賑やかになりますね
急に襲ってきた痛みの波状攻撃で朦朧とする中、旦那様に抱き上げられ、別棟に運び込まれました。
「大丈夫! いつもみなさんが隅々までお掃除してくれてるから、いつでも使える状態になってるんです!!」
「私も時々ここで本を読んだりくつろいだりしてるんですー!」
朧げながらそんなことを叫んだ気もするけど……我ながら……何を口走ってたんだ。いや、旦那様が『別等の準備はできてるか』みたいなことを言ってたから、私なりに気になってたんでしょう。
ベッドに横たえられてからは、いつの間にか登場したおばあちゃん医師様に手を握られ励まされ、ひたすら頑張りました。旦那様? あれ? そういやいつの間にかいなくなってたなぁ?
どれくらい頑張ったかよくわからないけど、なんとか出てきてくれました。
「ふぅ…………?」
なのに、なんかまだお腹に違和感が残ってる感じがする。あれれぇ? おっかしいなぁ? バイオレットの時ってどうだったかな〜なんてぼんやりと考えてたんだけど、そしたらおばあちゃん医師様が、「まだもうお一人いますね」って。
は? もう一人? てことは、二人もいたの??
びっくりです。言われてみれば、お腹を蹴る場所が二カ所あったかも。手と足で蹴られてるんだと思ってたんだけど、あれは二人分だったのか。
「はいはい、もう一人頑張ってください」
「はーい」
言われるがまままた頑張って、二人目が出てきたところで安心して意識を手放しました。
——というのが、別棟に運ばれてからの私の記憶でして。
目を覚ますと、いきなり旦那様のキラキラ顔面どアップがありました。
「うお、びっくりした」
「目が覚めてよかった……! もう目覚めないかと思ったよ」
そんな旦那様は泣きそうな顔をしていました。
「ふふふ……大袈裟ですね。ちょっと疲れて寝てただけですから」
「確かに大仕事だったよね。うんうん、ありがとう。かわいい男の子たちだ」
「男の子? 二人とも、ですか?」
「そう。双子の男の子だよ」
私の目が覚めたのに気付いた侍女さんたちが、おくるみに包まれた赤ちゃんを連れてきてくれました。生まれたてだと男女がわからないよねぇ——というのは置いといて。
そっかぁ、男の子かぁ。…………男の子ですって!?
「わぁ! 一度に後継ぎ問題解決じゃないですか!」
ついうっかり本音が出てしまいました。プッと吹き出す旦那様。
「第一声がそれ!?」
「あっ……失礼しました〜」
「気にしなくていいってあれほど言ってたのに」
「やっぱり気になりますよ〜。でも、安心しました」
「僕は本当にどっちでも良かったんだけど、ヴィーが安心するのならこれで良かったのかもね。とにかく嬉しいよ」
「でも……」
「でも?」
「男子が二人だと、今度は違う後継問題が……」
「いやそれ、今考えることじゃないから! 気が早すぎだよ!」
「あ、そうですね。今は元気に育ってもらうことが一番ですね!」
「そうそう」
私が起きたのに本能的に気付いたのか、赤ちゃんたちが一斉に泣き始めました。
「わぁっ! 両方抱っこできません!」
「わわっ! 一度に泣き出されたら大変だ!」
これまでと勝手が全然ちが〜う! 慌てて旦那様と私で手分けして(って言うのかしら?)一人ずつ抱っこしてあやしました。
思っている以上に軽い赤ちゃん。そっか、もはやバイオレットの重みに慣れちゃってるからか。う〜ん、この軽さがたまりません。
「軽いですね!」
「まるで雲のようだよ。大事に育てなくちゃ」
「はいっ!」
新米両親に戻った気持ちで赤ちゃんをあやします。
二度目の子育て。まさかの双子体制でスタートしました。
赤ちゃんのお世話はもはやベテラン(自称)だからなんとかなると思ってたんだけど、さすがに双子は想定外。いろいろと不備が出てきました。
まず手始めはベッド。一人だと思っていたから一台足りません。
「ベリス。申し訳ないが急いでもう一台ベッドを作ってくれ」
「わかりました」
旦那様の命を受けたベリスが速攻着手してくれたので、これはすぐに解決しました。
次は産着。
「準備してた分じゃ足らないよね? 二人分だもの」
生まれるまでにせっせと縫って用意してたんだけど、さすがに二人分だと足りるかどうか心配です。
「十分に用意はしておりましたが、あるに越したことはございませんね。早速追加いたしましょう」
「ごめんなさいね、お願いします」
私に代わって侍女さんたちが、大至急で縫製にかかってくれました。いや、私も縫うよって申し出たんだけど、『奥様は産後間もないのでじっとしておいてください!』ってみんなに押し戻されちゃったので大人しく見守ってます。
授乳にしても二倍です。
「需要に対して供給が絶対的に足りない!!」
私がきょぬーだったら——
「あら、大きい小さいは関係ございませんよ。二人分でございますからね、仕方のないことです」
「ソウデスカ」
赤ちゃんたちの様子を見にきてくださったおばあちゃん医師様が笑っています。どうやら考えてることダダ漏れだったようです。そんな冗談はさておき、足りないということと同時泣き(同時ごはん要求?)は実際問題としてありますので、吸い口を活用しています。『母乳がなければ乳母を雇えばいいじゃない』と言われそうですが、ここは公爵家、母乳が出たら誰でもいいとはならないのです。それなりに審査の時間がかかるんですよ——と、ロータスたちが言ってました(超受け売り)。
まだ使いませんが、乳母車もバイオレットの時に使ったものを手入れしただけだから、二人は乗せられません。
「いや……小さいうちはなんとか二人乗せられそうだけど……」
「それでは窮屈ですわ! ちゃんと双子ちゃん用の乳母車を作りましょう」
こうして……ここにもう一人乗せて……と脳内で配置を考えてたんだけど、ミモザに全力で止められました。
「せっかく立派なのがあるのにもったいない」
「おかーしゃま! だいじょうぶ、これはレティがつかいましゅから」
「あら、そう? って、レティには大きすぎるでしょ」
自分のおままごとに使うと言い出すバイオレット。そもそも大人が押すことを想定されて作られた乳母車は、バイオレットが押すには大きすぎます。
「じゃあ、レティがのりましゅ!」
「それにはちっさくなっちゃったわ〜」
うちの天使は変わらず可愛いこと言いますね! いっそバイオレットが乗れるくらいに大きく作り変えてもらおうかしら?
「ふふふ、まあ、あれはレティにあげるとしましょうか。じゃあ、二人が乗れる乳母車も新調しなくちゃね」
「はい。ベリスに申しておきますね」
「ベッドも大至急で作ってもらってるのに、その上乳母車まで追加って……なんか仕事増やしてごめんなさいね」
「大丈夫、それもベリスの仕事ですわ!」
ミモザがウィンクしてるけど、仕事するのはベリスであってですね……。ま、いっか。
「おばあちゃん医師様みたいなベテランでも、双子は見抜けなかったのね」
「申し訳ございません。多胎はなかなか判りにくいものなのでございます」
生まれてから毎日、おばあちゃん医師様の診察続いています。フルールで双子は別にそう珍しというわけではないけど、一人で生まれてくる赤ちゃんよりはデリケートなので、経過観察が大事なんだそうです。私の周りに双子がいないから知らなかったけど。
「お腹の中を覗けるわけじゃないですもんね。かく言う私も産むまでわからなかったし。お腹の蹴られる場所が二ヶ所あったなぁって、今になって思い当たるくらいだわ」
なんなら、手と足両方振り回して元気なお子様ですね〜くらいにしか考えてなかったのに。それがまさか二人分だったとは、思いもよりませんでした。
「とにかくお二人とも無事にお生まれでよろしゅうございました。今日も元気でございますよ」
「ありがとうございます」
「しかし、見事にご両親に似られましたね」
「確かに」
おばあちゃん医師様の言ってるのは、それぞれが〝父似〟〝母似〟ってこと。〝兄〟の方が旦那様似の濃茶の髪に濃茶の瞳、〝弟〟の方は私に似てストロベリーブロンドにサファイアの瞳なんです。いや、ぶっちゃけ、見分けがつきやすくて良かったって思ってます。顔もそれぞれに似てる感じかな。弟ベビよ……なんかごめん。
診察を終え真新しい産着に着替えさせてもらった赤ちゃんたちは、気持ちよさそうにあくびをしています。そんなところもシンクロしてるんですね!
双子のお世話や追加準備に追われている中、旦那様が名前を考えてくださいました。
「兄の方がアルピニア、弟の方がツェルンベット、というのはどうかな?」
「いいと思います! じゃあ愛称は『アル』と『ツェルン』かな?」
「うん、いいね」
二人分だから色々考えたけど、なんか〝シュピーン!〟と閃いたそうです。しっくりきたというか? 私もいいなと思ったので、これで決定です。




