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解決策、ひらめく

 最後は磯の香りにやられて退散しちゃいましたが、王都にもピエドラにも(もちろん実家の領地にも!)ない新鮮なお魚の市場は、めちゃくちゃ楽しかったです。

「臭いが……なければ……」

「きっと今だけだからさ。それに、体調が戻れば……いや、子供が生まれてから、そしたらいつでも来れるから、ね?」

「はい……」

 今は我慢しようと旦那様に慰められつつ帰途につきました。


 


 別荘に着くとすぐに、なぜかティンクトリウスを呼び出した旦那様。

「ここの魚と王都の魚の違いは?」

「違い、ですか?」

「ああ」

 なるほど、それが聞きたかったんですか。ティンクトリウスなら料理人だし、王都の状況も知ってるし、違いがわかりやすいと思ったんですね。ちなみに私は『こっちの方が新鮮だから? いつも以上にぷりっぷりしてる』くらいです。

「う〜ん……」

 ティンクトリウスは少し考えてから口を開きました。

「種類でしょうか。王都でははるばる運んでも傷まないもの、もしくは川で獲れるものが主流です。こちらでは運ぶ時間が必要ないので、王都で手に入らないものでも簡単に安く手に入れることができます」

〝新鮮〟なんで当たり前すぎることはさすがに言わないよね〜。ほほう、種類ときましたか。ちょっと感心しちゃった。

「ふむ……。やはり問題は『運搬時間』か」

 そう言って考え込む旦那様。普段なら近くにロータスがいるので、すぐに今の状況や解決策が提案されるところですが……私にその役目は絶対無理! 力不足も甚だしすぎる。

「今の方法だと、最短でもまるっと一日かかりますからね」

「それしか方法がないからな」

 二人にはわかってるようでさらっと流れていきますが、〝その〟方法ってなんですか? いや、私が首を突っ込む余地ないし、突っ込まない方がいいのはわかってるけど、ついつい好奇心が疼くというか……シンプルにめっちゃ知りたい。

「あのう……今はどんな感じで運んでるんですか?」

「ああ。ルクールで獲れた魚は一旦ピエドラに運ばれて、そこから王都に運んでるんだ」

「なぜここでピエドラが?」

 そりゃ同じ公爵領だけど。今は関係なくないですか? そんな疑問が顔に出ていたようで、旦那様にクスッと笑われました。

「ごめんごめん、簡単に言いすぎたよ。ルクールから生きたまま運べる限界がピエドラなんだよ」

「ここから半日の距離だから、ですか?」

「そう。そしてピエドラから王都は半日」

「はい」

 オーケーオーケー、それは知ってる。

「ピエドラには氷室があってね、氷があるんだ。ピエドラに運ばれた魚はそこで〆て氷漬けにし、王都に運ばれるんだ」

「なるほど!」

 ようやく理解しました。ピエドラは内陸で、高い山とかもあるから氷があるけど、ルクールは温暖なところだからそれがないそうです。あぁ……まだ私、領地のこと全然わかってないなぁ。よかったぁ、今ここにロータスがいなくて。こんなの聞きつけた日には、山盛り領地の資料を持って来られそうだもんね。しかもめっちゃいい笑顔で。旦那様、懇切丁寧な説明をありがとうございます! 

「帰ったらロータスに言って、わかりやすい領地の資料を用意させよう」

「アリガトウゴザイマス」

 …………。お勉強不可避のようです。




 それからというもの、旦那様のこちらへの訪問が『レティと私に会いに来る』の次に『いかに効率よく魚を運べるか』が重要課題となりました。来るたびに実験結果を報告されてます。

 〆てがダメなら、生きたまま……ということで、氷を入れて通常以上に冷やした海水でピエドラから運搬しても、弱い魚はたなかったようです。酸欠? とかなんかそんな感じらしいです。

「元々運べていた魚は通常以上に鮮度が上がったよ」

「よかったじゃないですか」

「う〜ん……それだけでは今までと何ら変わりがないから意味がない」

「そうでした」

 王都に送れる『種類』を増やすための試みですもんね。けど、一つはいい結果が出て良かったんじゃないですか? しかし、そもそも論じゃないけど、ピエドラに送るというひと手間を省いた方が、もっと効率的じゃないかなぁという考えは捨てられないんだよなぁ。王都とルクールは一日の距離。ピエドラを経由しても一日かかってるんじゃ、同じじゃないですか。

「逆に、ピエドラからルクールに氷を運んできて、ルクールから直接王都に運ぶっていうのはどうなんでしょう?」

「こっちに氷を?」

「はい。どっちにしても一日かかるなら、少しでも早く送れた方がいいかなって」

「確かに、そうすれば無駄も省けるしな。やってみる価値はあるかも」

「そうそう! やってみなくちゃわかりませんよ!」

「そうだね」

 失敗した時のお魚さんは大変申し訳ないけど……。そうだ、肥料にして活用してもらいましょう! これで罪悪感ゼロ。もったいないオバケにも祟られないよ!




 旦那様は私の提案を取り入れてくれて、また試行錯誤が続きました。

 生きたまま運ぶ案、〆て運ぶ案などなど、色々試しました。しかしどうにも難しいようで、なかなか完全勝利とはならず。そりゃそうか。そんな簡単にできたら、もっと早くに実現してるってね。

「あ〜もう! どうしたら上手くいくんだ!?」

 さすがの旦那様もギブアップのようです。王都に帰ればロータスと打ち合わせしてさまざまな手を考えているようなのですが、今のところどれも上手くいかず、煮詰まってしまったようです

「結局のところ、時間の壁が大きいんだよなぁ」

「う〜ん……」

 何かいい案が浮かべばいいんだけど…ごめんね旦那様。役立たずだわ。


「——よし」

 しばらくすると、旦那様が吹っ切れたような顔になりました。

「いい案が浮かびました?」

「いいや」

 違うんか〜い! 思わずずっこけそうになりましたよ。

「一人で考えても煮詰まるだけだから、また帰ってロータスと相談する。貴重なここでの時間を無駄にしたくない」

「確かに」

「ということで、この件はおしまい! 僕はレティと遊ぶことにする」

「いいと思います!」

 大賛成! ここには数日しかいれないんですから、バイオレットをう〜んと堪能しないともったいないです。

「発注していた模造剣ができたんだ。レティと剣の稽古をしようと思ってね」

「はい?」

 嘘でしょ。剣のお稽古って、遊びの一環なの!? 

「見て見て! すごく可愛くできたんだ。見てよ」

「はあ」

 まあ、いいのかな……いいのか??

 どう反応すべきか困っていると、旦那様は持ってきた荷物から箱を取り出し、中から布に包まれたものを出しました。

 バイオレットの小さな手でも握りやすそうな、華奢な剣です。

 柄の部分には細かな色石を使って、小花や葉が描かれています。もちろん剣の部分は木製で、しかも綺麗に角が削られてるので怪我の心配もなし。

「こんな可愛くできるんですねぇ」

「いいでしょ。後々刃の部分はちゃんとしたものに替えられて、護身刀にできるようにしてあるし」

「すごいですね!」

 一生物の贈り物じゃないですか! ……ということは?

「石も、小さいけど質のいいものを厳選したよ!」

 やっぱり! ただの色石じゃなかったようです。




「レティ〜! お土産だよ」

「おみやげ?」

「そう」

 席を外していたバイオレットを呼び寄せた旦那様は、膝に抱き上げ、布の中身を見せました。

「わぁ! かわいい!」

「だろう? これでお父様と一緒に剣のお稽古しようね」

「はい!」


 そう言って庭に出たものの。


「待て待て〜!」

「きゃ〜!!」

 結局のところ剣はすぐに放り出し、いつものように追っかけっこになってしまいました。

「レティは走るの、早くなったね」

「はい! まいにち〝おいちゃん〟とあそんでましゅから」

「〝おいちゃん〟?」

 旦那様が『誰のこと?』と私の方を見てきました。

「あ〜、ティンクトリウスのことです」

「なぜに〝おいちゃん〟?」

「ティンクトリウスは〝おにいちゃん〟と呼んでほしかったみたいなんですが、レティもデイジーも上手く言えなくて……」

「——それで、〝おいちゃん〟と」

「はい」

「なんか……ドンマイ」

 まだ若い(旦那様よりもずっとね!)ティンクトリウスが『おいちゃん』と呼ばれてることを不憫に思った旦那様が一瞬チーンと沈みかけたんですが。

「それでね、それでね」

 バイオレットのお喋りがそんな空気をぶった切りました。

「お馬さんごっこもやるんでしゅよ」

「馬!?」

「えへへ! おいちゃんがお馬さんしてくれるの」

「そ、そうか」

 旦那様の様子から察するに、バイオレットが馬役をしていると勘違いしたんでしょうね。あからさまにホッとしてます。

「おいちゃんのお馬さん、はやいんでしゅよ」

「うん、うん」

「おとうしゃまがのってくる馬くらい!」

「そうかい。お父様が……乗ってくる……馬……」

 急に旦那様が考え込みました。

「サーシス様? どうかしました?」

「…………早馬……」

「サーシス様?」

 難しい顔になって……。さっきの会話のどこに考え込む要素があったんでしょう?

 バイオレットと二人、急な展開にキョトンとしていたら。


「早馬を使えばいいんだよ!!」


 閃いたようです。いきなり大声出さないでくださいよびっくりするじゃないですか。てゆーか、何に早馬使うんですか。

「急になんですか〜」

 バイオレットなんて驚きすぎてぴょこんって飛び上がってましたよ。

「魚の運搬方法さ! 僕がいつも使ってる早馬を活用すればいいんだよ」

「ああ、そのことでしたか」

「あれを活用すれば時間短縮ができるぞ。ああでも、荷馬車から改造しなくちゃならんな。それに御者も——」

 次々にアイデアが湧いてくるようです。旦那様の頭の中で展開されているので、私たちには全然わからないけどね。でも、解決の糸口が掴めたんならいいと思います。


「お父様の悩みを晴らしてくれたレティは天才だな!」

「うふふふ!」

「天才で天使だ!」

 旦那様に褒められて、可愛らしく胸を張るバイオレット。

 あ、天使は間違いないと思います。

今日もありがとうございました(*^ー^*)

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― 新着の感想 ―
誤字報告を受け入れてないとこが気になります。
[一言] だいぶ前から楽しく読ませてもらっています♪ 今回もとてもほのぼのとしていて、サーシス様もヴィオラもいつも通りって感じで心温まりました!! あの、誤字報告は受け付けてないと知りながらなのです…
[良い点] いつも、楽しく読んでます( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆ [気になる点] 「こちらでは運ぶ時間が必要ないので、嘔吐で」 となってますが「王都」の変換ミスかなと思いました
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