奥様は見た
すっかり使用人のようになってきたヴィオラ(笑)
旦那様が残念です。ごめんなさい。m( _ _ )m
次の日も、私はお仕着せを着て張り切って邸の中をあちこち動いていました。
しかし私、自分で言うのもなんですが『セレブ奥様』というよりは『侍女』もしくは『使用人』みたいになってきたように思いますね~。でも楽しいからいいのです!
今日は飾りつけのお花を替えようと、私はダリアと共に庭に出て行きました。何がいいかあつらえ向きの花を聞こうと庭師長のベリスを探して庭園をあちこち彷徨っていると、いつの間にか今まで来たことのない場所に出ました。
何といっても公爵家の庭園は広いのです。
いつか迷子になりそうで恐々としています。一人で庭園に出る時は、もしもの遭難に備えて非常食でも持っていた方がいいかしらなんて本気で考えているくらいにね!
おおっと、話が逸れてしまいました。
とても広大な庭園なので、高々一週間くらいじゃ全部を把握するのが不可能なのですよ。
そこは木立やちょっと茂みに隠された一角でした。
本館の方向からは上手いこと見えないようになっています。
小さな池があり、そのほとりに小さいけれど瀟洒な建物が建っています。池には水車があり、小川も流れ出していて、ちょっとした離宮のようです。田舎の小さな家とでもいいましょうか。それでも実家より綺麗で泣けてきますが。
池に面してウッドデッキがあり、そこにはパラソルやソファが置かれています。
そこに見つけた二つの人影。
向こうに見つからないように、私とダリアはささっと背の低い灌木の茂みに身を隠しました。そして下に落ちていた、まだ葉のついている枝を拾い、カムフラージュにしてそっと茂みの上から向こうを覗きました。
見つけた人影は旦那様と女の人でした。
「まるで密偵にでもなった気分だわ」
ウキウキしながらダリアに言うと、
「これは出歯亀では?」
ぽそりとつぶやくダリア。聞こえなかったことにしましょう。
「ねえ、あの建物が別棟で、あの女の方がカレンデュラ様?」
私の横で、私と同じように枝をカムフラージュにしているダリアに声を潜めて聞きました。
「そうでございます」
前のように、またダリアから冷気が漂ってきましたが、気が付かなかったことにしましょう。恐ろしいので顔が横を向きたがりません!
私とダリア、二人頭に枝をカムフラージュして二人を観察しています。というか、もっぱら私が興味津々で覗いているんですけどね☆ ダリアは嫌々です。
私たちが覗いているなんてつゆ知らず、旦那様とカレンデュラ様は仲睦まじげにいちゃこらしています。
「カレンデュラ様って、とっても妖艶な美女さんなんですね~! ボンキュボンていうのかしら? うらやましいわ。お顔も美人さんですね~」
「まあ、旦那様ったらカレンデュラ様に膝枕されてますよ!」
「まるで猫みたい」
「カレンデュラ様は旦那様を甘やかしておられるのね? おおっ! 髪を梳いたりなんかしてるし!」
一人潜めた声で二人の様子を実況する私。
「お連れ様は旦那様よりも4つほどお歳上ですから、可愛い弟のようにおもわれているのではないでしょうか」
私の実況に、投げやりな感じでダリアが言いました。その言葉が気になり、一旦観察を中断してダリアを見ました。
「あら、カレンデュラ様はお歳上でしたの?」
「ええ。確か28になられたと」
「そうなの。旦那様は姉さんがお好みなのね」
「さあ? どうでございましょう?」
また投げやりにダリアは言いました。綺麗なお姉さんが好みならば、私みたいに6歳も年下だとガキンチョにしか見えないでしょうね。しかもボンキュボンには程遠いつるぺた。まさにアウト・オブ・眼中!
ダリアとコソコソとしゃべりながらも、お二人の様子はしっかりと観察しています。
しかしまあ、なんというか。
客観的に見ていると『猫が毛づくろい』されているようなんですよね~。
旦那様、毛並みのいい大型猫……ぷぷぷっ!!
「旦那様って、猫属性?」
「はぁ?」
「ほら、甘えたさんで、気まぐれで」
そうやってみると大きな猫に見えてくるから不思議。
「以前はそんな方ではなかったんですが……」
ダリアが遠い目をしてつぶやきました。
「あら、前は違ったって?」
どういうことでしょう?
「はい。公爵家の一人子としてこれから先の公爵家を背負って立つ身なので、幼いころから先代様に付いて熱心に勉強なされていましたし、先代様も厳しくしつけておられました」
「ほうほう。よくある話ですね」
「そして少年になる頃にはすでに頼りになる跡目様と、誰からも期待されていたのですけど」
「ふむふむ」
「お連れ様と出会われてからというもの、すっかりフヌケになってしまわれて」
旦那様、フヌケ扱いです。ぷぷぷ。吹きだしそうになる口を、自らの手で押さえながら目で続きを催促します。
「それまで誰にも甘えることなく、甘やかされることなく育てられ、公爵家を背負って立つ人間として気を張っておられたのでしょう。お連れ様と出会って『公爵家の嫡男』という自分ではなく『サーシス』自身を受け入れてもらえて、その、肩ひじ張ることなく年相応に甘えることの喜びを知り、それに溺れてしまったのです」
「あら~」
厳しく律していた分、反動は激しかったってことですね。
「そこでほんのちょっと理性を働かせてくださればよろしかったのですけどね」
惑溺してしまったところが残念なところです、とダリアは続けました。
そうだったのですね。
サーシス少年(いや青年か?)、年上の包容力に骨抜きにされてしまったのですね!
「お連れ様は流浪の踊り子でした。いろいろと艶めかしい話も多々お聞きしています。そんな百戦錬磨なお方ですから、何も知らない初心な少年の心を掴んでしまうことなど容易いことだったのです」
「そして今に至るわけですね。にしても長く続いてますよね~」
確かもう6年も続いているんでしたっけ? そんな人ならば熱しやすく冷めやすいでしょうに。
「周りが反対すればするほど燃え上がるというものなのでしょう」
なるほど、確かに。
「なるほどなるほど。でもお見受けした感じではとっても仲睦まじそうなので、そっとしときましょう」
「ええっ?! 奥様はそれでよろしいのですか?!」
私の発言に驚き目を見張るダリアです。
「ええ。そういうお話になってますし、私自身も旦那様を好いているとかそういう感情がないのですもの」
ここ、大事なところです。
私と旦那様は恋愛感情なしに契約で夫婦になってるんですから!
「やはり旦那様、手を打っておいででしたか」
悔しそうに言うダリア。
「対外的にはちゃんとするから安心して? それに私、ここでみんなと暮らすことが楽しくなってきたから、旦那様がいなくても平気よ?」
「それはちょっと方向性としてずれているような気がいたしますが、でもありがとうございます」
ダリアが苦笑いします。
「そうよ。さ、もうそろそろベリスを探しに行きましょ。すっかり油を売っちゃったわ」
そう言うと私たちは、しばらく腰をかがめて、かつ気配を消しながら、別棟から離れて行きました。
ここで見た旦那様と、外での旦那様(あくまでも伝聞)のギャップの大きいこと! あ、私ギャップ萌えとかしませんよ?
今日もありがとうございました(*^-^*)
本宅と別棟は、ヴェルサイユとプチ・トリアノンをもう少し縮小した感じのイメージです。
(^-^)
旦那様。久しぶりに出てきたと思ったら残念至極でした。スミマセン(汗)




