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気まずい晩餐

私とミモザは急いで旦那様を追いかけてサロンに向かいましたが、いやはやこれから何をお話すればいいのでしょう? 社交が上手いわけでもない私が、間をもたせられるとは思えないのですが~。ああ、ロータスを伝令に出すんじゃなかったわ、と今頃激しく後悔しています!

廊下を急ぐのは私たちだけではありませんでした。このお邸中の使用人さんたちがとっても秘かにバタバタしています。ずっと一緒に居るから判るようなものですが。そりゃあみんな慌てますよね~。帰ってくるはずのない旦那様が帰ってきたんですから!


サロンではすでに旦那様がソファで寛いでいました。あ~もう、どれくらいここで場を繋がないといけないのでしょうか? 気が気ではありません。

「お待たせいたしました。ああ、お茶をお淹れしますね」

「ええ。お願いしますよ」

とりあえずはおもてなしその1、美味しいお茶を飲んでいただきましょう。これで時間稼ぎをしようと思ったのに、

「奥様、私がやりますわ」

そう言ってニッコリ笑うミモザが私の手から茶器を奪いました。なに? ミモザは私にすぐさま旦那様と一騎打ちをしろというのですか?!

「……お願いね」

でもお茶を淹れるのは本来侍女の仕事。泣く泣く譲ります。むむ~、何かほかに用事はないでしょうか。そうだそうだ、おもてなしその2、美味しいお菓子を召し上がれ、ですよ!

「じゃあ、私はお茶菓子でも用意……」

いいこと思いついたと、さっそく踵を返しかけたところで、

「それも私がいたしますから」

いい笑顔のミモザにぶった切られてしまいました。あ~あ。

「……じゃ、お願いね」

残念感は顔に出してはいけません。悪あがきはやめて、ちょっとばかり引きつり笑顔ですが、この間のように旦那様の斜め向かいのソファに腰かけました。


しかし私の心配は杞憂に終わりました。というのも、お茶の用意ができやらないうちにロータスが私たちを呼びに来てくれたのです! いや、わりとマジで今日はロータスに後光が差して見えました。ロータスだけではありませんね。普段は私ときゃぴきゃぴ和気藹々と仕事をしている使用人さんたちですが、やはり天下の公爵家の使用人だけあって、いざという時の実力はすごいですね! 惚れ直しましたよ!


メインダイニングに移動し、それぞれ席に着きます。

旦那様はいわゆるお誕生日席ですね。上手かみてに座られます。私は相対した下手に座りました。いや、ダイニングテーブルが大きくてよかったですよ~! 初めての日に『この無駄に大きなダイニングテーブルは何?!』って思いましたが、今となっては旦那様との位置が遠いのでありがたくさえ感じます。


「今日は何をなさったのですか?」

最後のデザートが運ばれてきてようやく、旦那様が私に聞いてこられました。え? それまでは何話してたのかって? それまでは『美味しいね』とか『これも郷土料理?』とか、そんなあたりさわりのない会話しかしてませんよ! 本来会話は料理と料理の間に楽しむものですよね。そこを色々理解してくれているカルタム以下使用人さんたちが気を利かせてくれて、料理と料理の間をびっちびちにつめて運んできてくれたのですよ。食べ終わったらハイもう次の皿待ってます~みたいな? まるでわんこディナーみたいでしたが。

さすがに旦那様は怪訝な顔をされていましたが、私は気付かないふりをしてひたすら食べ続けていました

。そしてデザートという段になってようやく先程の旦那様のお言葉なのです。

「今日、ですか?」

「はい」

「今日は天気がとてもよかったので、庭園を散歩したり、お昼寝をしたりしました。お昼もテラスでいただきました!」

えーと、いろいろオブラートに包んでおります。庭園に行ったのは事実ですが、ベリスや庭師のみなさんに紛れて雑草引きなどをやっておりました。天気がいいので日焼けしないかとオロオロするミモザに日傘をさされながら。そのままみんなで賄ピクニックをし、疲れたのでテラスで惰眠を貪ってしまいました。

自分で綺麗にした場所に、自分のお気に入りのお花を植えるのが愉しいこと愉しいこと! ……あ、これは旦那様には言えませんね。

あ~、早くあの花咲かないかしらなんて思ってたらついニヤけてしまいました。

「楽しそうで何よりです。庭園、ずいぶんと様変わりしましたね」

ニヤついているのがおかしかったのでしょう、しっかりと見られていたようでばっちり目が合ってしまいました。しかもキラキラな微笑み付きで。

「そうですね。ベリスがいろいろよくしてくれますから」

しかし私の発言を聞くと、すぐさまそのキラキラ笑顔は収納されてしまいました。

「ふうん。そうですか」

あれ。自分で振っておきながら何だか気のない返事ですね。あ、社交辞令で話を振ったんですね! だから話を広げるなってことですね。すみませんね、いろいろ気が利かなくて。


それからは黙々と食後のお茶を飲まれた旦那様。長い脚を優雅に組み、椅子の背にもたれかかって寛いでいる様は、ほんと絵になります。

その優雅な様子を見守りながら、次の疑念がむくむく沸いてきました。


……コノヒト、この後どーすんだ?


多分私だけではないと思います。そっと壁際で控えているロータスを見ると、ロータスがわずかに頭を振りましたから。ダリア、ミモザ、以下同じ。

これは動向を見守るしかないのか、それとも意を決して私がお訊ねするのか。


これはどうしたものかと考えながら見守っていると、お茶を飲み終えた旦那様が、音もなくそれをソーサーに置き、


「では、私はこれで失礼しますね」


そう言って腰をあげました。次の動作に入ったもののこれだけではまだ情報が足りません。ひょっとしたらご自分のお部屋(私が使っている部屋とは書斎を挟んで反対隣りに旦那様専用のお部屋があるのです)に下がられるのかもしれないですし。

「別棟に、ですよね?」

ここはみんなを代表して私が聞きました。

「はい、そうですが」

念押ししたのが気になったのか、クイッと片眉をあげる旦那様。

みんな、聞きましたね~! 別棟に戻るそうですよ~! いや、よかったよかった。このままこちらにおられると、生活のペースが乱されるというかなんというか、もごもごもごもご……。

こほん。

とにかく、別棟にお帰りになるということで、みんなでこぞってエントランスまでお見送りです。


「では」

ロータスが開けてくれた扉をくぐる前にこちらを振り返った旦那様に、使用人一同満面の笑み付きで、

「「「「お休みなさいませ! 旦那様」」」」

腰の角度は45度! しっかりとごあいさつしました。

「お休みなさいませ」

もちろん私も満面の笑みですよ!

「……」

あれ。旦那様がビミョーな表情をされていますが、見なかったことにしましょう。そのまま踵を返すと、エントランスを出て行かれました。


ぱたむ。


静かに扉が閉まりました。ロータスはしばらくお見送りをするということで外に出ています。

「……びっくりしたわねぇ……」

一応声を潜めて、私が言いました。

「本当ですわ。旦那様がこちらで晩餐をお召し上がりになられたなんて、何年振りでございましょう?」

ダリアも声を潜めて呟いています。

「どういう風の吹き回しでしょうねぇ」

ミモザも不思議顔です。

「さぁ~? まあ、単なる気まぐれでしょう。ああ、もう疲れちゃったわぁ。みなさんもごめんなさいね。お夕飯まだでしょう? もう解散にするからゆっくりしてね」

「「「「はい! ありがとうございます」」」」


結局のところなぜこちらで晩餐を食べて行ったのか判らないままでしたが、とりあえず私以下全員が疲れていたので、深く考えずに解散することにしました。


今日もありがとうございました(*^-^*)

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ええ。お願いますよ」 コメントを残そうと来てみました。 指摘済みでした。 お後が宜しいようで…。
[気になる点] サーシス「~お願いますよ」          ↑          し
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