは、絶対に完食せねばなりません。私にとってお残しはご法度なのですから。

まあでも、店内限定だというスイーツはしっかり食べましたから、他のものはいつでもどこでも食べられるんだし、今日のところは涙を呑んで諦めましょうと決意していたのですが。

そんな私の怨念に近い電波が漏れていたのでしょう、


「こんなにたくさんは食べられないでしょう? ヴィーは好きなものを好きなだけ食べたらいいですよ。残ったらあとは僕が引き受けますから。手を付けなかったものは持ち帰って、邸の者たちの土産にしましょう」


と、お姉さまのガードをかいくぐって私に微笑みかけてくる旦那様。


え? うそ。今の、旦那様のお言葉?


ひょおっ?! 好きなものを好きなだけ食べていいのですかっ?! しかも残ったら僕が引き受けると旦那様が言いましたよ?!

とってもありがたい申し出なのですが『ちょっと待て、私。よく考えろ私。今のは旦那様のお言葉か?!』と、内なるもう一人の冷静な私がつっこみを入れてきました。

これまでの旦那様なら『余ったのならそのまま残しておいたらいいですよ』なんてサラッと言っちゃってましたよね! それがどうして『僕が引き受ける』になり、『残ったらもって帰ろう』という思考に変化しているのでしょう?


旦那様の、今までとは180度豹変した言葉に唖然となってしまいました。


先程の花屋さんでの言葉といい、今の言葉といい、一体旦那様のなかでどんな変革があったのでしょう?

まさかとは思いますが、これは私の実家に旦那様が足を運んでくださった時にお母様が「もったいないオバケとは」をこんこんと話して聞かせたのが、今になって実を結んだのでしょうか? う~ん、イマイチ説得力がないですけど、もしそうならば、お母様、信者が一人増えましたよ!


……っと、閑話休題。


なんにせよ旦那様の口から出た言葉とは思えず、目をかっぴらいて旦那様をガン見した状態で固まってしまった私。


「ヴィー?」

「「「奥様?」」」


自分の名前を呼ばれてハッと我に帰れば、旦那様とお姉さま方が、急に黙り込んで瞠目したまま固まってしまったのを不審に思ってか、小首を傾げて私の様子を見ていました。

「あ、は、はい! いやぁ、嬉しすぎてびっくりしちゃったんです~! あはっ!」

「そうですか。ならよかったです。さ、食べていいですよ」

「いえいえ、私の食べた残りを旦那様に食べさせるなんてありえません! お気持ちだけで充分ですわ!」

いつもの笑って誤魔化せ戦法で対処した私。


そうですよ。私が旦那様の残りを食べることはあっても、旦那様が私ごときの残りを食べるなんてことはあってはいけないと思うのですよ! だって天下の超名門公爵様ですし、エリート騎士団長様ですからねっ! それも、よりにもよって部下さんたちの目の前でなんて、トンデモナイコトデス!


ですので、この有難い申し出は泣く泣く辞退させていただくことにしました。

あわあわと腰の引ける私に、

「ふ~ん。まあ、いいでしょう」

そう言ってニッコリと笑いかける旦那様なのですが、あれ~? おっかしーなぁ? 旦那様の後ろに黒いものが見えるのですが?




気を取り直して新しいケーキに手を出した私。かわいらしいピンクのクリームが見た目にも華やかな逸品です。ベリーのケーキかしらと思いながら口に含むと、中から出てきたのはなんとローズのジャムで。口の中にふわりと広がる優雅な香りと甘み。

さすがは王都で今一番流行っているお菓子屋さんだけあるなぁ、と感動にプルプルと震えていると、


「ああ、そのお菓子も美味しそうですね。僕にも一口ください」


ひょいっと、旦那様が私の方に顔を向けてきました。

「うきゃっ!」

旦那様の声に応えてそちらの方を見ると、思っていた以上の至近距離にそのお美しいお顔があったので、思わずおかしな叫びを漏らしてしまいました。

確かさっきまでお姉さまが完全ガードしていらっしゃったはずなのに、いつの間にかまたしっかりと私の横の席を取り返してましたよ、コノヒト。

お姉さま方もニコニコしながらこちらを見ていますし。いや、これはニコニコではありませんね、むしろニマニマといった感じでしょう。生温かい視線はご遠慮願います。

「ヴィー?」

何のリアクションもしない私に痺れを切らしたのか、旦那様が再度声をかけてきました。お姉さま方の視線がこっぱずかしくもありましたが、旦那様を無視するのはいただけませんので、

「あ、すみません。どうぞ」

そう言って二口目にと切り分けていたケーキ片を、フォークに刺して旦那様に差し出しました。


フォークを受け取ってね☆ といった意味でフォークを出したのにもかかわらず、旦那様はなんと、そのままぱくりとケーキに食いつかれたではありませんか!


まあ旦那様、なんて面倒くさがりなんでしょう! 周りも一瞬息をのみましたよ!

どんだけお坊ちゃんなんだよ? と呆れて見ている私に対して、旦那様はご機嫌でケーキを咀嚼し、しっかり味わっていらっしゃるご様子。

「うん、これも美味しい。ローズオイルがなんとも贅沢な気分にしてくれますね」

「ええ! とっても!」

ケーキの美味しさに関しては同意見な私。ニッコリ大きくうなずいて見せました。そして、そのケーキはよほど旦那様のお口に合ったのか、

「もう一口もらえますか」

「どうぞ」

さらに二口目を所望されたのでもう一度カットして差し上げたら、またしてもぱくっとフォークに食いついてますし。

「うん、美味い。もう一口」

「……」

このめんどくさがりやめ、と思ってじと目で見ている私など気にせず、やっぱり上機嫌でケーキを味わっておられる旦那様。

もう一口、もう一口、と言われて差し出している間に、気が付けば残り全部を旦那様に食べられてしまっていました。


私一口しか食べてないのに?!

すっかり空になってしまったお皿を凝視して、呆然となっている私の視線を追った旦那様は、

「ああ、もう食べちゃいました? 次、これはどうですか?」

しれっとそう言うと、また違う種類のケーキを私の目の前に置かれました。

次はこのお店と同じような、爽やかなアップルグリーンのケーキです。色から察するに、ピスタチオか何かでしょうか。

薄情な私は先程のローズのケーキのことなど完全に頭の片隅にうっちゃり、新しいケーキに目がいってしまいました。ゴメンネ、ローズ☆ こんにちは、ピスタチオ!

「うわぁ~! これも美味しそうです!」

「どうぞ」

「はい! いただきます!」


今度こそは完食するんです!!




……しかし私の決意虚しく、次のケーキも一口目こそ美味しくいただけたものの、それ以外はさっきのケーキ同様、旦那様の胃袋の中に消えていってしまいました。

そしてまた、違う種類のケーキが目の前に現れるというパターンです。


これを何回繰り返したでしょう。


かなりの種類を味わえたのですが、量としては大したものではありませんでしたのでお腹を壊さずに済んでいます。

そしてケーキを食べている間中、そこはかとなく感じていたのですが、今やはっきりと感じるもの。

それは視線。

チクチクと刺さってくるのでそちらを見ると、とってもいい笑顔でこちらを見守っているお姉さま方の瞳とかち合いました。


「いつも思いますが、ラブラブですよね~」

「ええ、ええ。溺愛というのかしら?」

「もう、デレデレですわねぇ。あーん、ですよ、あーん!」


「「「きゃぁぁぁぁ!」」」


お姉さま方はこそこそお話していますが、聞かせるつもり満々の声量です。丸聞こえですがな。最後はみなさん揃って身悶え始めてしまいました。

そんなきゃぴきゃぴなお姉さま方をちょっと引いたところで観察させていただいていたのですが。


ん? あ~ん? ……あ~~~っ!!!


私としたことが、結局ケーキを手ずから「あ~ん」して、

食 べ さ せ て し ま っ て い た じ ゃ な い で す か っ ! !


そう思い当った(というか思い知らされた)途端に、心臓が爆発したのかと間違えたくらいにドッキンドッキンしてきました。主に羞恥の方向で。

同時に顔から火が噴き出たようです。


私ったら、人様の前でなんてことしちゃったんでしょう~!! お邸ですらやったことありませんからね! 潔白です!!(って、なにが?!)


あ~んが恥ずかしいだけじゃありません。結局のところ、私が食べなかった分は全部旦那様が食べたということですよね? それって私の残りを旦那様が食べたのと同じですよね!?

ああ、何たることでしょう……。




「この後はバールを貸し切って二次会するんだけど、団長もどうですか~?」

という部下さんたちのお誘いを、

「行くわけないだろうが。さ、ヴィー、僕たちは帰りましょう」

と、バッサリあっさり切った旦那様に促されて、私たちは家路につきました。

旦那様と私は、騎士様たちの生暖かく、なおかついい笑顔に見送られてお邸へとゆっくり歩きだしました。


「あ~。最後はとんだ邪魔が入りましたけど、今日は楽しかったですか?」

お店と、見送りの騎士様方が見えなくなった頃。

旦那様はやれやれと言ったふうに息を吐き出してから、その後一転して微笑みを私に向けて聞きました。

「ええ、とっても! お土産もたくさんいただきましたしね!」

私の手にはしっかりお土産の包みが握られています。食べ残ったものどころか、お店のお菓子総てをもう一度包み直していただいたのです。これは帰ってから、使用人さんたちに食べてもらいましょう!

と、それはさておき。

最後は本当に恥ずかしいやら申し訳ないやらで精神的な何かがごっそり削り取られましたが、総じてとっても楽しかったので、私は素直に濃茶の瞳に向かって微笑み返しました。

「それならよかったです。ホント、やつらにしてやられましたけど」

私の瞳とぶつかると柔らかく微笑んでくれましたが、騎士様の乱入のことを思い出したのでしょう、苦笑いになる旦那様です。私だって思い返すだけで顔が赤らんで、また魂的な何かが飛んでいく気がします。

「……あれも楽しかったからいいんじゃないですか?」

「まあ……。うん、そうですね」

私は楽しかったのですが、旦那様は何か思うところがあるのでしょうか。ちょっと歯切れが悪いのが気になりますね?

「旦那様?」

やっぱり気になって、旦那様の綺麗なお顔を見上げれば、


「いや、ね。もう少ししたら遠征に出ないといけないのですよ。だから今日はたっぷりとヴィオラを充填したかったんですが」


真っ直ぐ私を見つめる濃茶の瞳にぶつかりました。


今日もありがとうございました(*^-^*)


書籍情報に関してを8/23の活動報告に載せていますので、もしよろしければ読んでやってくださいませ!

また、出版記念にリクエストを受け付けようと考えております。こちらはこの後8/28の活動報告に載せるつもりでおりますので、興味あるよと言ってくださる奇特な方は覗いてやってください♪

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