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すったもんだの収拾方

アイリス様に婦人会から救助していただき、そのまま壁の花になるも良しと思っていたのですが、あっという間に前回ご一緒させていただいたご令嬢たちに囲まれてしまいました。またこの方たちは参加なさっていらっしゃったのですね!

誰が参加してるなど全く興味のなかった私は存じませんでしたが、きっと皆さんお誘いあわせの上来られているのでしょう。

「みなさまも、ごきげんよう」

私を囲んだお嬢様方に優雅に微笑みかけながら、しかし内心名前と顔の一致に必死なのは社交スキルとしておくびにも出しませんよ!

クロッカス伯爵令嬢、ナスターシャム侯爵令嬢、コーラムバイン伯爵令嬢、記憶の底からお名前を懸命に引っ張り出してきました。残念ながらファーストネームの方は……。うん、でもがんばったね、私の脳細胞!

「お城の夜会以来ですわね? あれ以来ヴィオラ様のお姿を見かけませんでしたら、どうしていらっしゃるのかと思ってましたのよ」

ぽっちゃりさんはクロッカス伯爵令嬢でしたか。

「公爵様もすっかり夜会には来られなくなりましたし」

そうおっしゃるのは私といい勝負しそうなひょろり……いや失礼、すらりとしたナスターシャム侯爵令嬢。

そう言えば旦那様、最近すっかり夜会など行かれてませんねぇ。なぜか本館直帰されてますから。

つか、お嬢様方。あなたたちどうして私たちの動向をそんなにご存知なんでしょう?

「あの~、なぜそんなにお詳しいのですか?」

恐る恐る疑問を口にすれば、

「「「「もちろん、たいていの夜会には参加してますもの!」」」」

おほほほほ~、と朗らかに笑い飛ばされました。

うん、真のお貴族様ってこんなものなのですよね。私が規格外なわけでして。

「だっていい出会いを探さないとね」

「そうそう。ヴィオラ様はもはや既婚ですから関係ございませんけど、私たちには大問題ですから!」

「「「「ね~!」」」」

息ぴったりに掛け合うお嬢様方です。ということは婚約者もいらっしゃらないということですね。まだ恋愛結婚をお望みなところ、夢見る夢子さんたちなようです。乙女ですねぇ。

お嬢様方のように、こういった催しものに参加するということは独身令嬢・ご子息の婚活も兼ねているようですから、あちこちにアンテナを張っているので色々な情報が入ってくるのでしょう。それに私たちの夜会参加率の悪さが引っ掛かったようです。

思わず頬が引きつりそうになるのを懸命にこらえて、

「そうなんですか~、だからよくご存知だったのですね~おほほほほ~。旦那様がご多忙ですので、なかなかこういった催しに参加できないんですの」

社交めんどくせえ。とは口が裂けても言えません。嘘も方便です。笑っておきました!


「夜会に来れないのでしたら、お茶会とか開かれてはいかがです?」

可愛らしいアイリス様の声に我に返ると、そこには何かを期待してキラキラ瞳を輝かせるアーモンドアイがありました。

「お茶会、ですか?」

どこで?

私がキョトンと小首を傾げると、

「公爵家の庭園は素晴らしいとお聞きしましたの。一度見てみたいと思いまして」

にっこりほほ笑むアイリス様。

何で公爵家うちの庭園がすごいってご存知なんでしょう? ほとんどお客様なんてお招きしていない状態ですのに。

いや実際すごいですよ? だって魔王様ベリスの渾身の作ですからね!

「『オートクチュール・ド・フルール』のマダムがおっしゃってましたわ」

私の疑問に答えてくれたのはそれまで静かに話を聞いているだけだったコーラムバイン伯爵令嬢。つか貴女、私の心を読んだんですか?

『オートクチュール・ド・フルール』というのはいつも私のドレスを作ってくれる例の超高級ブランドの正式名称。

「それに『ポミエール』のオーナーも」

『ポミエール』は前回お飾りを作ってもらった超有名宝石商ですよ。

ほぼ鎖国、敷地内だけで完結しているはずの公爵家の情報流出(そんな大層なものじゃないけど)は、出入りの商人さんたちがネタ元だったのですね!

超一流スキルの持ち主であるうちの使用人さんたちが邸のことをペラペラしゃべるなどありえませんから。

「そうでしたか。えと、私の一存では決められませんので旦那様に聞いておきますね」

「ぜひお願いしますわ!」

遠まわしに『ま~た~ね~』って言ったつもりなんですが。

「……」

「……」

何でしょうか、お嬢様方がキラキラした目で私を見つめてきます。無言の圧力をここにも感じたのは気のせいではありませんね。

「……今すぐ?」

「ええ。今すぐ」

ソウデスカ。今すぐ旦那様の確認をとれと。そんなに来たいか、公爵家うちのいえ

まあ、旦那様は一人っ子というのは周知の事実なので、公爵家の他の男子を狙った婚活の一手とかそういった下心はなさそうですが。滅多に門戸を開くことのない公爵家へ純粋に遊びに来たいのでしょう。

「わかりましたわ。旦那様に聞いてきますね」

キラキラお目目の圧力に屈した私は、たくさんの人であふれかえるパーティー会場を旦那様を捜しにいくことになりました。




しかしそう苦労することなく私は旦那様を発見できました。だってキラキラお美しい上に高身長ですよ、目立たない方がおかしいのです。

私からちょっと離れた窓際に旦那様はおられました。男の人ばかりでお話されているので近寄りがたいなぁと思いつつも、後ろからの『はやく・はやく』というプレッシャーが私をぐいぐい後押ししてきます。

仕方ない、と少し旦那様の方に移動しかけたところで、


「貴女がフィサリス公爵夫人?」


横手から誰かに声をかけられました。

「はい? そうですが」

声の方を見ると、全く見ず知らずの若い女の人が立っています。どこぞのご令嬢でしょうか? 私にはまったく解りませんが。キョトンとしている私にかまわず、


「ふうん。ほーんと普通よね。貴女みたいな普通娘のどこがいいのかしら?」


手にした扇をふぁさふぁさと揺り動かしながら、嘲笑をその唇に乗せるご令嬢。しかもついでに私を頭のてっぺんから足の先までねちょ~っと視線を走らせながら!

って、これですよね、これ! まさにイベント!

前回の夜会では肩すかしを食らいましたが、今夜はリアルに体験です! ありがとう、どこぞのご令嬢!

私にいちゃもんつけてくるだけあって、このご令嬢はお綺麗な方です。大きな二重の藍の瞳に綺麗にとおった鼻筋、旬のサクランボのような唇は艶々と美しく。背はすらりと高いですが、私とは違って出るとこ出て引っ込むところは引っ込んでいます。う、うらやましい……というのは置いといて。自分に自信がある人のオーラに満ち溢れています。


しかし。


「よろしいですわ。でも私のどこがいいとか、私にもさっぱりわかりませんの。ところでお嬢様はどちらのご令嬢ですか?」


本当のところを包み隠さず告げれば、

「ん、まっ……! わたくしを、知らないの?」

藍の瞳をこぼれんばかりに見開いて、驚愕の表情。ん? 貴女そんなに有名人なんですか?

「ええ、スミマセン。お初にお目にかかります? それともどこかでお会いしました?」

失礼とは思いながらも向こうも失礼な物言いをされましたので遠慮はいたしません!

「私はここの、アルゲンテア公爵家の長女のバーベナよ」

さっきまで優雅にふぁさふぁさしていた扇をバチンと閉じて私をねめつけてきました。

あれ? でもさっきこちらの子女様たちには挨拶しましたけど、こんな人……失礼、バーベナ様はいらっしゃいませんでしたよ?

「先程ご挨拶に伺った折にはいらっしゃいませんでしたよね?」

「さっきは……! ちょっと席を外している間に貴女たちが来たのよっ!」

「まあ、そうでしたか。それは失礼いたしました」

あらー、こんな高慢ちき……こほん、プライドの高いお嬢様がいらしたのですね。

「ホント失礼だわ。つくづくこんな子のどこがいいのかしら?」

呆れた口調で言ってますが、もう何この王道セリフは!! バーベナ様の険悪なオーラとは裏腹にワキワキしている私です。

「本当ですね。私にもさっぱりわからないのですよ。旦那様に直接聞いていただけます? なんなら私もご同行いたしますので」

「はあ?!」

だって旦那様の気持ちを私に聞かれても解るわけないじゃないですか。

バーベナ様、鳩が豆鉄砲喰らったようになっています。美人が台無しです。私が泣くとでも思っていたのでしょうか? あり得ませんね。そんなキャラではありません。

ちっとも凹んだ様子のない私に、握り締めた扇ごとわなわな震えだすバーベナ様。

「貴女ねぇ、いい加減に……」

何かが切れたのか、地を這うような低い声で罵りかけた刹那、


「おおっと。私の奥さんに何するつもりですか?」


そう言って、私とバーベナ様の間にひょいっと入ってこられた旦那様。

「まあ、旦那様」

「サーシス様!!」

はからずしも私とバーベナ様の声が被りました。

「ヴィー。バーベナに何を言われたんですか?」

私を背にかばいながら顔だけこちらに向ける旦那様に、

「はい。旦那様がなぜ私を選ばれたのか、私なんかのどこがいいのか知りたいということをおっしゃってました」

素直にお伝えさせていただきました。

すると私の素直すぎる発言にギョッとしたバーベナ様は、

「え、ちょ、何を言ってるの? お、おほほほほほ!」

お綺麗な顔をひきつらせながらも笑って誤魔化そうとしました。

「そうなんですか? バーベナ嬢?」

「……」

誤魔化しきれないと思ったのか、バーベナ様は黙って俯いたのですが。


「なあんだ、そんなこと。いくらでもお話してさしあげますよ!」


旦那様はぱああっと破顔しました。


「ええっ?」

「はああ??」


驚いて顔を上げるバーベナ様。『何言ってんのコノヒト?!』とツッコみそうになる私。

そんなある意味『ぴきーん』と固まった空気など気にもせず、


「ヴィオラはですね、まずなんといっても健気なところが最大の美点でしょうか? あ、健気ですが儚いとかそういった類のものではないんですよ。しっかりもしているし、私たちよりもずいぶん年下なのに……」


とうとうと旦那様が私自慢をおっぱじめてしまいました! しかもこれ以上ないってくらいの満面の笑み付きで! いーやー!! 誰か止めてぇ~!! 何この羞恥プレイは!! 誰も何も言わないけど、周りにはたくさんの人がいるんですよ? 今まで私たちのやり取りを固唾をのんで見守ってただけなんですよ?




どれくらいお話が続いたかもはや記憶は定かではありません。

語りきって爽やかに微笑む旦那様に肩を抱かれているのは、羞恥プレイに魂をどこかへやってしまった私。私たちの前には「ごめんなさいごめんなさいもういいですごめんなさい」泣きながら謝っているバーベナ様がいました。


今日もありがとうございました(*^-^*)


シュラバ。旦那様が収拾(笑)

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