作戦会議
カルタムも乗り気になったことだし、本格的に試食会の件を進めましょうか。てゆーか、ルクール産の魚介の良さのアピールも重要だけど、私の『重病説(なんなら絶命寸前説)』もさっさと払拭しないといけませんからね!
旦那様に、今日の厨房でのやりとりを話しました。
「試食会の話、カルタムも面白いって言ってました。カルタムとティンクトリウスが本気出したら、すごい料理ができそうじゃないですか?」
「本当だ。じゃあ、早急に準備を始めないといけないね」
「はい! すぐにでも!」
「珍しくヴィーがやる気だ」
「もちろんですよ。魚だけでなく、私も元気でピチピチしていることをアピールしなくちゃいけないんですから」
「魚と一緒にしない! ——こほん。ということでロータス、準備を始めてくれ」
「かしこまりました」
「時期は——早い方がいいな。ヴィーの体調のこともあるし。招待客は僕とロータスで相談するとして、メニューはカルタムとティンクトリウスと——」
旦那様は少し考えてから、私の方を見ました。
「ヴィーに任せてもいいかな?」
私に、そんな、重大な役割を!?
驚いて固まっているのを、旦那様は〝私が困ってる〟と受け取ったようです。
「ごめんごめん、そんな重大にとらえなくてもよかったんだよ。いつも通りロータスとカルタムに任せ——」
「待ってください! めっちゃ面白そうじゃないですか!」
もちろん被せ気味に否定させていただきました。
「え? まさかの乗り気?」
「もちろんじゃないですか! 考えただけでもワクワクします」
「ならよかった。じゃあ、任せるよ」
「はいっ!」
ということで、試食会の準備、始動です。
私の体調も考慮しつつ、しかしなる早でということで、試食会はひと月後に開催ということになりました。その他色々な決断ごとを旦那様たちにお任せしてる間、メニューの考案を任された私は、毎日堂々と厨房に入り浸っています。
「そもそもどんな形式にするかで、メニューが変わってきますね」
「立食か、着席かってこと?」
「そう」
「あ、そっか」
カルタム隊長とティンクトリウスと私、そしてロータスを加えた第一回メニュー会議は、いきなり躓きました。着席なのか、立食なのか。ご招待する人数にもよりますもんね。だからと言ってこのまま『はい解散!』というわけにはいきません。開催日までは限りがあるんですから。
「でも、着席形式だとなんか面白くないなあって思うんだけど」
「というと?」
「あらかじめ作られた料理が運ばれてくるだけじゃない? 美味しさは十分にわかるんだけど、いつも通りというか、変わり映えしないなぁって」
「なるほど」
「ルクールでティンクトリウスがやってくれたライブキッチンは斬新で、お客様たちがすごく喜んでくださったのが印象に残ってるのね。こっちでも絶対みんな驚くと思うんだけど……。デザートじゃなくて調理ってできる?」
「ライブキッチンですか……できないことはない、かな」
カルタムが考えながら答えました。
「設備はベリスに相談すれば、なんとかなるんじゃないでしょうか?」
ロータスがカルタムに提案しました。
「ベリス?」
「ええ。彼はこういうことも得意ですから」
そういえば私が怪我した時の車椅子的なものも作ってくれましたね。うんうん、ベリスならできそうです。
「じゃあじゃあ、ルクールで食べた〝サッと湯通しするやつ〟やりたいです!」
「サッと湯通しするやつ? なんですかそれは」
「薄く切った身を、熱い出汁にさっとくぐらせて食べるんだよ」
カルタムもロータスも見てなかったから知らないんので、ティンクトリウスが説明しました。身振り手振り付きで。二人も感心していました。
「ティン、よく思いつきましたね」
「それは面白いねぇ。よし、それは取り入れよう」
「せっかくだから目の前で鉄板焼きとかはどう?」
「なんなら豪快にフランベさせて」
「わぁ! 迫力すごそ」
「それもいいですねえ!」
アイデアがバンバン出始め会議が波に乗ってきたところに、ちょうどタイミングよく、ルクールからの魚が到着したという連絡が入りました。
「どこどこ? どこに着いたの? 今日はどんな魚が入ったの?」
「まあまあ奥様、少し落ち着きましょうか。魚を乗せた馬車は、厨房の裏にきてますよ」
「それはぜひ見たいです!」
旦那様から、魚の運搬用に馬車を特別仕様にしたということは聞いていましたが、実は現物を見たことないんですよね。せっかくだし見学させてもらいましょう。
会議を中断して厨房の裏に出ると、そこには見たことのない馬車から荷物が運び出されているところでした。
「これが〝例の馬車〟ですか」
「そうでございます」
改良された馬車は、私の知ってる荷馬車とは全然違いました。形は、私たちがいつも乗ってる馬車に近いかも。違う点は、窓がないところ。完全に密閉?される感じです。一般的な荷馬車のように、荷台に幌だけ被せたものではありません。
「完全に『運搬用!』って感じね」
「運搬用ですから」
「ソウデシタ。しかし窓もないのはなぜ?」
「そもそも人を乗せる想定はしておりません。室内の温度が第一ですから」
「なるほど」
そのままロータスが馬車の特殊性を説明してくれたけど……難しくて頭の中を華麗にスルーしていきました。ごめんなさい。でも、保温と振動軽減に特化したんだよ、ということは理解しました。ついでに魚を入れている箱にも工夫されていて、その説明もしてもらったけど、すっぽり抜け落ちました。大丈夫、新鮮なまま届くことはわかってますよ! 微妙に理解していないことはロータスにはお見通しだったようで、
「お客様に聞かれた際の返答に困ってはいけませんので、後でじっくりお勉強いたしましょう」
「ハイ」
ロータスのおっしゃる通りです。私も宣伝員だもん、頑張ります。
と、お勉強の話云々をしている間にも、次々に魚が搬出されてきます。カルタムが、一つ一つを丁寧にチェックしていました。
「今日はなかなか珍しいのが入ってますねえ」
カルタムが見ていたのは、名前知らないけど立派な大きさの魚でした。銀色の体が光に映えてキラキラしています。
「なんてご立派なんでしょ!」
いったい何人分のマリネができるんでしょう? もしくは何種類の料理?
「これは沖の方で獲れる魚ですから、いっぱい泳ぎ回っていっぱい餌を食べて大きく成長したんですよ」
「へぇ!」
「だからとても美味しい。今日のご飯も期待していてください」
「想像しただけでもうお腹が減っちゃうわ。でもこのご立派な魚、調理された状態で出されるのは惜しいですよね。この迫力が伝わる料理はないのかしら」
だって、捌いてしまえばどの魚もほぼ同じ大きさになっちゃうじゃないですか。毎回同じ魚が届くとは限らないのが難点だけど。
「じゃあ、もういっそ、魚をまるごと解体ショーっていうのはどうでしょう?」
私の呟きを聞いたティンクトリウスが言いました。
「ティン? 丸ごと解体ショーとは?」
「お客様の目の前で魚を捌いて、調理していくんだよ」
「ふむ」
「そしたら魚の迫力もわかるし、新鮮さも伝わると思うんです」
「なるほど、それはいいアイデアだ」
「豪快ですごい!! そんなの絶対みんな見たことないですよ」
「ですね」
「素晴らしい!」
「ならば、先に内臓は処理しておかないといけませんねぇ」
「ぜひともそうしてください」
「捌いた切り身を生で食べていただいたり——」
「贅沢に鉄板的にしてもどう?」
「アリですね」
どんどんアイデアがでて、会議が白熱していきます。なにこれ楽しい!
今日もありがとうございました(*^ー^*)




