町を満喫
今回の領地視察の最大の目的『ヴィオラの瞳』の原石は手に入りました。あとはサクッと王都に帰って、アイリス様にプレゼントしなくちゃ。
ピエドラにきて、今日で三日目。いや、三日しか経ってないのかと思うくらい、かなり内容の濃い滞在だったなぁ。
ステラリアとドロテアたちの手でテキパキと荷造りがされていくのを眺めていると、『あ〜、もう帰るのか』と、ちょっぴり寂しくなってきますね。予定としては、昼食をいただいてから王都に向けて出発という感じでしょうか。
「心残りといえば、もうちょっと町を散策したかったです」
「ん? ヴィーは散策がしたかったの?」
私の独り言を拾った旦那様が反応しました。
「昨日行きましたけど、ランチもできなかったし、お土産も買えなかったので」
「そういえばそうだね」
お花屋さんに寄ったけど、結局何も買わずに終わっちゃったし。前に行ったカフェで、お茶もしたかったなぁって思うんですよ。
「まあでも、ここにはいつでも来れるから、次回のお楽しみにとっておきます」
「う〜ん……少しくらいならいいんじゃない?」
「え? いいんですか?」
「特に急いでロージアに帰らないといけないことはないんだから。せっかく来たのに、ずっとバタバタしてたし、レティもほったらかしにしちゃったし」
「そうですね!」
ということで、早めのランチとお土産購入を目的に、旦那様とバイオレットと一緒に、ちょこっとピエドラの町に行くことになりました。
「あら。お嬢様ですか?」
ピエドラ土産はなにがいいかな〜とお店を冷やかしつつ歩いていると、いつの間にかお花屋さんの前に来ていて、いつもの娘さんがバイオレットを見て驚いていました。
「娘のバイオレットです」
「おかわいらしい〜! ちょっと待ってくださいね……はい、これどうぞ」
旦那様に抱っこされたバイオレットに、小さな花束を作って渡してくれました。
「ありがとうごじゃいましゅ」
「まあ〜! もう、このお店のお花全部差し上げたいくらいです!」
お花を見て瞳をキラキラさせるバイオレットにメロメロになった娘さん。お店全部はダメですよ! 全部とは言わないけど、ロージアのお屋敷にないお花を買って帰るのはアリですよね。二度目だけど、違う種類ならおやしきのみんなも喜んでくれると思います。
「せっかくだから、お土産にお花を買って帰りましょうよ」
「いいね」
「アンドレアナムはもうあるから——」
「それならノーチェブエナはいかがですか? こちらもアンドレアナムと同じくピエドラの特産で、珍しい品種ですよ」
私たちがお土産用に店先の花を品定めしていると、娘さんがオススメの花を教えてくれました。それは鉢いっぱいに大きな赤い花が咲いていて……ん? これは花? よく見ると、葉っぱと花の形状がすごく似てるんです。色違いだけのような。
「これ、葉っぱが赤く色付いて、花に見えるんですか?」
「あ〜、葉っぱといえば葉っぱなんですけど、とにかく花ではないですね。でもお花に見えるんです。変わってるでしょう?」
「ええ、とっても。色も鮮やかでかわいいし、何より王都では見かけない珍しい花というのがいいですね。サーシス様、これにしましょう」
「いいんじゃない?」
珍しさとかわいらしさに即決してしまいました。これでお土産は決まりですね!
「では、丘の上の別荘に送ってもらおうか。すまないが急ぎで——」
「任せてください! 大至急お届けいたします!」
トン、と胸を拳で叩いた娘さんは、私たちの指定した個数を確認すると、手際良く梱包を始めました。
「あとは任せるとして、僕たちは早めのランチに行こうか」
「はい! あのカフェですね?」
「うん」
「楽しみです」
あとは娘さんに任せて、私たちは以前にも行ったカフェを目指しました。
オープンテラスのオシャレなカフェは、以前と変わらず町の人たちで賑わっていました。
「あ〜そう、ここです。ここ、ここ!」
町の活気を感じられ、それでいて忙しくない雰囲気。とても居心地の良いカフェです。
「わぁ、いっぱいだね。席はあるかな?」
「こちらへどうぞ」
旦那様が店内を見渡しているとすぐに店員さんが来てくれ、席に案内してくれました。それだけでなく、
「こちらをお使いください」
と、バイオレット用のハイチェアまで持ってきてくれました。なんてホスピタリティ! 私の中の評価がさらに爆上がりですよ。
メニューは以前と変わらず、素朴なこの地方の郷土料理がメインです。今回はお野菜をたっぷり煮込んだスープと味わい深い全粒粉のパン、色とりどり鮮やかなサラダにしました。バイオレットに全粒粉のパンは固すぎるので、フワフワの白いパンを頼みました。旦那様は、今回は鶏料理を追加です。
「噛めば噛むほど味が出て、美味しいです〜」
「フワフワで、おいしいでしゅ」
パンを噛み締め味わっている私の横では、バイオレットが白パンを頬張って、私の真似っこしています。食いしん坊親子みたいですよね。
「目を細めて美味しそうに食べるの、そっくりだね」
「あらやだ」
旦那様がくすくす笑ってます。
「美味しいね」
「かりゅたむに、もってかえりましゅ」
バイオレットの口から急に出てきたうちの料理長の名前。なんでいきなり? 話が飛びすぎて、お母様はちょっとついていけないよ。
「カルタムに? どうして?」
「つくってもらうんでしゅ」
「なるほど」
白パンをポケットに入れようとしているバイオレットに笑いが込み上げます。そうかそうか、そういうことでしたか。大丈夫、カルタムなら『あそこのカフェの白いパン』と言うだけで、完全再現してくれますよ。
「持って帰らなくても大丈夫ですよ。だからちゃんと食べましょうね」
「だいじょうぶ?」
「カルタムなら、『こういうパン食べたよ』って言うだけで、ちゃ〜んと作ってれますよ〜」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「かりゅたむは、まほうちゅかいでしゅね」
「まほ……ん? まあ、料理の魔法使いであることは確かね」
魔法使いのカルタム……今頃王都でくしゃみをしてるんじゃないでしょうか。
ランチの後、少し町の中を散歩してから丘の上の別荘に戻りました。
私たちが別荘に着いた時には、すでに荷物は馬車に積みこまれ、すっかり帰る準備が整っていました。もちろんお土産の花もバッチリ積まれてましたよ。
「今度はじいじたちがそっちに行くよ」
「レティ、待っててね」
「はい!」
バイオレットとのしばしのお別れが寂しい義父母様たちですが、貴方たち、なんだかんだ言ってまたすぐに来るでしょうが。
私たちと、荷物と、そして『ヴィオラの瞳』の原石を乗せて、馬車は王都に向けて出発しました。
今日もありがとうございました(*^ー^*)




