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準備

仕方がないので翌日から即行、夜会に行くための準備に取り掛かりました。


こういっちゃあなんですが、ドレス新調するのって大変なんですね。

社交デビューする際に実家の両親からドレスをプレゼントされましたが、それはオーダーメイドではなくプレタポルテでした。結納の品としていただいたドレスや、結婚後にお邸に揃えられていたドレスもそうです。ですので、完全オーダーメイドでドレスを作るなんてことは今回初めてなわけで。


ドレスだの流行だのに疎い私ですら知っているような王都の超有名オートクチュールのマダムが直々に採寸にやってきました。そんなVIPが昨日の今日ですっ飛んでやってくるあたり、やっぱりさすがは名門公爵家ですなぁ、と変なところに感心してしまいます。

どんなお高く止まったマダムが来たのだろうかと内心びくびくものでしたが、

「あらまあ、おかわいらしい奥様ですこと! すらりとしていてスタイルもよくていらっしゃるから、ドレスの作り甲斐があるってものですわ」

花が咲くような柔らかい笑みを浮かべる、優しいおばあちゃんでした。ほっ。でもつるぺたをどう見間違えたら『スタイルいい』になるのでしょうか。あ、社交辞令か。うん、そうだ。


まずは採寸。

こっ恥ずかしくもマダム、ダリアミモザ、他数名の侍女の前で下着姿になり、腕を上にあげたり後ろを向いたりなんやかんや、上から下まできっちりしっかり計測がなされました。何の羞恥プレイかと思いました。


それが終わると今度はデザイン。

私はよくわかりませんから、こういうことが大得意のミモザの出番です。

「奥様の清楚さを前面にアピールできるようなデザインで……」

「背も高くていらっしゃるから、すっきりしたデザインの方がお似合いですわね……」

私の目の前でデザインに関する相談がなされ、それを元にマダムがサラサラとデザイン画を描いていきます。即興で書いたものとは思えない絵の上手さに見惚れてしまいました。デザインよりもマダムのスキルに釘付けになってしまいました。


しばらくしてデザインが決まると、お次は生地です。

最高級のシルクは手触り最高、しっとりツヤツヤしかも軽くて申し分ありませんでした。

これを惜しげもなく使うんですよね。そりゃお高いです。あまりの肌触りよさに、うっとりしてしまうほどです。

色は無難に水色です。

なぜそうなったかというと。


~ いきなり回想・昨日の会話 ~


『私の服だが……』

私のドレスとお飾りの手配をダリアミモザにして旦那様は、ご自分の衣装について何か指示を出すつもりだったのでしょうが、

『それでしたら、先日新調なされたまま一度も袖を通しておられないものがございますよ。ご公務と重なり欠席なさった夜会に着ていくおつもりだった』

そう言って取り澄ますダリア。

『あ、ああ。そうだったな』

すっかりそんな衣装の存在をど忘れしていたのか、目を丸くする旦那様。

『では、旦那様はそちらで』

『……わかった』

かくして旦那様の衣装はあっという間に決定しました。

後でダリアに聞いた話では、急な出張が入って夜会をキャンセルしたことがあったらしいのです。そう言えば結婚したての頃にそんな出張ありましたよね。すっかり忘却の彼方でしたが。

以上、回想おしまい。


つか、旦那様がありものならば私もありものでいいんですけどね~。そう言うとダリアミモザが『作りましょうね』とものっそい笑顔で迫ってくるので、諦めました。

そして、その旦那様の衣装が水色だったので、それに合わせたドレスの色になったのです。別にペアルックじゃなくてもいいと思うんですけどね~。イタイカップルに見えませんか? 仲睦まじげに見えますよって? あ、そうですか。


打ち合わせが終わるとマダムは『さ、腕を揮わなくっちゃ!』とか言って急いで帰って行きました。

そしてお次は宝石商です。これまた王都の超有名宝石商オーナーがやってきました。公爵家。やっぱり実力が違います。今日はホント、何度も思い知らされます。


ドレスはまだ出来上がっていないので先程のイメージと色を伝えると、『なるほど、なるほど』とか言いながら手持ちの行李をガサゴソしたかと思うと、

「こちらなどはいかがでしょうか」

そう言って重厚な真紅のベルベットの箱を取り出すオーナー。

カパッと開いた瞬間、あまりの眩さに『目が、目がぁ~!!』と目を覆い壁際によろける私……はおりませんが、煌びやかさにめまいがしたのは事実です。

それはさておき、中からお目見えしたのはサファイアとダイヤのコラボレーションも素晴らしい逸品。これでもかーとばかりにふんだんに石が使われています。

「お試しくださいませ」

ってにっこり笑って手渡してくるけど、こちとら手が震えてますから! やっぱりこれは私が受け取るべきなの? と躊躇して動けないでいると、

「お顔映りを見てみましょうね」

と言って私の代わりにミモザがそれを受け取り、私のデコルテにあてがいました。ミモザさん、ナイスフォローをありがとう!

鏡でそれを見れば、確かに美しい。しかしお飾りが美しすぎて自分の顔がのっぺらぼうに見えてくる悲しい現実……。へこむわ~。

私は一人で地味にやさぐれてるんですが、そんなことはお構いなし。

「まあ、よくお似合いですわ!」

ミモザは目を細め、

「奥様の瞳の色とよく合っていますね。とてもよろしゅうございます」

ダリアも微笑み、

「他にも一応ご用意はしておりますが、これが一番だと思います」

オーナーまでもご推奨。

……明らかに高価そう。さっきのドレスもそうだけど。うん、ここはあえてお値段とか聞くまい。聞いたら絶対失神レベルだと思うのよ。


「……じゃあ、これで……」


ええい、ままよ。

私は決断を下しました。




ドレスとお飾りの打ち合わせですっかり時間がとられてしまい、気が付けばもう夕方です。

行儀が悪いとは判りつつも、私室のソファに伸びる私。ダリアミモザしか見てませんからね!

「あ~。今日も何もできなかったわ」

お掃除とか~、お飾りとか~、庭いじりとか~。

今日はお仕着せを着ることすらありませんでした。

「まあ、たまにはこんな日もございますわ」

クスクス笑いながらミモザが私の前に熱い湯気を立ち上らせたカップを置きました。

「夜会に行くのがこんなに大変だなんて知らなかったわ~」

今までの夜会はいったいなんだったのでしょう? せいぜい飾りを工夫して同じドレスを着まわしていましたが。こんなに気合が入ってなかったからでしょうか?


「しばらくはお邸のことよりもダンスやマナーのレッスンにお時間をとりましょうね」


えええ~?! 今なんつった~?!

ミモザの後ろから聞こえた声にハッと視線をやれば、ダリアさん、とってもいい笑顔で言ってますね。これは断れないパターンてやつですね。学習してますよ、私。

「ぐっ……」

ダリアの言葉と笑顔に喉を詰まらせていると、


「疲労回復と磨き上げはお任せくださいませ!!」


こっちもとってもいい笑顔で拳を握っているミモザ。


なんでだろ~な~。社交やかいはオプションなのにな~。なんでこんなにみんな張り切ってんでしょうか?


今日もありがとうございました(*^-^*)


ヴィオラの良さをたくさんの人に知ってもらうためには努力をいとわない使用人さんたちです♪

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