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ビバ☆シュラバ

旦那様を丁重に送り出して、今日は久しぶりに旦那様シフトのない日です!

晩餐の賄を食べられるなんて、いつぶりでしょうか? うれしくてニマニマしてしまいます!

スキップしそうなほど足取り軽やかに使用人さんダイニングに到着すれば、そこには超貴重薬汁を手ににっこりと微笑むダリアが待ち構えていました。

「奥様、食事の前にコレをお飲みくださいませ」

にこー。今日の笑顔は破格に怖いです。

「はい! 飲みます!」

すぐさま受け取りはしましたが、いい感じにドロドロです。なんだかとっても効きそうですね~。覚悟しなくては。これを飲まねば賄もないのです!

ぐびぐびぐび~! ぷは~! 腰に手を当て一気飲み、女は度胸です。それでもやはり飲みやすく工夫がされていて、ダリアの心遣いを感じました。ありがたや。


その後久しぶりに侍女さんたちと晩餐。今日の賄はロヴァンス地方の郷土料理のロヴァンス風トゥルト。丸型のパイの中にトマトペーストで煮込まれた野菜ぎっしりのヘルシーな逸品です。

侍女さんたちとワイワイしながら楽しく食べていましたが、ふと、旦那様を強引に別棟に追い返して悪かったかしら、と珍しく旦那様のことを思い出してしまいました。一応私の心配をしてくれていたように見えましたし、同じものは無理でも少しくらいならお相伴してもよかったのでは、と。しかし、向こうには最愛の彼女さんがいらっしゃるわけで、私なんかが出る幕ないですよね。うん、自己完結。

「どうかなされましたか? まだお腹の調子が良くないですか?」

ちょっと黙り込んだ私を、ミモザが心配そうな顔で覗きこんできました。

「いえいえ。王宮御用達のありがたい薬草のおかげでもう大丈夫ですよ! 久しぶりの賄が美味しいなぁって感慨に耽ってたんです! あはっ!」

にこーっ。誤魔化せたでしょう。

「ええ! とっても美味しいですよね~!」

ミモザも負けじとにこーっ。うん。ばっちり誤魔化せているようです。




そして次の朝。

いつものように使用人ダイニングで朝食をいただいていると、

「奥様、旦那様がこちらへ来られました」

ダリアが慌てて私を呼びにきました。

「へ?」

「エントランスにいらっしゃいます」

「えええっ?!」

いつもなら、本宅に寄ることなく別棟から直接出仕する旦那様なのですが、今朝に限ってどういうご用件でしょう? つか、私、お仕着せです!! いや、もぬけの殻の私室に直接来られたのではなくてよかったと喜ぶべきですね!

「これをお召くださいませ、カモフラージュにはなるでしょう」

そう言って大判のストールを肩から掛けてくれました。前をしっかりと合わせたらお仕着せだということが判りません。ナイスフォロー! ダリア!


さもたった今私室から出てきましたよ~的な顔で旦那様の元へ急ぎました。

「お待たせいたしました。おはようございます」

急いで走ってきた私を見ると、

「おはようございます。今朝の具合はいかがですか?」

明らかに元気そうな私を見てほっと目元を緩める旦那様。お仕着せとは気付いていないようです。セーフ!

「いただきました薬草のおかげもありまして、すっかり回復いたしました」

効きましたよ、最後のとどめに濃厚薬汁は。あの味を思い出して一瞬苦い顔になるのはご勘弁くださいませ。

「それはよかった。陛下にも報告しておきましょう」

「いえ、それは……」

一臣下の嫁の腹痛事情なんて、陛下も聞きたくないでしょう!

「まあ、それはさておき。今日も早めに帰ってきますから、あまりご無理はなさらないでくださいね」

「えっ?! ……いや、は、はい。ワカリマシタ」

一瞬驚きで目を見張りましたが、踏ん張りました! ぎこちないでしょうが笑顔に見えるはずです。

「では、行ってきます」

「「「いってらっしゃいませ」」」


ばたむ。


「……旦那様、何がしたかったのかしら?」

旦那様の出て行ったあとのエントランスの扉を見つめながら私はつぶやきました。

「奥様をご心配なさったのでしょう」

「うん、まあ、そうね。そうしか聞こえませんでしたね。でもどういう風の吹き回しかしら?」

首を傾げます。腹痛起こしたくらいでそんなに騒ぐことでもないと思うんですけど。そもそもお腹を壊したのは私であって彼女さんではありません。彼女さんが倒れたならば旦那様的には一大事でしょうが。

「奥様のことが大切に思われるようになられたのではありませんか?」

「今までも大事にはしていただいているわよ?」

そう言う私に苦笑いになるダリアですが。


まったく。旦那様のやることが最近よくわかりません。




今日は雨なので、恒例の雨行事です。

しかも昨日の食べ過ぎを解消(おもに重量の方向で)すべく、午前中ダンスレッスン、昼食を挟んでその後エステ、そして晩餐までもう一度ダンスレッスンという何ともハードなスケジュールです。がんばります!


ロータス先生の特訓しごきのおかげで、どんな曲でも優雅に踊れるようになりました。最近では基本的なことで檄が飛んでくることはなくなりました! 成長です!

普段からの姿勢もよくなり、身のこなしも綺麗になったとダリアからも褒められています。それにあの夜会でも、恥をかかずに済みましたからね!


ミモザ率いるエステ隊はどんどん進化していて、『クレイパックですわ!』『美白パックです』などなど、コースにいろいろ追加されています。ミモザ隊長以下隊員一同、それはそれは楽しそうに(若干鼻息荒め☆)マッサージをしてくださるので『否』とは言えません。おかげでさらに血色よくツヤツヤに、そのうえもちもちまでしてきました。


エステフルコースの後は恒例特殊メイク時間です。

今日はこの後またダンスレッスンをすることが判っていたので、汗にも涙にも強い完璧メイクを施されました。うん、いつもより濃く、いつもより別人です。

『今日は雨で陰気なので、明るいお色目にしましょうね』というミモザのチョイスで、綺麗なローズ色の踊りやすい軽いドレスを着せられて、またレッスン場に移動です。もはや昨日の食べ過ぎは解消されて有り余る、むしろマイナスなくらいエネルギーを使ったように思いますが、これからのダンスを『否』という勇気は持ち合わせていません。そしていつ何時夜会オプションに駆り出されるかわかりませんからね! ある意味披露する場ができてよかった言うべきなのでしょうか? ……うん、我ながらびっくりするくらいポジティブですね。


ダリアに先導されミモザを従えてちょうどエントランスに差し掛かった時。


「あら侍女長さまじゃありませんか。まあ、そちらが奥様ですの?」


という、聞き覚えのある声がエントランス入口の方から聞こえてきました。




「いつも申しておりますが、先触れを出していただければご案内さしあげますものを」

ダリアが私を背後に隠すように、私とカレンデュラ様の間に立ち無表情で言いました。うん、無表情コワイ。

「そこまで正式にしなくてもと思いましたのよ。ごめんなさいませ」

おほほほほ~、とカレンデュラ様は艶やかに笑っていますが目は笑っていません。この二人仲が悪そうです。ダリアの背後からこっそり覗かせていただきます。

今日もばっちりメイクに胸元がガッツリ開いた黒いドレスは色っぽさ倍増です。

「それで。奥様に何の御用ですか」

「いいえ、初見のご挨拶をと思いまして。いつもご不在でしたから、奥様なんて本当はいらっしゃらないのかと思いましたわ」

持っている扇で口元を隠してこちらを流し見る目元はとっても嫌味ですね!

というか、とうとう私が奥様というのがバレマシタ。まあ、バレタといってもいつもの下っ端使用人の私と今の特殊メイクの私とでは別人登録されているでしょうが。

カレンデュラ様とダリア(を通り越しての私)のにらみ合いになったところで、


「あいにく奥様はお忙しくされておりまして、それでなかなかお会いできなかったのでございます。あらかじめご訪問を連絡くだされば調整いたしましたのに」


と、今度は奥からロータスの声が割って入ってきました。うん、こちらも普段の調子とは全然違う声色です。

きっといつまで経ってもレッスン場に現れない私たちを迎えに来てくれたのでしょう。

「そもそもそんなにいつも不在っておかしくないかしら? 社交なんて全然してないって聞いてるのに。一体いつもどこで何をしてるのかしら」

カレンデュラ様がちょっとキレ気味にロータスを睨んでいます。

いつもならあっさり目に引き下がっていくのに、今日はなんだか粘りますね。あ、私をついに発見したからでしょうか?

ロータスはすっとダリアの前に入り、

「それはフィサリス家以外の方にはそうそう口外できかねます」

カレンデュラ様の前だけ見せる冷徹執事の顔で、淡々と言い放ちました。

「んなっ……」

それを聞いたカレンデュラ様はさっと顔を紅潮させ、柳眉を釣り上げると、

ばちん。

勢いよく扇が閉じられました。

ひゃ~、般若です。ここに般若がいますよ~! 私はロータスの後ろのダリアの後ろという、何とも安全な場所にかくまわれて、ロータスダリアVSカレンデュラ様の戦いを見ているだけです。フガイナイ。参戦したいところなんですが、ダリアの手が『出てきちゃだめですよ!』とばかりに私の前に出されているので、遠慮しておきます。


「公爵家のことでございますから、お引きくださいませ」


カレンデュラ様の様子に驚くことなく、ロータスも負けじとカレンデュラ様のルビーの瞳から目線を逸らさず冷たく言います。大事なことなので二度言ったようです。

そして向こうでは『お帰りはこちら☆』とばかりにミモザがエントランスのドアを開けて待っています。つか、ミモザ、あなた私の後ろにさっきまでいたわよね? なんつー早業でしょうか!


握る関節も白くなるほど強く扇を握り締めたカレンデュラ様が何かを言おうと、その魅惑的なぷるぷるの唇を開いた時。


「そうです、カレン。出て行ってもらえますか」


おや、また聞いたことのある声ですよー。


今日もありがとうございました(*^-^*)


とうとうこの日が来てしまいました(^^;)


遅ればせながら2/22の活動報告にてお気に入り4000件ありがとう小話を載せています(^-^)よろしければ読んでやってくださいませ!

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