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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
六章:動き出す歯車
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6-16

 顔をしかめたミヤビに首を傾げて見せると、モニターの隣に来るように目で言われた。

「どうしました?」

「……。楽しい時間はこれでおしまいのようね」

「え?」

 同じようにモニターを覗くと、支援要請が来ていた。出所は、偵察活動中の南支部の一隊からだった。

「……動けるのは俺ぐらいしかいませんよね?」

「そうね。こっちは、ヴィアとの調整で忙しいわ」

「了解しました。出撃します」

「行ってらっしゃい」

 そんな言葉に見送られて勇介は、部屋に戻り装備を整え、たまり場に赴き出撃を指示した。

「南を追っかけまわして遊んでるらしい」

「南か。珍しいこともあるもんだ」

「たしかにな」

 車内そんな会話をして、すぐに目標は確認できた。

「ユウ、どうする?」

「……結構多いな。奴ら暇なのか?」

 ぼやきながら無線を手に取って追っかけられている南の車と通信を試みた。すぐに返事が来るのはさすがというべきところだろう。

「とりあえず、東の連中引っ張り出してきた。割り込んで引き受け、殲滅する。体勢を整い次第参加してくれるか?」

『了解。どこにいる?』

「……タイミング見計らって突っ込む。大丈夫。俺らから見えてるから」

『見つかんなよ』

 見事なバリトンの声にうなずいて、フロントガラスの向こうを見据える。

「いいか、割り込んで、一斉にRPGか機関ブチ込めよ。二隊はRPGの煙で車が遮られないところで待機、残りを殲滅」

「ずいぶん派手だな」

「ジャミングの指示はもう出してある。多少派手にしても大丈夫だろう。……引っかかるところがあるとすれば、あそこ、旧市街地区が近くにあることだ。あそこに逃げ込まれたら、面倒くさい」

「……じゃあ、俺たちが待ち伏せしてましょうか? RPG積んでないし」

「積んでねえのかよ」

「どうせ、俺たちは近接戦闘の担当だからね」

「よし、行くぞ」

 ほかの車に指示を出して、勇介たちが乗った車は、ほど近い旧市街地区、廃墟と化した街の中に入る。

 今、国軍に追い掛け回されている辺りは、建物の老朽化で、立ち退き、取り壊された後、自然風化によって更地に戻ってしまった平地だった。

 昔は、周りのどこもかしこも建物だらけだったらしいが、今では、中心部を覗いて、コンクリートの破片が敷き詰められている更地が多い。

 きちんと処理されていたのが、その数が多くなるにつれて、不法投棄されることが多くなり、ついには、黙認する事態に陥っているため、どこか退廃的な雰囲気を漂わせている。

「なつかしーな」

「え?」

「ガキの頃、人が住んでる頃に来たことがあるんよ。結構あれちまってるな……」

 白茶けたアスファルトに、崩れかかったビル。時たま行われる戦闘で、一階部分が吹き抜けになっている建物もある。

「どこにいようかね」

「とりあえず、入ってくるかが分からないから、入り口に張るしかない。左右に展開」

「了解」

 二つに分かれて銃を構える。以後はハンドサインで連絡をする。

「車来たらどうすんだ?」

「エンジンぶち抜くしかないだろ?」

 背負ったショットガンを差して言うと呆れたような顔をした。そんな隊員を見て勇介は肩をすくめて返した。

「まあ、どうにかなるだろ。とりあえず、地雷置いとけ」

 対戦車用地雷を必ず通るであろう道に設置しておいて待つ。

「……そろそろだな」

 ほぼ同時に、RPGの一斉掃射による爆音が響いた。

「おお、やってるやってる」

 楽しそうな言葉に肩をすくめて爆音がやむのを待ち、サイトをのぞき込んだ。

「誰か、無線もって上で偵察行って来い」

「りょーかい」

 機敏に動いて、崩れかかったビルの上にひょいひょいと登っていくのを見て、ポツリと誰かが呟いていた。

「あいつ、サルの生まれ変わりか?」

「もともとバカザルだろ」

「……」

 と、登っていた彼がまた戻ってきて無線を担いで同じところに登っていく。

「……ほら」

「……」

 あきれてなにも言えない一同に勇介は苦笑を返して肩付けして安定化を図る。

「来そうか?」

「いや、ほとんど車はやられてんじゃねえか? 脱出した兵士がここに逃げ込むかもしれない。二人、国軍の通信設備探し出してつぶしておけ」

「了解」

 向かいにいた一人とこちらにいた一人がうなずいて消えていく。

「どうだ?」

『何人かやっぱりこっちに向かってきてる。人間松明もいるけどな』

「何人無事にこっちに来るか」

『どうだろ。あっちで掃射かましてるっぽい。んでも、十名弱はこっちに来るな』

「……捕虜とかいるかどうか聞いて」

『りょーかい』

 しばらくの通信を経て、二三人拿捕するのもいいだろうという判断が下った。

「総員に告ぐ。人間松明以外の死者の懐漁って札抜いとけよー」

 小砂利はいらないからな、とも言っておく。三途の川を渡る為の駄賃だ。

 ただの追剥だが、金はいくらあってもいいだろう。その指示に誰もが呆れたような返事をした。

「さっすが、抜かりないっすねー副チーフ」

「いじるなバカ」

 そういって勇介はため息をついて目を細める。足音が聞こえ始めた。

「何人来ている?」

『んー、五人。走ってきてる』

 どん、と腹に響く爆音に思わず振り返り、煙の上がった方向を見てまた視線を戻した。

『なんだ?』

「たぶん、通信設備のある建物爆発させたんだろ」

『ああ、早いな』

 向かいに待機している隊員に五人来ると教えてその時を待つ。

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