場所が悪かった
王妃様のお茶会に出席するつもりが一転、ぶっ倒れて帰宅。か〜ら〜の、懐妊発覚! いやもうこの急転直下ぶりには自分でもびっくりです。ここのところの体調不良もこのせいだったのかと思うと、原因がはっきりして少し安心したかな。今さらながらに使用人さんたちの過保護シフトがありがたく思えます。無理に動かなくてよかった〜。
懐妊の知らせは、王宮から帰ってきた義父母様たちにもすぐさま伝えられました。
「私たちがいる間にこんな嬉しい報告が聞けるなんて」
「日頃の行いが良いお陰ね、きっと!」
「レティの時と同じくらい嬉しいよ」
「ほんとほんと! あっ! でも、はしゃぎすぎはダメね。ヴィーちゃん、今はしんどい時期なんだから」
「おっと、そうか」
喜びすぎてお祭り騒ぎに発展しそうな勢いでしたが、お義母様の冷静な一言で回避されました。気の配り方がさすがです。
「ヴィーちゃん、起きていて大丈夫? 辛くない?」
「今は大丈夫です」
報告のために起きてきていた私を気遣ってくれるお義母様。
「辛くなったらいつでも横になっていいのよ」
「ありがとうございます」
いや、さすがに義両親の目の前で寝れないけどね! お気持ちはありがたく受け取っておきます。
「あれから王宮でもみんな心配して大騒ぎだったからなぁ。陛下といい、宰相といい」
「倒れた場所が悪かったですね。お茶会の席ならともかく、出迎えもたくさんいた中でしたから」
旦那様の言う通り、侍従の方や侍女さんたちもたくさんいる中でぶっ倒れ、運ばれていったんですもんね。もちろん、運ばれている途中にも、どなたかと遭遇している可能性がなきにしもあらず。
「侍医から〝特に何もない〟と診断されちゃったから余計にねぇ。ただの疲れじゃないかしらって誤魔化してはきたけど……」
「ヴィオラはどこでも人気者だから、大事になりかねないな」
「私も、それが心配なのよね。懐妊と診断されたけれども、まだ不安定な時期だし」
「確かに」
お義母様が心配するように、しっかりはっきりお腹が大きくなるくらいまでは不安定な時期が続きますからね。
「懐妊だと公表するまで、どう凌ぐか考えておかないといけませんね」
「ああ、そうだな。体調不良……は、不安を煽るだけか」
「そうね。う〜ん……もっと軽くて、でも原因がはっきりしてる感じがいいわ」
「無難に『風邪』かな」
「ええ、いいと思いますわ」
「では、しばらくは『風邪で体調を崩した』ということで押し通しましょう」
旦那様と義父母様たちの会議により、懐妊を公表するまでの間、私の倒れた原因は『風邪による体調不良』ということになりました。
懐妊と判るとやってくるのが悪阻というもの。バイオレットの時もそうでしたが、今回も体調が悪くて仕方がありません。目眩に吐き気……ああもう、どうしろと!!
「わかっちゃいるけど、ツライものはツライ」
「今はゆっくりなさいませ」
「ありがとう〜」
侍女さんたちに促され、大人しくベッドに横になりました。
バイオレットの相手はミモザとデイジーが引き受けてくれるし、もちろん掃除洗濯なんてもっての外。そもそもやらなくていいことだけど——というのは置いといて、ただただ休むだけでいいなんて……またまた罪悪感。でも実際動けないものは仕方ないか。ゆっくりしようと開き直っていたんですが。
「奥様、王妃様からお見舞いが届いております」
そう言ってダリアと侍女さんが運んできてくれたのは、立派な花束と果物が山盛りにされた籠。
「王妃様から?」
「はい」
「お義母様、今日も王妃様に呼ばれて王宮に行ってるんじゃなかった?」
「ええ、そうでございます」
「じゃあなんで??」
今日もお呼び出しが来て、義父母様たちは朝から王宮にお出かけしています。きっと昨日のことを聞かれてると思うので、昨日の会議で決めた『ただの風邪』だって伝えてくれているはずだよね?
「それは奥様のご体調を心配されてのことでしょう」
「ありがたいことだけど……本当のことをお伝えしていないのが心苦しいわ」
ただの風邪なのに(いや違うけど)。なんかかたじけない。
しかし、お見舞いは王妃様だけでは終わりませんでした。
「姫君方、バーベナ様、アイリス様、サティ様、ピーアニー様、アマランス様……その他いろんなお貴族様——」
ドンドコドンドコ運ばれてくるお見舞いの数々! お花やお菓子、その他もろもろ。あ、久しぶりにシャケクマ発見。いつの間にか木彫りからぬいぐるみに進化してるじゃないですか! これはバイオレットが喜びそうだわ——じゃなくて。
たかが風邪だって伝わってるはずだよね!? なのに何この大量のお見舞いたちは!
「ここだけでお花屋さんできちゃうくらいの量だよね」
綺麗に生けられて飾られていく花束を見ているだけでため息が出ちゃいます。ロージア中の花がここに集まってんじゃね? ……まさかね。
結婚の時もそうでした。そしてバイオレット誕生の時といい、何かあるたびに贈られてくる物たちの数を見ると、ほんとフィサリス家って存在感というか影響力? そんなのが大きいんだなぁって思い知らされます。
「旦那様もおっしゃっていた通り、お倒れになった場所が悪うございました。王宮の使用人だけなら内密にすることもできたでしょうが、それ以外の方に目撃されていたようでございますから」
ロータスが苦笑いしています。
「そっかぁ」
なんであんなところでふらついたんだ私! しかも派手に旦那様に助けられたりなんかしたもんだから……せめて馬車を降りてから、すっ転んだくらいにしておけば。いやその後気分悪いのに変わりないから、遅かれ早かれ倒れてた? じゃあ、あまり変わらない未来だね!
「とにかく、お見舞いのお礼状を書かなくちゃ」
少しでも気分のいい時に済ませちゃいましょうとベッドから起き上がりはするものの、やっぱり眩暈がして倒れ込んでしまいました。
「世界が回るわ」
「無理はしないでくださいませ!」
側に控えていたステラリアが慌てて駆け寄ってきました。
「ステラリアの言う通りでございます。お礼状はこちらで用意させていただきますので、奥様はそのまま、静養を続けて——」
「でもでも……せめてお友達の分は手書きしないと」
それ以外は代筆でもいいけどね! という謎正義。きちんとお礼状を書かなくちゃという気持ちが焦るほど、比例するかのように気分が悪くなるんだけど。
お見舞いの品が運ばれてくると、焦りで気分が悪くなる。そんなのを続けていると落ち着けなくて、安定どころかますます体調が悪くなっていきました。これって、負のループ?
今日もありがとうございました(*^ー^*)




