お掃除日和
今日は旦那様のお休みの日です。
平和な日々が続いているので、旦那様もお休みがきちんと取れています。
以前はどうやって過ごそうかいろいろ悩みましたが、最近はお屋敷でまったり過ごしたり街にぶらっと散歩に出たりと、ずいぶん普通に過ごせるようになりました。まあたまーに、旦那様のお買い物に付き合ったりもしますよ!
で、今日ですよ。
「今日は何かしたいことある?」
「掃除! って、あ、すみませんついうっかり」
朝食の席で旦那様が聞いてきたのに即答した私。おっと、やっちまいましたね。
私がそんなことを即答したから旦那様があっけにとられてますが、即答するには訳があるんです。
というのは、最近雨続きで掃除洗濯させてもらう暇がなかったせいなんです!
雨といえば、はい、お分かりですね。まだやってますよ、雨の日レッスン。
「最近晴天続きでレッスンしていませんでしたから、鈍っておいでですね」とか言われて、厳しいロータス先生のダンスレッスンやってました。に、鈍ってなんかないもんちゃんと踊れるもん!!
他にも体術やったり剣術やったりと忙しかったなぁ……って、ちょっと遠い目になるわ。なんで年に二回も雨季あるかな。
そして今日、久しぶりの晴天なんです掃除洗濯日和なんです!!
だからつい、うっかり☆
「掃除ねぇ……。ヴィーは好きだよね。そんなに楽しいもの? 僕も騎士団に入った頃は強制的にやらされたりもしたけど……そんな楽しいものじゃなかった気が」
旦那様が怪訝な顔して聞いてきました。
そりゃ旦那様みたいな生まれた時からお坊っちゃまは掃除なんてしたことないでしょうよ。私の場合は止むを得ずですが、でもこれが結構嫌いじゃないんですよね〜。
「楽しいですよ! 汚れているところはなんていうか、悪いものが溜まってる感じがするので、そういうのを綺麗にすればすっきりさっぱりするし、そうして綺麗になったお部屋なんかは気持ちいいし、気持ちいい部屋だと健やかに過ごせるし、いいことずくめです! それを自分の手でできる……素晴らしい」
ええ、掃除について熱く語らせていただきました。
「そうなんだ」
「そうなんですよ、案ずるより産むが易し。サーシス様もちょっとやってみます?」
「え、僕が?」
「そうです!」
「う〜ん、これといってやりたいこともないし……まあ、いいか」
「さすがサーシス様!」
私と旦那様は軽くレジャー気分で掃除なんて言ってますが、周りにいる使用人さんたちはギョッとしていましたね。
「「「「「マジか!? 奥様が掃除っていうのはいつも通りだけど、旦那様が掃除ってか!?」」」」」
そんな心の声があちこちからだだ漏れてきています。そして静かに、でも速やかにお屋敷の中に散っていきました。これは『旦那様シフト・お掃除バージョン』実施ですね☆
何をしようか旦那様と相談した結果、とりあえず一番簡単な窓拭きをすることにしました。これなら使用人さんたちの邪魔にもならないしね!
庭園からもらってきたシネンシスの皮を使って汚れを取り、後は雑巾でキュッキュと磨いていくだけの簡単なお仕事です。
「この皮の部分をこうしてガラスの汚れに擦り付けてから、雑巾でキュッキュと拭けば……ほらっ!」
私が簡単に見本を見せると、
「へえ。きれいになるもんだね〜」
と、旦那様に感心されました。
「ね? 簡単でしょう? じゃあサーシス様もやってみてください」
「わかった」
そう言って素直にガラス磨きを始める旦那様です。まあ特にコツとかないですからね、簡単なもんです。
「こうしてみると、うちの屋敷は掃除が大変だなぁ。やたらガラス多いし」
「そうですねぇ。しかも高価なものも多いから、掃除するのに気を使いますしね」
「それは……窓拭きと関係なくないかな?」
おしゃべりしながら手の届く範囲を私と旦那様で拭いていると、
「この、上の方っていつもどうやってるの?」
旦那様からの質問がきました。
いくら旦那様の背が高いからって、さすがに上の方は届きません。
「あ、それは脚立に乗って掃除してます」
「なるほど」
それは私じゃなくて使用人さんが、ですけどね! 今ならしれっとさせてもらえるかもしれませんので、『誰が』というのはあえて言いませんでした。
「ちょっとやってみましょうか?」
「ヴィーが?」
「はいっ!」
周りの使用人さんたちがギョッとしたのが見えましたが、幸い旦那様からは見えていません。しめしめ。
使用人さんたちに止められる前にそそくさと脚立を持ってきて、実演開始です。
「おお〜。届く届く。ああ、そこに汚れが〜!」
「ヴィー、無理はしないで」
「大丈夫ですよ〜」
少し離れたところに大きな汚れを見つけました。これは磨きがいがあるってもの。でも頑張って手を伸ばさないと届かないところにあるので、バランス気をつけないといけませんね!
下で脚立を支えてくれている旦那様がハラハラした声を出しています。大丈夫、ちょっと手を伸ばすだけですよ!
体の支えにとガラスに手をつき、もう一方の手を精一杯伸ばしたところでようやく届きました。
「よ〜し、届きましたよ! ……うわっ!」
「あぶないっ! ぐぇっ!」
汚れを拭き取ったところで体を支えている方の手が滑り、体勢を崩した私は足も滑らせ、見事に落下してしまいました。
とっさに旦那様が抱えてくれたので大事には至りませんでしたが、すみません、旦那様を下敷きにしてしまいました。やっぱり旦那様はこういう時でもちゃんと私を守ってくれます。頼りになりますね! ……違くてっ!
「キャー! サーシス様! ごめんなさい〜!」
旦那様の上から飛び退き抱え起こせば、
「だから気をつけろって言ったのに。——本当にこれを普段からやってるのかな?」
笑顔だけど低い声で旦那様に聞かれました。あ、怒ってますよね……。
普段からやってると答えれば、使用人さんたちが怒られるパターンですよね、これ。
「いつもは使用人さんたちがやってます。ワタシ的にはやりたくてウズウズしてるんですけど」
「やっぱり。今日は僕がいたからいいけど、これからヴィーは脚立禁止だ」
「ええ〜っ! って、それもうすでにみんなから言われてます」
「やっぱり。使用人、グッジョブ」
旦那様が周りで掃除している(と見せかけて見守っている)使用人さんに向かって親指立てています。
使用人さんたちも真面目な顔して頷き返してるし。ええ、脚立危険とか言って誰も乗らせてくれませんよ!
しかも今日、旦那様の目の前で落ちちゃったからもう絶対に乗せてもらえないんだろうなぁ。あ〜あ、自分でチャンスを潰してしまったわ。とほほ。
それからはおとなしく脚立なしで手の届く範囲を掃除しました。
「旦那様、隅っこもちゃんと拭いてくださいよ!」
「え、ちゃんと拭いたよ?」
「ほら、見てください」
そう言って私は桟のところに指を滑らせました。ほら、埃が残ってる!
「ヴィー……」
「あ、ちょっとやってみたかっただけです。満足しました☆」
次はモップで大理石の床磨きです。
バケツに汲んである水にモップを浸してしっかり絞ります。びちゃびちゃだと床が滑って大変なことになりますからね。
「固く絞ってくださいね〜」
「こう?」
「…………」
私がお手本を見せると、旦那様は軽い力で私より上手に絞ってしまいました。うん、立つ瀬ないよ!
「僕だっていちおう、騎士団で掃除っぽいものは経験してるからね!」
私がジト目になったのを、旦那様が慌ててフォロー入れました。ええ、器用な人は何やっても器用なんですよ、知ってますよ。
「絞ったモップで、こう!」
私が先に実践します。
「力仕事は任せといてください」
「もっと腰入れる!」
「ふむ。なかなか骨のいる仕事ですね」
旦那様は力強さもあって、私よりもきれいに磨いていきます。くそう、私の方がお掃除歴長いのに……! なんだか悔しい。
それから昼食の時間まで、たっぷりお掃除して過ごしました。
「楽しかったですか?」
「まあ、自分が掃除したところがきれいになっていくのは気持ちよかったかな」
「またやりましょう!」
「いや……それはもういいよ」
旦那様のおかげで(?)お屋敷もピカピカになったことだし、午後はワタシ庭園でゆっくりと過ごしたのでした。
今日もありがとうございました(*^ー^*)
よいお年を!




