イベント?
あーもう、前回の終わりが煽りすぎですよね(--;)
最初に謝っておきます。ごめんなさい!
呼び止められて振り返れば、そこには4人の若いご令嬢。って言ってもどこのご令嬢とか知りません。お初にお目にかかります。
私に声をかけたのは、ピンクのひらひらかわいらしいドレスを着たお嬢様でした。一歩前に出ているということはリーダーとかそういったところでしょうか。
いやん。これってお約束のイベントですか?! でもって『あんたなんかが公爵様の横に並んでるのはおかしいのよ!』とかって罵られるんでしょうか?! え? ワクワクしてないかって? いえいえ、滅相もございません!
「え、ええ。そうでございますが?」
ちょっと瞳を揺らしてオドオド風味で返事をした私です。そしてこの後どんな王道セリフが飛び出してくるのかワクワクして待っていたのですが、
「まあ! お噂以上におかわいらしい人ですのね!」
と、少し釣り目気味のアーモンドアイを細めて微笑まれてしまいました。
カクッとコケなかった私を褒めてあげたいです。
「公爵様、あんなに素敵でいらっしゃるから色々とご苦労なさるんじゃないですか?」
何だか奥歯に物が挟まったような感じの物言いで心配そうにするのは、さっき私に話しかけてきたピンクひらひらのご令嬢。サングイネア侯爵家のアイリス様とおっしゃるです。一見きつそうなアーモンドアイですが、細めると愛嬌があります。きりりとした綺麗な方なのですが、ドレスの趣味はいかがかと思われます。お歳は私よりも二つ上だとおっしゃっていました。
「ええ、まあ……」
答えにくい質問に私は微苦笑で答えます。というか苦労はしていません、むしろ好き放題させていただいてます。ただ、普通のお嬢様でしたら堪えられない状況ではありますが、それも苦にしていませんから、何とも言えません。
「お噂は、ね。かねがね聞いておりますし……」
こちらも言い辛そうに私を上目遣いで見てくるのはふっくらご愛嬌のあるクロッカス伯爵家のご令嬢。
確かに、気に病むタイプの奥さんだったら厳しい現状ですけどね。私には使用人さんたちがいますし、むしろ旦那様いらなくね? と最近思ったりしたり? なわけで。
「大丈夫ですのよ。旦那様はとてもお優しい方ですし」
うふふ、と今度は儚げに微笑んでみましょう。
気が付けば、臨戦態勢の意地悪令嬢どころかむしろ気のいいご令嬢に取り囲まれている私。あれー? 修羅場を演じるはずだったんですけどね? 修羅場、どこいった?
期待、もとい予想とはかけ離れた和やかな雰囲気に、一人内心首をかしげる私です。
「普段の夜会ですと、その、違うお方をエスコートされているようなので」
あ~、彼女さんの存在をご存知でしたか。
「ご結婚されたというのに、大丈夫かしらって、ちょっと心配になってたんですの」
「まあ」
普通そうですよね。旦那様も上手くやればいいものを。
「おせっかいだとは思ったんですけどね」
「こんなにお美しい奥様をおいて他の方をエスコートなさるなんて、どうかなさってますわよね!」
なるほど、ご令嬢たちが好意的なのは同情票でしたか! 美しいとか可愛らしいとかは思いっきり社交辞令なので、この際華麗にスルーします。
とくに裏があるような言動ではなかったので、私たちはそのままおしゃべりをしていました。
どうやら旦那様が彼女さんと夜会に出ていることはみなさんご存知なようでした。ですから、いくら金持ちで素敵でエリートでもないがしろにされる可能性の高い結婚は遠慮したいわ、ということのようです。全力でお譲りする方針だったのですが、要らないようです。そしてそんな状況に置かれた私を『大丈夫かしら?』と心配している声が多々上がっているそうです。実際は各々の思惑が絡まった契約結婚なので、つらいとかそんな感情ないんですけど、この場でそんなことは口が裂けても言えません!
「お、おほほほほ~」
ここは無難に笑っておきましょう!
まあ、修羅場は無くて残念でしたが要らないファイトをせずに済んだので良しとしましょうか。
しばらく5人でいろいろと和やかに話をしていたのですが、
「ああ、ヴィー。ここにいたんですか。捜しましたよ」
そう言って、部下さんとのお話が終わったのか旦那様が近付いてきました。ああ、またこの人の存在を忘れるところでした。イケナイ癖ですね!
「すみません。ここで皆様と楽しくお話させていただいていましたの」
こちらに近付いてくる旦那様に、私は令嬢方を紹介しました。旦那様はご令嬢方を知らなかったようで、私の隣に立つや腰を抱きながら、
「そうですか。妻がお世話になりましたね。これからも仲良くしてやってください」
そう言っていつもの輝かしい笑みを浮かべました。それを間近で見たご令嬢方の反応たるや! 見る見るうちに『ぽ~~~っ』となっていくではありませんか! 確かに旦那様の微笑みにはそれくらいの破壊力があるのですよ。……一般的には。
「「「「は、はい~~~!!」」」」
目がハートとはこのことでしょう。自分の旦那には『ちょっとね~』でも、純粋に観賞用でしたら最高ですからね。現金なものです。
なるほどな同情票からか、会場のどこへ行っても好意的な対応で『修羅場どこにあるのさ~?』ときょろきょろ探してしまう始末。せっかく覚悟してきたのに~。
そのうちに、
「ダンスでもしましょうか」
と旦那様に誘われてしまいました。そう言えば飲み食いやおしゃべりばかりでちっとも踊っていませんでしたね。レッスン初めには『そんな披露する場なんて行かないのに!』って思ってたのに、まあ、ロータスの言うとおり嗜んでいて損はありませんでした。先見の明はさすがロータス、優秀な……って、もういいですね。
旦那様と何曲か踊った後は、老若問わず次々に『Shall we dance?』がきまして。断れなくてそのまま踊り続けました。何曲踊ったのか、何人と踊ったのか、もはや記憶が定かではございません。一生分のダンスをした気分です。ただ一つ言えることは、日頃の家事労働で培った体力と、ロータス鬼教官の厳しいレッスンのおかげで恥をかかずに済んだということです。いやむしろ上手だと賞賛されました。ロータスの部屋に足を向けて眠れませんね!
私が他の方と踊っている間、旦那様はご友人や職場の方と談笑されていましたが、しかし私の方はちゃんと気になさっているようで、ちらちらと目が合いました。その度に微笑んでくださいますが大丈夫、失敗はしませんよ! 最後まで完璧に勤め上げますから!
そろそろ腰が痛くなってくるぞ、という時にまた次のお誘いがきました。さすがにきびしいかも~と私が秘かに逡巡していると、
「そろそろ妻も疲れてきた頃ですから、返してくださいね」
と言って、旦那様はとってもナチュラルに私の腰をとりました。おおう、旦那様! ナイスフォロー!! そのおかげで上手くダンスを切り上げることができました。謝謝。
そして飲み物をいただいて一息。
「ふぅぅぅ~~~」
ダンスの後のシャンパンサイコー! このシュワシュワがたまんないんですよね~!! 体中に沁み渡っていくわ~! なんてオッサンくさいことを思いながらシャンパンを味わっていると、
「さすがにお疲れでしょう? 今日はお付き合いありがとうございました。そろそろお暇しましょうか」
よほど私がおかしかったのか、濃茶の瞳を柔らかく細めてクスクスと笑いながら旦那様が私を見ています。あ、見られた。ちょっと恥ずかしいかも。でもこうやって自然にしているといい人なんですけどね~。
「はい。そうしてくださるとうれしいです」
そう返事をしてから、今度はちょっと取り繕ってシャンパンを楚々とした仕草で飲み干しました。
これでやっとオプションイベント終了です!
お邸に着いたのは、結構遅くになっていました。
「「「お帰りなさいませ」」」
それでもエントランスではロータスやダリアミモザがお出迎えしてくれています。ああ、ホームに帰ってきた気がします~!!
「ただ今戻りました」
「ただ今、遅くなってごめんなさいね」
私たちがエントランスに一歩入ると、ミモザが上着を脱がせてくれました。
これで後は旦那様におやすみなさいの挨拶をして寝るだけです。後もう少し頑張りましょう!
そう思い、旦那様の方へご挨拶しようと向き直ったところ。
「今日はお疲れ様でした。ああ、ロータス。今日はもう遅いからこちらで休んでいく。部屋を用意してくれ」
まずは私に向かって労いのお言葉。その後は控えるロータスに向かって放った言葉。
あれー? 疲れすぎてまた幻聴ですかね~???
今日もありがとうございました(*^-^*)
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これからも楽しんでいただけるように頑張りますので、気長にお付き合いくださいませ (^-^)/




