問題解決
しばらく来ない間にピエドラの町はすっかり元どおり、いやそれ以上に住みやすい町に変わっていました。自警団が上手く機能したおかげですね。貧乏さんちの知恵的な助言でしたが、お役に立ててよかったです。
せっかく平和になったんだから、町の賑わいを見ながら以前も訪れたカフェでランチ……といきたいところでしたが、そうものんびりしていられないのが今の状況。
「そろそろ調査に出ていたロータスから報告が上がってくるんじゃないかな」
「ですね」
そうだそうだ、ロータスたちはこうしている間にも働いてくれてるんですよ。それに時間のない今回の視察、問題はさっさと解決してしまわねばなりません!
「カフェならまた来たらいいさ。こんなバタバタするより、ゆっくり楽しみたいでしょ?」
「はい!」
ということで、私たちは丘の上の別荘に戻ることにしました。
私たちが戻るのと前後して、ロータスたちも戻ってきました。
「どうだった?」
「昨夜から調べまして、先ほど全ての調査を終えました。どうやら現場長、一人の仕業のようでございます」
「一人か」
「はい。背後に黒幕がいるような気配はありませんでした」
「そうか。まあ、それについては捕まえてから詳しく聞ことにしよう。それで、ヴィオラの瞳の原石は見つかったか?」
「はい。現場長の家の戸棚の奥に隠してあったのを見つけております」
「失礼いたします」と、そう言ってロータスが胸のポケットから取り出したのは、小ぶりの古ぼけた麻袋。ぞんざいに縛ってあった紐を解いてロータスが中身をテーブルの上に出すと……ゴロゴロと出てきたのは大粒のサファイアの原石ではありませんか! その数五つほど。しかし、たった五つと言うなかれですよ。この後磨かれ首輪や指輪に仕立てられた時には、ものすんごい価値になるんですから。いやちょっと、貧乏性が抜けない私が触るには震えるくらいの。
原石を見てアババババ……となっている私はおいといて。
「全部ヴィオラの瞳の原石か。よくもまあ、こんなに集めてくれたな」
石を手に取り、調べるように見る旦那様。
「いかがいたしましょう」
「もちろん捕まえる。今は鉱山にいるんだな?」
「はい。鉱山の出入り口の密かに封鎖して逃げられないようにした上で、オレガノとうちの庭師が見張っております」
「ではすぐにでも行こう」
私たちだって帰ってきたばかりだというのに、また立ち上がる旦那様。もはや袋のねずみと化した現場長を捕まえるのなんて朝飯前……いや、昼飯前ですね!
「ヴィーたちは留守番していてくれ。すぐ戻る」
「了解です! 気をつけて! お昼ご飯を食べてないんですから、さくっと捕まえて帰ってきてくださいね」
「ははは! 了解」
そう言うと旦那様はロータスと一緒に出かけて行きました。
「おとうしゃま、ずっとおでかけ」
旦那様が出て行ったドアを見て、バイオレットは少し寂しそうにしています。確かにこちらにきてからというもの、旦那様と私はずっとバタバタしていて、ちっともバイオレットと遊んであげてなかったですもんね。それもこれ全部あの現場長のせい。予定外の事件を持ち込んだ現場長なんて、旦那様、さっさと捕まえちゃってください!
「そうね、寂しいねぇ。でも、おじいちゃまたちとたくさん遊べたから、よかったでしょう?」
「はい!」
楽しい記憶に切り替わったのか、バイオレットに笑顔が戻ってきました。ああもう本当、バイオレットに寂しい思いをさせた現場長許すまじ。
「レティにそう言ってもらえて、じいじはうれしいよ〜」
「ばあばも〜」
バイオレットを笑顔にできて、義父母様たちは感激していますが。
「よし! また後でおもちゃを買いに行こうか!」
お義父様が張り切りすぎて困ります。すでに本もおもちゃも部屋に山積みだっての!
「そ、それはまた今度でいいです! まだ全部遊びきれていませんし」
「そうかい? 残念だなぁ」
バイオレットに代わって、丁重にお断りさせていただきました。
昼食は旦那様抜きで済ませ、バイオレットと本を読んでいるところに旦那様が帰ってきました。有言実行、お早いお帰りです。お父様の姿を見つけて、バイオレットが一番に飛び出して行きました。
「おかえりなしゃいませ!」
「ただいま、レティ」
「お帰りなさいませ! 早かったですね」
「ああ。もうすでに捕まえたも同然だったしね。後は護衛官たちに任せてきた」
確かに、これから先は護衛官さんたちのお仕事ですよね。
「では、後は報告待ちってところですね。サーシス様が出かけっぱなしだったから、レティが寂しがってましたよ」
「え? 本当!?」
「はい! おとうしゃま、かえってきてうれしいでしゅ」
「レティ〜! じゃあ、お父様と遊ぼうか!」
ご機嫌で抱きつくバイオレットに、旦那様もデレデレです。
「サーシス様、お昼ご飯はいいんですか?」
「一食くらい抜いても平気さ。レティ、何して遊ぶ?」
「おうまさんごっこ!」
「ん? お馬さんに乗りたいの?」
「ちがう!」
「じゃあ、どんな馬?」
「ほんものじゃなくて、おとうしゃまが、うまになるの」
「お〜、そっちかぁ。わかった」
「やったぁ!」
バイオレットは大はしゃぎでお父様馬に乗っていますが、それ、この国で一番高貴な馬ですよ。その人にそんなことさせられるの、バイオレットくらいですよ。なんつー贅沢な。
馬になってる旦那様も案外ノリノリで、
「いい手綱捌きだ。きっと本物の馬も上手に乗りこなすだろう!」
なんて、親バカ大爆発させてるからいいですけど。
晩餐後、ロータスがオレガノと一緒に別荘に戻ってきました。
「解決したか?」
「はい。没収した原石を見せましたら、あっさりと白状いたしました」
「そうか。それで、顛末は」
「まずは、調べた通り、現場長一人の犯行でございました。石が高価なものとわかっていたようですが、想像以上の価値があることまでは知らなかったようです」
「庶民すぎて価値がわからなかったようです」
ロータスの報告にオレガノが補足しましたが、何それわかりみしかない。想像を絶する貴重さ……あ、でも私ちょっと成長したんで、「これめっちゃ貴重なやつだ」くらいはわかるようになりましたよ! って、私のことは置いといて、報告の続きを聞かなくちゃ。
「たまにしか採れないので、採掘頻度が落ちてもわからないだろうと考えたようでございます」
確かに、今回こうして調べなかったら気付いてなかったですもんね。現場長、そういうところは頭いいな。
「フルール国内では足が付くので、他国で売ろうと考えていたようです」
他国……。アンバー王国あたりでしょうか。もはやオーランティアは存在しませんし、あったとしてもそんな財力ないでしょう。仮にアンバー王国だとしても、すぐに足がつくと思いますけどね。フルールとは国交が盛んだから。
「まあとにかく、すぐに解決できてよかった。現場長の処遇は後で考えるとして、早急に再発防止策を考えないといけないな」
旦那様とお義父様、ロータス、オレガノ、各々真剣な顔をして考え込んでいます。
「現場長の職は置かないようにしましょう。直接私のところに持って来させるようにすれば——」
「現場長がいなくなっただけで、班長が不正をしたら? もしくは掘り当てた坑夫が不正をするかもしれない」
オレガノの提案の弱いところを、旦那様が突きました。旦那様の言う通り、現場長がやっていたことは、やろうと思えば誰にでもできることですもんね。
もっと根本的に解決できる策があれば……あ! いいこと思いつきました!
「はいっ! サーシス様っ!」
「なんだい? ヴィー」
「掘り当てた人、もしくは班には報奨金を出すというのはどうですか? いつものお給料とは別に」
「報奨金か」
「そうです。掘り出した現物引き換えで。報奨金が出るならお仕事頑張れますし、なんなら採掘意欲も出るんじゃないでしょうか? 石を盗んでもリスクしかないけど、お仕事を頑張ればいいことがあるなら、悪いことをする気も起きなくなりませんか?」
ええとつまり、私が言いたいのは、『原石を掘り当てました』→『オレガノさんに持っていく』→ヴィオラ・サファイアなのか、ヴィオラの瞳なのかを鑑定する→鑑定結果で報奨が決まる、ということです。ネコババ犯になるよりお給料マシマシの方がうれしくありません?
「なるほど、ヴィーの提案、いいね」
「奥様の案を採用されますか?」
「そうだな、ためしに導入してもいいだろう。現場長の職は廃止、ヴィオラ・サファイア及び『ヴィオラの瞳』を掘り当てた者には報奨金ということで。それぞれ価値によって報奨金は変えよう。父上、いいですよね?」
「ああ、いいとも。では、予算はどこからもってこようか」
「宝石を売った利益からでどうでしょう」
「ああ、いいね」
旦那様とお義父様が即決したので、お給料の財源は確保されました。
「かしこまりました。細かいことは後ほど詰めましょう」
ロータスのメガネがきらっと光りました。これからまたバリバリ働くのでしょうか? 昨日は徹夜だったと思うので、そろそろ休ませてあげたいんですけど。
「ロータス、昨日から働き詰めじゃない? ちょっと休んだら?」
「大丈夫でございますよ。仮眠は取りましたので」
「ならいいけど……」
倒れないでくださいね、アマリリスに申し訳ないので。
これで鉱山の不正がなくなり、坑夫さんが働きやすい環境になればいいですね!
私たち的には、問題が解決できたのと同時に『ヴィオラの瞳』も手に入ったので、万々歳です。
ありがとうございました(*^ー^*)




