騎士団のパーティー
今日も美味しくカルタム特製の晩餐をいただいている時でした。
「来月の初めに騎士団創立記念日のパーティーがあるので、準備しておいてくださいね」
旦那様が突然社交命令を出してきました。
必要最低限の社交だけでいいとお墨付きをもらっているので、これは『出ないといけない系』なんでしょうねぇ。
「準備というのはドレスとかお飾りですか? 心の準備ですか?」
「ヴィーの場合はどっちもでしょう」
おかしそうに笑われてしまいました。ええ、心の準備大事ですよ! できるだけ参加したくないですもん。
「わかりました。はぁ……。そのパーティーはサーシス様だけで参加……」
「それはできないなぁ。なにしろパートナー同伴だからね。僕だってヴィーを騎士団の男どもの目に晒すなんて極力避けたいところだけど」
「そんなこと大真面目に言わないでくださいっ! もうっ! ああでも、騎士団のパーティーだったらお姉様方にお会いできますよね? それは楽しみです」
お姉様方はドレスで着飾ってこられるのでしょうか? それともいつもの凛々しい騎士様姿でしょうか? どっちにしても眼福ですけどね!
お姉様方の麗しい姿を妄想してニマニマしていると、
「むさい男どもが多いから、ヴィーは僕から離れちゃダメだよ」
真面目な顔して釘を刺してくる旦那様です。
騎士団といえば、『激励会』の時に私をナンパしてきたのも騎士様でしたね。そうか、私がしっかりしないと、また旦那様の犠牲者が増える……。
旦那様は制服を着るので、私だけドレスを新調することになりました。いつも通り、旦那様の制服の臙脂色に合わせたドレスです。
お飾りは、先日いただいた『ヴィオラの瞳』の首飾りと耳飾です。って、やっぱりこれ自分で言うのはこっ恥ずかしい!! 名前、考え直してくれないかなぁ。
出来上がってきたドレスを試着していると、
「あのう……とても申し上げにくいのですが、パーティー当日はわたくし、奥様のお手伝いができませんの」
ステラリアがとってもばつが悪そうに言いました。やけに歯切れが悪いですが、いつものステラリアらしくないですね。
「その代わりわたくしとミモザとアマリリスがお世話させていただきますね」
すかさずダリアがフォローしています。
「ありがと、ダリア! じゃあ、その日はステラリアはお休みなの?」
「申し訳ございません。奥様の用事がある場合は、極力お休みをいただかないようにしているのですが」
「あらそんなこと。臨月だけどミモザだっているし、ダリアだって他の侍女さんたちだっているから気にせずお休みとっちゃって大丈夫なのに。でも今回に限ってどうしたの?」
私は首を傾げました。
ステラリアが普通にお休みの日なら「明日はお休みをいただきますね」くらいの軽い報告なのに。
しかし、なんと。意外な報告が。
「わたくしも騎士団のパーティーに行くことになっておりまして……」
いつも冷静なステラリアが真っ赤です!! おおっ? これは何かロマンスめいたものか!?
「ええっ? そうなの??」
「はい……」
「ちょ、それより誰と? 誰と行くの?」
「奥様、今日はやけにグイグイきますね……。あの……ユリダリス様と……」
苦笑いしたステラリアですが、その口から出てきたのはとっても意外な人物! なんと、あの、ユリダリス様!?
「きゃ〜〜〜!!! ユリダリス様ですって!? サーシス様の部下さんの?」
「はい……」
興奮しすぎて『きゃー』が『ぎゃー』に近くなりましたね。落ち着こう、私。
大きく息を吸って気持ちを整えて、うん、よし。
「いつの間にそんなことに?」
「いつの間にって言われたら、いつなんでしょうか……ちょっと微妙ですが」
「ダリアは知ってるの?」
ぐいっとダリアの方を見て聞けば、
「はい、存じております。といっても先日知ったばかりなのですが」
ダリアが頷いています。ふむ、もう親公認なんですね!
「まあまあまあまあ! ロマンスじゃないの〜! 後でたっぷりお話を聞かせてちょうだいね! それよりも、ステラリアは着ていくもの決まったの? よかったら今からでも一緒に作りましょう」
どうせなら一着も二着も変わりませんよ、ステラリアの分もマダム・フルールに注文しちゃいましょうと張り切ったのですが、
「それはユリダリス様がプレゼントしてくださいましたので……」
なんてはにかむステラリアってばかわいいっ!!
「ごめん。私、もう馬に蹴られとくわ」
つか、ユリダリス様ったらこんな素敵なステラリアに目をつけるなんて、なかなかお主やるのぉ。
そしてやってきましたパーティーの日。
ステラリアはユリダリス様が迎えに来て、随分先に出かけて行きました。一緒に行けばよかったのに〜と言いたいところですが、ラブラブな二人を邪魔してはいけません。
私はダリアたちに手伝ってもらって戦闘準備……違う違う、ドレスアップです。
「向こうで会うステラリアは、いつもとちょっと違うんだろうなぁ」
「粗相をしでかさないとよろしいのですが……。何かあればよろしくお願いいたします」
ダリアが心配そうに言いました。
「私ならまだしも、ステラリアに限ってそれはないわ」
どう考えてもフォローされるのは私のような気がします。
お支度を終えて旦那様の待つサロンに行けば、
「今日も素敵だね、僕のヴィオラは! やっぱり騎士団のヤツらに見せるのがもったいない」
そう言ってぎゅーっと抱きついてくる旦那様。もうこれお約束ですよね!
「じゃあ行くのをやめておきましょうか!」
「そうしよう!」
と、ここまではいつもと同じ流れで、そろそろロータスの冷たいツッコミが入るところなのですが、今日の私は一味違うのです!
「あ、今日はダメですよ行かないといけないんです」
「どうしたヴィー!? 熱でもあるのか!?」
キッパリと旦那様の甘い誘惑を蹴飛ばすと病気を疑われました。おかしい。
「だって、今日はステラリアがユリダリス様と一緒にパーティーに行ってるんですよ、見守らないと!」
「そこか!」
人が真面目に言ってるっつーのに、旦那様からガクッと力が抜けました。
今日のパーティー会場も、王宮の大広間です。
「騎士団といえば、僕の不在の間に不届きなヤツらがいましたからね。いいですか、なるべく僕から離れないでくださいよ」
やっぱり旦那様、例のナンパ事件を覚えてましたね。会場に着いて早々に念押しされました。
「はい」
私だって、旦那様のそばにいれば、ひっきりなしにくるダンスのお誘いから逃れられますからね! ニッコリ微笑んでお返事します。
まずは旦那様と一緒に軍部のトップである兵部卿様にご挨拶です。
その後騎士団長様、近衞騎士隊長様と、順に挨拶をして回りました。これで今日のお仕事終わりじゃね? 帰ってもよくね? って、まだパーティーは始まったばかりですねスミマセン。
お仕事終えたし、どうしましょうかと旦那様と相談していたら、
「副隊長! 探していたんですよ。奥様、お久しぶりでございます!」
声をかけてきたのは、真紅のドレスがよくお似合いのアンゼリカ様でした。ということは、今日のお姉様方はドレスなのですね! 華やかなドレスが超お似合いです〜! よだれでそう。
「アンゼリカ様。お久しぶりでございます」
「奥様、後でいっぱいお話ししましょうね。申し訳ございませんが、ちょっとご主人様をお借りします」
「どうぞどうぞ〜」
「くっ……ヴィー。……先に楽しんでいて」
「は〜い、わかりました!」
旦那様が辛そうな顔してアンゼリカ様に連行されていきます。今日はパーティーだというのにお仕事のお話なんて大変ですねぇ。
さて、旦那様と離れた私。どうやって時間潰そうかな〜、そうだまずステラリアを探そうと考えたところで、
「ああ、フィサリス公爵夫人ではありませんか! 是非私と一曲お願いいたします」
「喜んで」
社交モードが身についてるな、これ。もはや反射的に返事している自分が怖い。
相手の顔見る前に返事しちゃいましたが、改めてそのお顔を見ると、それは旦那様の部下さんの一人でした。何度かお屋敷に来てくださってる、特務師団の時からの部下さんです。知らない人じゃなくてよかった〜。
ホッとしたら自然と笑顔になりました。
それからも次々と誘われて、私、休む暇なく踊り続けております。どの方も旦那様の部下の方ばかりだったので緊張はしませんでしたが。
途中、ユリダリス様と踊るステラリアを発見しましたが、馬に蹴られるのは嫌なので、そっと遠くからニヤニヤ見守ることにしました。
私の見知ってる旦那様の部下さんは、ほぼ全員踊ったんじゃないでしょうか。
かなり疲れてきたのでそろそろ帰りたいのですが、旦那様が戻ってきません。つか、今日ここに来た時『僕のそばから離れないで』とかなんとか言っておきながら、あなた一瞬もそばにいてませんよ。
曲が終わったのでちょっと休憩しようかなと思っていると、
「次は僕と踊ってくださいね」
そう言って私の手を取ったのは……旦那様。やっと戻ってきてくれましたね! でも遅いっ。
「あの……私ずっと踊りっぱなしだったのでさすがに疲れてしまいました。そろそろお暇したいのですが」
最近上手くなってきたお願いモードで旦那様を見上げます。ちょっと瞳をうるうるさせるのがポイント☆
一瞬詰まった旦那様ですが、
「……わかりました。暇乞してきましょう」
心なしかその濃茶の瞳も潤んでいる気が。
二人で暇乞をして、パーティー会場を後にしました。
あ。お姉様方とおしゃべりする時間がなかった!! 残念です。
今日もありがとうございました(*^ー^*)




