第31話 決着
やっと共闘関係を結んだ新とハルの組は不退転の覚悟でSAIラプシェ組に挑んだ。
戦闘は熾烈を極め一進一退の攻防の末ラプシェがやや有利という様相であった。
「あの状態から逆転されるとは………」
HPゲージを見つめて新が唸る。
逆転のキーになったのは前蹴り。
サービス開始当日から何回も対戦しているラプシェだが、蹴りを使ってきたことは今日まで無かった。
おそらくは最近取得したはずのそのスキルをSAIは絶妙なタイミングで使ってきたのだ。
予想もしていなかった攻撃。
それが逆転を許すきっかけになったのだ。
「うう~~~」
コンボでHPを削られたハルが檻に入れられた獣のような唸り声を上げている。
その顔は悔しげに歪んでおり、ハンマーを構えるラプシェと距離を保って睨み合っている。
HPは互いに四分の一程度。
一撃二撃は耐えられても、それ以上の連続攻撃を食らえば一気に決着がついてしまう。
お互いにそれが分かっているからうかつに動けないのだ。
「ハル。逆転されたが攻撃自体はすごく良かった。焦らなくていい。じっくり攻めよう」
明らかにイラついている様子のハルに新が声をかける。
ハルはちらりと新を見るとコクリと頷いた。
獣の唸り声が収まり、静かに拳を構え直す。
ほう………。
それを見たSAIは感心した。
一日会わなかっただけなのに、新とハルのパールは見違うほどの協力関係を築いていた。
おそらく昨日の間に決定的な何かがあったのだろう。
だが、相棒との連携ならまだまだこちらが上だ。
「ラプシェ! アレをやるぞ!」
「! はい!!」
SAIの鋭い声にラプシェがその童顔を引き締めハンマーを強く握る。
そして一気に駆け出した。
「なっ?!」
新は驚く。
ラプシェの移動速度は遅い。
そのため普段はカウンターに徹し、自分からは攻撃してこなかった。
だが今ラプシェはハンマーを構えて真っ直ぐに突っ込んできていた。
このように正面からハンマーで攻撃してくるなら、敏捷性の高いハルにとって回避は容易い。
いったい何を考えてるんだ?
新が指示をためらったその一瞬にそれは起こった。
「てええええーーーーーいい!!」
どこか間の抜けた掛け声とともにラプシェがとった行動は完全に新の予想を超えていた。
なんと彼女は巨大なハンマーをハルに向かって投げつけたのだ!
「ちょっ?!」
これはハルも予想外だったらしく目を剥いて一瞬硬直。
しかし寸でのところでなんとかガントレットをはめた両腕をクロスしてハンマーを受け止める。
その間に小柄なラプシェはハンマーの陰に隠れるようにして距離を詰めていた。
「やあーーーーー!!」
気合いの声。
ネコミミフードをなびかせ豊かな双丘を震わせながらラプシェは飛び蹴りを敢行。
鋭い爪先がハンマーに気を取られていたハルの腹部に突き刺さる!
「ぐっ!!」
衝撃に思わずその身をくの字に折るハル。
その隙にラプシェはハンマーを拾い、伸び上がるように下から上に振るう。
「下だ!」
短く叫んだ新の指示に間一髪ハルはその攻撃を防御。
ラプシェは手を緩めず嵐の様なハンマーの乱打が金髪の少女を襲う。
「ぐっ! この………!!」
ハルは体の前面に両腕を盾のように立てガントレットで耐え忍ぶ。
しかし防御していてもHPは少しずつ削れていく。
このままではじり貧か。
そう思われた時ハルが捨て身の行動に出た。
致命傷にならない程度、ハンマーに自らをあえて打たせ、その代わりに素早くラプシェの効き手を掴んだのだ。
さらにフッとハルの体がラプシェの腕の下に潜り込んだかと思うと猫耳フードの小柄な体が宙を舞う!
「きゃん!」
子犬のような悲鳴を上げ石畳に叩きつけられるラプシェ。
ハルの一本背負いだった。
この前新が習得させたトランクスキルがこの瀬戸際で役に立ったのだ。
それにしてもハルはすごい、と新は感嘆する。
あのハンマーの猛攻の中相手の利き手を掴むなんてすごい勇気だ。
やはりハルはその心に勇ましきライオンを宿しているニューマノイドなのだ。
「つぶれなさい!」
そんな新にお構い無しにハルは勇ましいというより恐ろしい、夜叉のような形相で倒れたラプシェに高々と足を振り上げたかかと落としを叩き込む。
さらにもう一発。
しかしそれは素早く横に転がったラプシェに回避される。
追撃しようとしたハルを、崩れた体勢からのハンマーで牽制し立ち上がるネコミミフードの少女。
HPは互いに残りわずか。
もう少しで二人は危険域のレッドゾーンに突入する。
「くっ!」
「逃がさないわよ!」
距離を取ろうとするラプシェにハルが追いすがる。
放たれた鞭のようにしなる蹴りをラプシェがハンマーでガード。
お返しとばかり放たれた前蹴りは僅かに身をひねったハルに躱される。
蹴り足を戻す反動を利用して放たれた回し蹴りはまたもやラプシェのハンマーの柄で防がれる。
一進一退の攻防。
しかしその時均衡を破る咆哮が響き渡る。
「ラプシェ! やれ!!!」
それだけの指示でネコミミフードのニューマノイドは理解した。
「『どっかんハンマーーーーーー!!』」
ラプシェの戦槌が青いオーラを纏う。
EXスキル。
食らえば完全に勝負の趨勢は決まる。
だが新の口元には不敵な笑み。
この日待ち望んでいた指示を飛ばす。
「今だハル! ぶちかませ!!」
ハルが即座に反応。
バトルグローブに覆われた拳をぎゅっと強く握りしめ、叫んだ!
「『フォース・フィスト!!』」
EXスキル発動。ハルの拳が青いオーラを放つ!
「はあああああああああーーーーーー!!!!」
「てやあーーーーーーーーーーーーー!!!!」
振りかざされる鉄塊と拳。
そして二人のニューマノイドのEXスキルが激突した!
ガヅンというような金属音が上がり、バチバチと青い火花が飛びちりハンマーとグラブが押し合う。
しかし膠着は一瞬だった。
力に劣るハルが押し込まれる!
フォース・フィストを弾かれラプシェのどっかんハンマーがハルを襲った。
「がっ!!」
フォース・フィストで威力が減殺されたためノックアウトまではいかなかったものの、ハルのHPゲージはレッドラインに突入。
毒々しい赤がゲージを彩り点滅する。
ハルの顔が苦しげに歪んだ。
絶体絶命の崖っぷち。
だが新は諦めていなかった。
「まだだハル! 諦めるな!! 俺達が勝つんだ! 勝つのは俺達だ!!」
ハッとしたようにハルの表情が変わる。
その口に浮かぶは、不屈のライオンの笑み。
「当たり前よ!! はあああああああ!!!!」
ハルがハンマーに弾かれていなかった左の拳を握る。
あとほんの少しでも攻撃が掠れば負ける。
そんな状況の中、ドン! と力強く一歩を踏み出す。
「『フォース・フィストーーーーーー!!!!!』」
ボオッ!
まるでその闘志が宿ったように彼女の左拳が青いオーラに包まれる。
ほぼ同時に新も叫んでいた。
「いけえええええええ!!!!」
二人の声がシンクロする中、技後硬直で動けないラプシェの顔面にEXスキルが叩き込まれる!
ドゴオッ! という凄まじい効果音とともにラプシェが人形のように吹き飛ぶ。
空中にまるでストップモーションのように弧を描き、小柄な体躯が石畳に跳ねた。
完璧なクリーンヒット。
拳を振り切った姿勢のハルと、バトルフィールドに倒れ伏すラプシェの間にゆっくりと文字が浮かび上がり、システムボイスが告げた。
HAL WIN!!
その瞬間新の背筋にゾクゾクと震えが走り抜けた。
ほとんど無意識に彼の両手が強く握り締められる。
「よっしゃあああああーーーーー!!」
喉から歓声が迸った。
今まで感じたことがないような、脳髄がしびれるような歓喜が体中を駆け巡る。
「やったあああーーーーー!!! 勝った! 勝った! 勝ったわ!!」
ハルもぴょんぴょんとアホの子のように飛び跳ね、挙句の果てにはくるくると側転を始めた。
大喜びである。
「負けた………か」
そんな新とハルを見ながら敗北したSAIは金髪の頭を掻きまわした。
その顔には悔しさとある種の清々しさを感じさせる笑みが浮かんでいた。
こうして新とハルの組は、SAIとラプシェに初めて勝利したのであった。
新・ハル組ついにSAI・ラプシェ組に勝利!
わあ~~~~ヾ(≧∇≦)/ やったーーーーーヾ(≧∇≦)/ヾ(≧∇≦)/
作者的にも待ち遠しかった初勝利です
読者の皆様はいかがでしたでしょうか?
もし少しでもワクワクしていただけたり、ドキドキしていただけたなら嬉しいですd(*^v^*)b
次回は戦闘後のあれこれです SAIがあの場面を解説しますぞ!




